第16話 会議は踊る、されど進まず、怪人は突撃する
魔法学園が謎の武装勢力によって占拠された。
その報告を聞いた国王は、すぐに国の重鎮たちを集めて会議を開いた。
「騎士団長、状況の説明を」
「はっ。現在、謎の武装勢力は生徒を人質に取って学園の敷地内に立て籠っております。学園の侵入者対策の防壁が、そのまま武装勢力を守る壁になり、迂闊に手を出せないのが現状です」
「学園の生徒は全員捕まってしまったのか?」
「いえ、一部の生徒が旧校舎にバリケードを作って立て籠っているようです。まあ、賊の手に落ちるのは時間の問題でしょうが……」
「……ふむ。せめて旧校舎にいる生徒たちだけでも助けることはできないか?」
「旧校舎は学園の敷地内でも中心部に近い場所にあります。仮に壁を超えて救助に向かうにしても、全員逃がすことは不可能かと」
騎士団長の報告が終わり、集まった重鎮らが騒ぎ始めた。
「ええい!! 警備員は何をしていた!! 王国中の貴族が通う学園なのだぞ!!」
「警備員も無力化され、生徒と同様に捕まってしまったようです。彼らは皆『剣聖』ガムラン様の弟子たち、相当な手練れがいるのかと」
「む、むぅ、それほどの相手なのか」
ガムランって誰よ。
いやまあ、剣聖って如何にも強そうだし、僕が知らないだけで有名人なのかな。
「さっさと王都に駐留する全騎士団を派遣して数で武装勢力を制圧するしかあるまい!!」
「事はそう単純な話ではない!! 人質がいるんだぞ!! それもキシリカ王国の未来を担う貴族の令息令嬢だ!!」
「ならばこのままテロリストどもの言いなりになるつもりか!! それでは王国の権威は地に落ち、他国に付け入る隙を晒すことになる!!」
「そもそもテロリストどもの目的はなんだ!! 学園を占拠して半日も経つのに、未だ何の声明もないとは!!」
重苦しい空気の中、会議は続く。
その会議を横目に僕は隣で黙り込む姉さんに小声で話しかけた。
「ねぇ、姉さん。どうして僕たちこの場にいるのかな」
「私に聞かないでよ。退出するタイミングを逃がしちゃったんだから仕方ないじゃない」
「もう帰りたい」
どうしよう。そろそろお腹も減ってきたし、こっそり抜け出してしちゃおうかな。
「ちょっと。どこ行くの?」
「お手洗いに」
「嘘をおっしゃい。こっそり抜け出すつもりでしょう? こんなところに置いて行ったら絶対に許さないわよ?」
「酷いよ姉さん。僕が姉さんを置いて逃げるような卑怯者だって言うのかい? 信じてほしい、大なんだ。それとも姉さんは僕がウンコタレの異名を授かってもいいのかい?」
「貴方はこういう時、平然と嘘を吐くことをお姉ちゃんは知ってるの」
くっ、流石は姉さんだ。僕という人間をよく分かっている。
会議室の端っこでフェイントを織り混ぜながら姉さんの突破を試みるが、上手くいかない。
しばらく頑張っていると、会議室に騎士が駆け込んできた。
「報告!! たった今、武装勢力の首魁が声明を発表しました!!」
「なんだと!?」
「た、ただ、この声明は我々に向けてのものではなく……」
「いいから早く申すがよい!!」
騎士が報告した声明の内容は――
「『ノーフェイスに告ぐ。ただちに魔法学園まで来い。貴様が従わない場合、我々は一時間ごとに生徒を一人処刑する』、とのことです」
「ノーフェイス殿を?」
国王の視線が姉さんの方に向いた。
それに吊られて重鎮らも姉さんの方を見て小声でひそひそと話し始める。
姉さんの恨めしそうな視線が僕に刺さった。
いや、僕だっていきなり学園を占拠したテロリストから名指しされるなんて思ってなかったんだから睨まないでよ。
「実はずっと気になっていたのだが、あの怪しげな出で立ちの二人は何者だ?」
「彼らはノーフェイスとその手下、怪人ヒール男らしい。なんでも陛下の病を治療したとか」
「なんと!? 本当に実在したのか!!」
「ノーフェイスは死滅した毛根も復活できると噂で聞いたが、事実なのだろうか……」
