第2話 王女の激重カミングアウト
『
「今日、クリスティーナ王女殿下とウィクトリア王女殿下がいらっしゃるわ」
「なんで?」
「知らないわよ。王都から連絡が届いたのも今朝のことだし」
もしかして僕が『
やだどうしよう。
カッコつけて王女に「私は『
「お父様とお母様は外遊で不在だし、私が領主代理として両殿下を迎えるわ。王族と顔見知りになるだけでもいいことだし、貴方は私の隣にいなさい」
「面倒そうだし遠慮しとく」
「わがままを言わないの。お姉ちゃんをあまり困らせないで」
「やだ」
それから僕は逃亡を図るも、姉さんに縄で縛り上げられて双子王女を迎えることに。
その気になれば縄を無理やり引き千切って逃走できるけど、双子王女のその後の容態も気になるからね。
別に鬼の形相で追ってくる姉さんが怖くて逃亡をやめたわけじゃないよ。ホント違うから。
でも亀甲縛りにする必要はなくない? これだと変態姉弟だと思われちゃうよ。
もうちょっと他にいい縛り方があったでしょうに。
午後。
王家の旗を掲げた一台の馬車がメディクス家の屋敷の前に停まった。
「……でっか」
「姉さん、聞こえる聞こえる」
馬車から降りてきた双子王女の一部分を見て、姉さんがボソッと呟いた。
「メディクス子爵令嬢、この度は急な訪問をお許しください」
「お気になさらず。クリスティーナ王女殿下とウィクトリア王女殿下のご回復、誠に喜ばしく存じます」
「お気遣い痛み入ります。……あの、ところで」
「何か?」
「そちらの、隣で縛り上げられている方は……」
「私の弟です。同席させようとしたら逃げたので捕獲しました」
「そ、そうですか」
ほら、王女たちもドン引きだよ。
「じー」
「……何です?」
「じー」
双子王女の妹の方、ウィクトリアが僕をまじまじと見つめたまま動かない。
アレだ、ハシビロコウみたいで可愛いな。
「ウィクトリア王女殿下。弟が何か失礼を?」
「じー」
「あの、私にも何か?」
「申し訳ありません、メディクス子爵令嬢。ウィクトリアは人見知りで……」
「そ、そうですか。どうぞ、中へ」
姉さんが双子王女を客間に通し、メイドが温かい紅茶と茶菓子を持ってきた。
僕のおすすめ茶菓子はクッキーだね。サクサクで超美味しいよ。
「それで、今日は何用でメディクス子爵領に?」
「近いうちに、私とウィクトリアの回復を祝うパーティーが開かれます。是非メディクス子爵令嬢にも参加していただきたいのです」
「……私をパーティーに?」
姉さんの頬がピクッと引きつった。
転生して早十五年、長い付き合いの弟の僕には分かる。
笑顔を取り繕ってはいるけど、姉さんの機嫌が明らかに悪くなった。
「失礼ながら、私は両殿下の病を治せませんでした。参加する資格などないと思いますが」
「……私が病を患い、全身の肉が変色して腐り落ち始めた時のことを今でも思い出します」
「はい?」
「私やウィクトリアを『黄金姫』だの『白銀姫』だのともてはやしていた連中は、態度を一変させました。愛を誓い合ったはずの婚約者は私たちを醜いと忌み嫌い、信頼していた侍女すら気持ち悪いと吐き捨てました」
うわ、いきなり激重カミングアウトしてきた。
「でも、メディクス子爵令嬢は違いました。貴女は私たちに『病は必ず治すから、私を信じてほしい』と笑顔でおっしゃってくださいました。醜く腐った私の手を、恐れもせず優しく握って」
「それは、たしかに言いましたが。結局治したのは私ではありませんし」
「どうしても、来てもらえませんか?」
クリスティーナが瞳を潤ませながら、姉さんをまじまじと見つめる。
性格が終わってる姉さんでも、その視線は堪えたらしい。
渋々姉さんは頷いた。
「……承知しました。回復祝いのパーティー、是非参加させていただきます」
「ありがとうございます!! その、メディクス子爵令嬢。せっかくですし、フラン様とお呼びしてもよろしいでしょうか?」
「え、ええ、別に構いません。何がせっかくなのかは分かりませんが……」
「っ、嬉しいです!! フラン様!!」
流石は王女。
コミュ力お化けとでも言うべきか、距離の詰め方がえぐすぎる。
あの姉さんがたじろぐ姿とか初めて見たよ。
「……クリスティーナ姉様、はしゃぐのは後。まだメディクス子爵令嬢に聞きたいことがある」
そう言ったのは、今まで黙々とクッキーを食べていたウィクトリアだった。
クリスティーナがハッとする。
「そ、そうでした。まだ一つ、お聞きしたいことが」
「まだ何か?」
「はい、『
ピクッと更に姉さんの頬が引きつった。
姉さんは自分が治せなかった病をあっという間に治療してしまった『
後が怖いね。
それにしても王女様、さっきから的確に姉さんの地雷を踏み抜いてる自覚はあるのかな?
