第6話 姉さんは年頃の女の子
まえがき
第5話の話の一部を大幅に改変しました。
アスクは白教の人たちを王女を拐っちゃうくらい行動力と戦闘力がある重度の中二病患者集団だと思っています。それに伴いサブタイトルを『中二病患者集団』に変更しました。気になる方は一話戻ってもろて。
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僕はウィクトリアを王都に送り届け、事情を聞こうとしてきた衛兵を振り切って姉さんに合流し、事のあらましを話した。
「心の病を患った集団にウィクトリア王女が拐われていた、ね」
「うん。姉さん、僕には目標ができたよ。彼らを一人残らず治療する。彼らが近い将来、自らの過ちを悔いないように」
「……そう、正直そっちはどっちでもいいわ。それよりウィクトリア王女殿下に求婚された話だけど、なんて答えたの?」
「遠慮しとくって言っといた」
「そう、それならいいわ。……あの王女、あれで積極的なタイプだったのね。注意しておかないと」
まあぶっちゃけ、ウィクトリアの大きなおっぱいに興味がないと言えば嘘になるけども。
しばらくして馬車は王都に到着。
拐われたウィクトリアがノーフェイスに連れられて戻ってきたことで騒ぎになっているようで、衛兵たちも忙しそうだった。
「じゃあお姉ちゃんはクリスティーナ王女殿下に呼ばれているから王城に行ってくるけど、アスクは先に学園で荷物を下ろしておきなさい」
「王女様の友達になると大変だね」
「ノーフェイスのことで話が聞きたいって言われてるのよ。別に友達じゃないわ。ああそれと、私の荷物は女子寮の寮長が預かることになってるから渡しておいてね」
「了解」
キシリカ王国立魔法学園は、王城からすぐ程遠くない位置にある。
魔法学園の敷地内には様々な施設があり、男子寮と女子寮に加え、図書館や雑貨店など、他にも魔法の練習ができるように小さな森まであるらしい。
しかし、僕は最上級の治癒魔法『エクストラヒール』を習得しているので学ぶことは何もない。
……そう思っていた。
でも白装束の集団――白教の人たちのために心にも効く治癒魔法の開発や、暴れる彼らを制圧するために更なる肉体改造も必要だと思い知った。
頑張ろう、うん。
「僕の荷物は運び終えたし、次は姉さんの荷物だね」
男子寮で馬車から僕の荷物を下ろした後、姉さんが入る予定の女子寮に向かう。
その道中、道行く女子生徒からめちゃくちゃ見られてしまった。
まあ、普通は男子が女子寮を訪れることなど滅多にないだろうけど。
そこまでじろじろ見られたら困るよ。
視線に耐えながら女子寮に辿り着くと、その入り口に一風変わった出で立ちの人物が立っていた。
「……鮫?」
陸に鮫がいた。
手足が生えていて、魔法学園の生徒の証である制服を着てる。
しかもスカートを穿いていて、シュールな絵面だった。
他の女子生徒が気にしている様子はないので、これが魔法学園の日常なのかもしれない。
できるだけ目を合わせないようにしよう。
「君、ちょっといいかな?」
と思ったら、鮫の方から話しかけてきた。
あ、でも近くで見たら意外とつぶらな瞳で結構かわいいかも。
「その艶のある黒髪と金色の瞳……もしかして、君がアスク――フランの弟クンで合ってる?」
「あれ? 姉さんのお知り合いですか?」
「知り合いも何も、親友だよ」
あの姉さんに、大親友だって!?
