第18話 仮面の下は超絶美少女
「ヒャハハハッ!! どうした!! もう終わりか!? もう立てないなら治療してやろう!! エクストラヒール!! ほら立て!! お前たちの頭が治るまで何度でも治癒魔法をかけてやるぞ!!」
「ぐっ、うぅ」
僕は襲いかかってきた白装束たちを片っ端からボコボコにした。
特に頭を重点的に叩く。
あちらの攻撃は改造した肉体が弾くので、僕は防御の必要もない。
どちらが優位かは明白だった。
「やはり、貴様は……」
「ヒャハハハッ!! 少しは反省したか!!」
「ふ、ふふふ、反省か。この身に宿る呪いがマシになるならいくらでもしよう。でも、そうでないから我々はこうしている」
白装束はただ不敵に笑った。
呪い、また呪いか。いくら中二病でもここまでボコボコにされて設定を守り続けるのは尊敬に値する。
でもそれはそれ、これはこれ。
これ以上の攻撃は白装束を死なせてしまうかもしれないけど……。
やろう、そう思った時。
「そこまでにしてもらえませんか、ノーフェイスさん」
真っ白な少女だった。
その背丈から察するに、年齢は十二、三歳くらいだろうか。
純白のローブに身を包み、鏡の仮面を被った怪しい出で立ちだ。
ローブの隙間から見える桜色の髪と仮面の奥で光る青い瞳が穏やかな眼差しを僕に向けている。
びっくりした。
いつの間に僕の後ろに立ってたのかな。全く気付かなかった。
「はじめまして、ノーフェイスさん。ボクは白教の枢機卿『憤怒』のベルチカ。今回の首謀者です。以後お見知りおきを」
「あ、どうもご丁寧に」
そう言ってたおやかにお辞儀する少女に、僕も反射的に挨拶してしまった。
「少し歩きながらお話しませんか? ノーフェイスさん」
「ヒャハハハハハ!! 一つ訂正しておくぜ、俺は怪人ヒール男だ!!」
「あ、そういうの大丈夫ですよ。ボクには分かります。信徒どもを一瞬で制圧したその力、貴方がノーフェイスさんですよね?」
「違います」
「ふふ、ならそういうことにしておきましょうか」
この子、人の話聞かないなー。
「どうかそちらも身構えず、気を楽にしてください」
「……そっか。じゃあ素で話すね」
「わわっ、急に話しやすそうになりましたね」
ボコボコにした白装束たちは気を失ってしまったので、治癒魔法を施してからベルチカと学園の中を練り歩く。
先に口を開いたのはベルチカだった。
「まずは謝罪を。本来キシリカ王国は『嫉妬』と『強欲』が担当で、そもそもボクは訳あってあまり活発に行動しない派閥なんですけど……。さっきの信徒さんから貴方の話を聞いて、是非話がしてみたいと思って少々手荒な真似をしてしまいました。申し訳ありません」
「僕に謝られても困るかな。迷惑を被ったのは魔法学園だし。……というか君も中二病?」
「ちゅうにびょう……?」
「あ、気にしなくていいよ」
中二病の人間は自分が中二病である自覚がないものだと聞いたことがある。
実際に手下を率いて魔法学園を襲撃するような行動力のある中二病患者だ、下手に刺激するようなことは言わないでおこう。
「貴方は『白き神』をどこまでご存知で?」
「白装束の人たちが色々言ってたヤツだね」
「ではその正体については?」
「全然知らない。興味もないかな」
「あはは、奇遇ですね。実はボクも知らないんです。というか、ボクを含めた白教の七人の幹部ですらその正体を知りません」
いや、知らんのかーい。
「ただ分かっているのは、白き神は自らに贄を捧げた信徒の願いを叶えてくれる存在ということです」
「願いを叶える?」
「はい、本当に神様みたいですよね。ノーフェイスさんだったらどんなお願いをしますか?」
ふむ。
本人は至って真面目っぽいし、こっちも真剣に答えるべきかな。
「全人類が怪我も病気もしない世界にしてください、とかかな」
「わあ、素敵ですね!!」
「そうかな」
「でもとっても傲慢だと思います!!」
「あ、君って笑顔で人を刺せるタイプ?」
「はい!! もう結構やってますよ!!」
「やってんのかーい」
怖い子じゃん。
「やっぱり、ノーフェイスさんには資格がありますね」
「資格って?」
「白教の枢機卿たる資格です。どうですか? ボクたちの仲間になりませんか?」
「遠慮しとく」
「……理由をお聞きしても?」
僕まで中二病と思われたくないから。
と、中二病を患っている相手に言うのは流石にどうかと思うので適当に話を合わせて答える。