「騎士団に調査させたところ、『
あ、なるほど。
僕の目撃情報を辿ってメディクス領に目を付けたんだね。流石は王女、賢い。
え? 僕が馬鹿なだけだって? 殴るよ?
「メディクス領に『
「何か心当たりはありませんか?」
「……ここ十数年で囁かれるようになった都市伝説ですが、怪我人や病人を治療するカラスのような仮面を被った『怪人ヒール男』が出没し――」
「カラスのような仮面!? 間違いありません、その人です!!」
まずい。
このままだとカッコよく患者を治療して立ち去った『
いや、大正解だけども。
せっかくなら『
ちょっと横から割り込ませてもらおう。
「クリスティーナ王女殿下、横から失礼します」
「あら、何かしら? ええと……」
「メディクス子爵家長男、アスク・メディクスと申します」
自己紹介は手短に済ませ、本題に入る。
「僭越ながら『
「……何故そう思われるのです?」
「『怪人ヒール男』は奇声を上げながら怪我人や病人を治療するやべー奴です。両殿下を治療した『
「い、いえ、とても紳士的な方でした。私たちのあられもない姿を見ても、ちっとも動揺しない大人びた男性で……」
あられもない姿?あ、たしかに二人とも裸だったね。
別に動揺してなくないよ?
ペストマスクで分かりにくかっただけで、めっちゃおっぱい見て興奮してたよ。
まあ、今はその方が都合がいいけどさ。
「なら別人でしょう」
「そう、ですか。……残念です」
落胆するクリスティーナを黙々とクッキーを食べていたウィクトリアが慰める。
「ん。クッキー食べて元気出して、クリスティーナ姉様」
「ありがとう、ウィクトリア」
「あ、今私が食べたクッキーが最後のだった」
「……アスク、縄を解いてあげるから追加のクッキーを持ってきなさい」
自由だああああああああああああああああああああああああああッ!!!!
◆ ◇ ◆
アスクが厨房までクッキーを取りに部屋から退出した後。
「……やっぱり似てる」
「ウィクトリア王女殿下?」
「貴方の弟と『
フランは迷わず否定した。
「それはありませんね。あの子の治癒魔法の腕前は下の中、深爪を治せる程度です」
「本当に?」
「王女殿下に嘘は申しません。少なくとも、今のあの子の実力でお二方の身体を侵した病を治療することは絶対に不可能です。……まあ、才能はありますし、患者に寄り添える子なので、そのうち私と同等の治癒魔法士にはなると思いますが」
「じー」
ウィクトリアがフランをまじまじと見つめたまま動かない。
「でも、やっぱり似てた気がする」
「弟と同じ背格好の者など領内を探せばいくらでもいます。声も身長と体重に影響を受けるものですし、似てる者は大勢いるでしょう」
「じー」
ウィクトリアがまじまじとフランを見つめた動かなくなる。
やがて、こくりと頷いた。
「そっか。私の思い違いだったみたい。言われてみれば、あの人はずっと私やクリスティーナ姉様のおっぱいを見てたし、『
「あの子がお二人の胸を……へぇ……後でお仕置きね。まあ、王女殿下に分かってもらえて何よりです。弟のことはさておき、『
「何?」
「両殿下が患っていた病に関して何か言ってませんでしたか? また同じような病を患った者が現れた時、治療の参考にしたいので」
「病について、ですか? そういえば『全身の肉が腐り落ちる病』のことを魔力暴走を拗らせただけ、と仰っていましたね」
クリスティーナの言葉に、フランが一瞬だけ硬直した。
「今、なんと?」
「え? ええと、『全身の肉が腐り落ちる病』のことを魔力暴走を拗らせただけ、と仰っていたのですが……どうしました?」
「……いえ、何でもありません。失礼しました」
それからフランたちは他愛ない話をして、クリスティーナとウィクトリアは王都に帰って行った。
その後、フランはアスクを呼び出して――
「貴方が『
「知らないです」
「お姉ちゃんの目を見て言いなさい」
「知らないです」
フランは壁ドンでアスクに詰め寄るのであった。
―――――――――――――――――――――
あとがき
ワンポイント小話
ア「どうして姉さんにバレたんだ……!!」
作者「なんでやろなあ」
「でっかで笑った」「ハシビロコウ系妹王女かわいい」「先にお姉ちゃんにバレるのか」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
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