「今はハゲを気にしている場合ではないだろう!!」
「私はハゲではない!! 少し前線が後退を始めているだけで、断じてハゲではない!!」
ざわめく重鎮らを手で制し、国王が姉さんに問いかけてきた。
「ノーフェイス殿、学園を占拠する武装勢力と何か因縁が?」
「え? そ、それは……コホン。今はまだ語るべき時ではない」
「……ふむ。何か深い事情があるようですな」
姉さんが咄嗟に意味深な台詞で誤魔化す。
それに重鎮らは「説明しろ!!」と怒鳴り散らすけど、知らないもんは説明のしようがないので姉さんは沈黙を貫く。
あ、違う。イライラを蓄積してるっぽい。
このまま放置したら爆発して会議室が血の海に変わるかも……。
僕が数分後の未来を案じていると。
「皆、今は現実的な話をしよう。ノーフェイス殿に関係があるとしても、テロリストどもが我が国で事を起こしたのは事実。どのみち我らの手で対処せねば、自国の問題も自力で解決できぬ無能と周辺国から笑われよう」
国王のその言葉が重鎮たちを宥め、落ち着かせてしまった。
流石は国王だ。
たった一言で空気を変え、重鎮らは如何に生徒たちを無傷で救出し、テロリストを殲滅するか案をだし始めた。
しかし、あーでもないこーでもないと議論が始まっては振り出しに戻る。
……今なら抜け出せそうだね。
「どこに行くの?」
「今度は本当にトイレだよ」
「学園に行くつもりね?」
「トイレだよ」
「本当に?」
「……『一時間ごとに生徒を一人処刑する』って言われたら、行かないわけにはいかないでしょ」
もしかしたら仲良くなったガルやルカン先輩、顔見知りの保健委員の人たちが殺されるかもしれない。
それは許容できない。してはならない。
「だから行ってくるね。今は姉さんがノーフェイスだし、怪人ヒール男として」
「それ重要かしら……」
「重要」
僕は会議室を抜け出して、魔法学園まで全力ダッシュで向かった。
魔法学園は騎士たちが包囲しており、正門から中に入ろうとすると、真面目そうな騎士に呼び止められてしまった。
「君!! 魔法学園は今立ち入り禁止だ!! 危ないからすぐに離れて――」
「首トン!!」
「うっ」
「ごめん、急いでるから」
手刀で向かってきた騎士を気絶させ、堂々と魔法学園に突入する。
「来るのが早かったな、ノーフェイス」
「……またお前たちか」
正門から魔法学園の敷地内に入った僕を出迎えたのは、白装束の集団だった。
あの中二病患者集団だ。
そうか、そうだったのか。いや、魔法大会で何かしようとしていた時点で、ウィクトリアを拐った時点で分かっていた。
彼らの行いは中二病という言葉で片付けるには度が過ぎている。
もう戻れないところまで中二病を拗らせてしまったのだ。
でも、僕に彼らを治す術はない。だから――
「ヒャハハハハハハハハッッッッ!!!!」
「な、なんだ?」
「決めたぞ、お前たちは叩いて治す!! 今の俺にはそれくらいしか治療法が思い浮かばんからな!!」
この治療で彼らが治るとは思わない。
仮に正気に戻って自分が取り返しの付かないことをしてきたと自覚しても、僕は彼らを問答無用で騎士団に突き出す。
彼らのやらかした事を考えれば極刑だろう。
僕に彼らの中二病を治す力があれば、そんなことにはならずに済んだかも知れない。
でも、ないものはないのだ。
ならばそれを前提に相応の対処をするのが僕のすべきことだと思う。
―――――――――――――――――――――
あとがき
ワンポイント小話
作者「問答無用で首トンされた騎士が可哀想で他ならぬ……」
ア「邪魔だったからつい……」
「姉弟仲いいなあ」「ハゲを気にしてる重鎮で草」「脳筋治療かよ笑」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
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