第五十四話

 私は砂浜すなはまに着くと昨日きのう小舟こぶねしてくれたねじり鉢巻はちまきをした魔族をさがした。あー、やっぱりあの人から小舟を借りたいなあ。それに何か、おれいがしたいなあ……。


 と砂浜を歩いているとうんよく、その魔族を見つけることができた。私はまず、お礼をした。

「昨日は小舟を貸していただき、ありがとうございました」


 するとその魔族は、右手を顔の前でブンブンとった。

「いいっていいって、そんなこと。それよりもアンタ、見事みごと鮭児けいじを釣ったらしいな。漁師りょうしたちがさわいでたぜ」

「はい。何とかラソミ女王じょおうにも協力してもらって、釣ることができました」

「ほう、女王が協力したか。そりゃあアンタ、たいしたもんだ」

「はい!」


 そして私は、その魔族に頭をげた。

「それですみませんが、今日も小舟を貸してください。ぜひほんマグロという魚を釣りたいんです!」


 それを聞いた魔族は、目を丸くした。

「本マグロをアンタが釣る?! がっはっはっはっはっ! 相変あいかわらず、面白おもしろい人間だ! いいぜ、貸してやるぜ。釣れるもんなら釣ってみろってんだ! がっはっはっはっはっ!」


 なので私は小舟に乗って、水の魔法の推進力すいしんりょくおきに出た。それから魚の図鑑ずかんで、本マグロを確認した。すると本マグロは数が少なく高値たかね取引とりひきされるため、『黒いダイヤモンド』と呼ばれることが分かった。


 く、黒いダイヤモンド?! つ、釣るしかない! これは何としても釣るしかない! 私は早速さっそく竿さおを振って釣りばりを海に投げ入れた。そして、『絶対に魚が釣れる魔法』をとなえた。

「魚たちよ、このにおいを感じ取れ! キャッチ・ザ・フィッシュ!」


 するといきなり、竿がグンと海中にられた。え? 何この引きの強さ?! 今までの魚とは、くらべものにならない! それでも私はこの魚を釣ろうとして、竿を立てようとした。でも、無理だった。魚は強い力で泳ぎ、小舟が引っ張られた。


 うわわわわー! 何これ、何なのこれ?! 小舟を引っ張るって、どんな強さなの?! 私はとにかく竿をはなさないようにするのが、精一杯せいいっぱいだった。そして小舟は右に左に、引っ張られ続けた。


 つ、釣れる気がしない。こんなに強い力の魚を、釣れる気がしない。と私があきらめかけた時、後ろから声が聞こえた。

「おいおい! 鉢巻さんが言った通りだ! あの人間の小娘こむすめ、今度は本マグロを釣る気だぞ!」

「しかも絶賛ぜっさん格闘中かくとうちゅうか! ぎゃはははは!」


 私が振り返ると、そこにはそれぞれの小舟に乗った二人の魔族がいた。どちらも昨日、見た顔だった。その二人は左右から、私の小舟に近寄ちかよった。そして左右から私の竿を握り、竿を立てようとした。

まったくアンタは無茶むちゃするなあ。本マグロが体長三メートル、体重が五○○キロって知ってんのか?」


 え? そうだったんだ?! 私は本マグロが、黒いダイヤモンドと呼ばれていることしか調べてなかった! なので、私は答えた。

「いえ、知りませんでした!」


 すると、もう一人の魔族が笑った。

「おいおい、知らなかったのかよ! アンタ、本当に無茶苦茶むちゃくちゃな人間だな! ぎゃはははは!」


 そして私たちは、三人がかりで魚を釣ろうとした。だがやはり、釣れなかった。魚の力が強すぎて、重すぎるのだ。くっ、三人がかりでもダメか……。と私が再び諦めかけた時、後ろから聞きおぼえがある声がした。振り返ってみると、ねじり鉢巻きをした魔族が大きな漁船に乗っていた。


「おらあ! 人間の小娘が本マグロを釣ろうとしてんだ! 何としても釣らせてやれ! 魔族の漁師の意地いじを見せろ!」


 するとその漁船から、二人の魔族が私の小舟に乗って竿を持って立てようとした。五人がかりで竿を持つと、徐々じょじょに竿が立ってきた。

「おらあ! もうすぐ釣れるぞ! この小舟に釣り上げたらしずむから、鉢巻きさんの漁船で釣り上げるんだ!」


 そうして私たちは、漁船に乗りうつった。そして私たちは、全力で竿を振り上げた。釣り上げたのはやはり、体長三メートルほどの本マグロだった。それは上部と目が黒く、あとは全身が銀色に光りかがやいていた。それを見た私の感想は、『この魚も美味おいしそう』だった。


 なので私は、大声を出した。

「さあ! この美味しそうな魚をみんなで食べましょう!」


 すると魔族の漁師も、り上がった。

「おう、おうぜ!」

「本マグロなんて、ひさしぶりだぜ!」

「本当に美味そうだぜ!」


 そうして私たちは本マグロを、刺身さしみ兜焼かぶとやきで食べた。刺身は、旨味うまみ濃厚のうこうあぶらはとろけるようだった。兜焼きは、身は柔らかくほくほくして美味しかった。


 あー、美味しかった。こんなに美味しいなら、国王が食べたいという気持ちも分かるなー。……え? 国王?……。そして私は、頭をかかえた。だああああ! 食べちゃった! また食べちゃった! 国王に渡して一○○〇万ゴールドもらう本マグロを、食べちゃった! 私はバカなの? いつも同じ失敗をする学習能力がない、本物のバカなの?!


 と落ち込んでも仕方しかたが無いので、理由を話して私は漁船で魔族の漁師さんたちともう一匹いっぴき本マグロを釣った。

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