「それは、さぞ大変でしょうね」
「え? なんで同情の視線向けられてんの?」
「お気になさらず。姉さんのことで困ったことがあればできるだけ力になりますよ」
「え、あ、うん。まあいいや、それよりフランの荷物はこっちで預かるね」
話を聞いたところ、どうやらこの鮫が姉さんの言っていた女子寮の寮長らしい。
テキパキと姉さんの部屋に荷物を運び込む。
「弟クン。このスーツケース、妙に軽い気がするんだけど、何が入ってるの?」
「姉さんの下着とパッドですね」
「ああ、下着とパッドね……パッド!?」
「パッド」
この頃の姉さんは胸の大きさを気にしていて、不自然なくらい盛ってる時がある。
でもあまりにも自信満々で振る舞ってるから最初は違和感に気付かなかったくらいだ。
年頃の女の子って皆ああなのかな。
鮫が「フランもそういうの気にするんだ……意外」と衝撃を受けているようだったが、作業はつつがなく終わった。
「大分早く終わったね。あ、そだ。フランが来るまで時間あるし、あたしが学園の案内でもしてあげよっか?」
「いいんですか?」
「もちろん。かわいい後輩の面倒は見なきゃだしね」
「ありがとうございます、鮫先輩」
「あはは、鮫先輩って。って、そういえば自己紹介してなかったね。あたしはルカン・シャール。ルカンでいいよ」
ふむ、ルカン・シャール先輩ね。
なんか全体的に鮫っぽい名前というか、名は体を表すというか。
「ルカン先輩って獣人なんです?」
「そだよー。鮫って魚なのに獣人ってウケるよね」
「ですねー」
学園の敷地内を移動しながら、僕たちは雑談に花を咲かせた。
獣人というのは、耳や尻尾などの獣の特徴がある人種だ。
身体能力が優れていて、魔法を使える種族は限られると聞いたことがあるけど……。
「ルカン先輩は魔法使えるんですか?」
「使えるよ。てか使えなかったら魔法学園に来てないって」
「たしかに」
「あたしこう見えても水魔法が得意でね、三年でもあたしに勝てる人はいないんだよ」
「こう見えても何も見た目通りでは?」
「あはは、だねー」
水魔法は便利な魔法だ。
農耕にも使えるし、水不足の解消にも使えるし、単純にできることが多い。
清潔な水を確保できるので怪我人や病人の看護にも役立つだろう。
姉さんも簡単な水魔法を使えるし、僕も習得しておいた方がいいかな?
その時、ふとルカン先輩が足を止めた。
「ところでさ、君はあたしの見た目どう思う?」
「かわいいと思いますけど」
「かわ、え?」
「つぶらな瞳とか、歩く時に尾ビレが左右にぱたぱたするところとか」
「ええと、そういうことじゃなくてね? 魚が喋るのは気持ち悪いとか、怖いって思ったりは……」
ルカン先輩は自分の見た目にコンプレックスがあるのかな?
「特になんとも思いませんね」
「あ、あはは、弟クンはフランと同じこと言うんだね。……ちょっとこっち来てくれる?」
「わっ」
急に腕を引かれ、人目のない校舎裏に連れ込まれてしまった。
え、何事?
「獣人ってね、体内の魔力を操作することで見た目を人間に寄せたり獣に寄せたりできるの」
「へー」
「あたしは信用できると思った人にだけ、人間に寄せた姿を見せるようにしてるんだけど……」
「ほー」
次の瞬間、ルカン先輩が煙に包まれた。
「こ、この姿のあたしはどう思う?」
「……まじか」
「やっぱり変? 入学式の時、この姿で参加したら男子からも女子からも変な目で見られて……。弟クンの意見を客観的に聞かせてほしいんだけど」
「まあ、変な目で見られるでしょうねとしか」
「うっ。や、やっぱり、あたしって不細工なのかな」
煙が晴れると、そこには長身の美人がいた。
ポニーテールにした鮮やかな青色の髪と夜空のような紺色の瞳、凛とした顔立ちの美女だ。
腰の辺りから鮫尾が生えていて、存在感を放っている。
あとおっぱいが大きい。
双子王女の姉の方、クリスティーナに匹敵する大きさだ。
姉さんがいくらパッドを盛ったところで、このサイズには勝てないだろう。
「とても美人だと思いますよ」
「いや、大丈夫。気を遣わなくていいから」
「いえ、気を遣うとかではなく。ルカン先輩、美人すぎて視線を集めてるだけですよ」
僕が客観的に事実を述べると、ルカン先輩は目に涙を浮かべながら肩をガシッとしてきた。
「弟クン、君いい子だね。あたしを傷つけないために嘘まで吐いて……」
「ああ、どうしよう。姉さん並みに面倒な人だ」
それからどうにか落ち着いたルカン先輩に学園の中を案内してもらった。
面倒そうだけど、いい人だったね。
その数日後。
前世を含めて僕の初めての学園生活が遂に幕を開けるのであった。
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あとがき
ワンポイント小話
作者「ルカンは笑うとギザ歯が見える」
ア「めっちゃ尖ってた」
「姉さん盛ってるのか……」「鮫っ娘はいいぞぉ」「自己肯定感低めのポニテ巨乳王子様系ギザ歯鮫美女は属性盛りすぎ」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
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