「贄を捧げなきゃいけないのが気に入らないからかな」
「……意外ですね。貴方は目的のためなら手段を選ばない人だと思ったんですけど」
「そんなことないよ」
「本当にそうですか? 貴方はこの世界の人間なんて、心底どうでもいいと思ってませんか?」
「そんなことないよ」
「いえ、貴方はそういう人です。少なくともボクは話していてそういう印象を受けました」
めちゃくちゃ決め付けてくるやん。
だんだん話すのが面倒に思えてきたその時、続くベルチカの言葉に僕は歩みを止めた。
「貴方が全人類に健康でいてもらいたいのも、貴方自身の何か嫌な記憶と重なるからでは?」
ベルチカの言葉が、僕の心の中でストンと落ちた気がする。
なるほど。
たしかにそう言われると、否定することができないかも知れない。
「そうだね。そうかも」
「改めてノーフェイスさん、ボクの仲間になってくれませんか?」
「……」
「貴方が仲間になってくれたら、誰も怪我をせず、病に苦しまず、死ぬことすらない永久の世界を作ることだって夢じゃありません」
死ぬことすらない世界、ね。
もし本当にそんな世界が実現するとしたら、ああ、とても。それはとても……。
「つまんないね、それ」
「……え?」
「誤解させちゃったみたいだけど、僕が誰かに健康でいてもらいたいのは、死んでほしくないからじゃないよ。これは僕の考え方だから、あまり真に受けないでほしいんだけど……」
ベルチカの鏡の仮面に写った自分の顔を見ながら答える。
「人間はね、死ぬことも含めて人間なんだ」
「死ぬことも含めて?」
「うん」
一回死ぬと分かることがある。
人間は生きている限り、死にたくないと考えてしまう生き物だ。
それは生き物として当然のことだと思う。
だから死なないために抗うし、自らの命を危険に晒すものは徹底的に排除しようとする。
「でも抗ったって人間は結局いつか死ぬ。どれだけ健康でも、どれだけ肉体を改造しても最後は必ず死ぬ。そういう風に作られている」
だったらいつか迎える死に後悔がないように、やり残したことができるだけ少なくなるように生きるべきだ。
死に抗えないなら、死ぬその時まで楽しく笑って過ごせる方がいいに決まっているからね。
「だから健康でいてもらいたい。何歳になってもやりたいと思ったことに挑戦できるように、ってのが僕の考えだよ」
「……なるほど。貴方はボクが思っていたより思慮深い人だったようです」
「褒めても何も出ないよ。あと念入りに言っておくけど、さっきのは僕の持論だから本当に理解してもらわなくて大丈夫だからね」
「いえ、お陰で知見が広がりました。ボクも少し賢くなった気がします」
ベルチカが仮面を外すと、クリスティーナやウィクトリアに匹敵するとんでもねー美少女の顔が出てきた。
「今日はありがとうございました、とても有意義な時間でした。またお会いしましょうね」
「あ、帰るんだ?」
「はい。さっきも言ったようにこの辺りはボクの管轄ではないですし、あまり長居すると『強欲』と『嫉妬』に文句を言われてしまいますから。あ、でも一つ警告を」
「何?」
「貴方が何十人もの贄を解放したことで『強欲』と『嫉妬』がとっても怒ってます。あまり夜道を出歩かないでくださいね。では、失礼します」
ベルチカが指を鳴らすと、その姿は忽然と消えてしまった。
白装束も全員撤退したらしい騎士団が魔法学園に押し掛けてきて、捕まっていた生徒たちを救出した。
いやまあ、中には片腕を切り落とされてしまった生徒もいるそうだけど……。
姉さんが治療したとのことなので問題ない。
「それよりあのベルチカって子……もしかして僕を
終始僕に友好的な態度だったのが気になる。
早急に精神魔法や記憶魔法を習得し、治療法を習得しなければ。
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あとがき
ワンポイント小話
作者「作者は作者が美少女にちやほやされる世界になってほしい」
アスク「うわ、正直……」
「まだ全員中二病だと思ってんの草」「仮面外したら美少女展開好き」「作者は欲望を隠せ」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
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