第四十九話

 私は竿さおって釣りばりを海に投げ入れると、魔法をとなえた。

「魚たちよ、このにおいを感じ取れ! キャッチ・ザ・フィッシュ!」


 だが釣れたのは、またしても普通のさけだった。ど、どうして? 季節は冬になったのに? 一体いったい、どうして?……。私はまた絶望ぜつぼうしそうになったが、再び気合きあいを入れなおした。ここまできて、絶望するな私! 私は絶対、鮭児けいじを釣るんだ!


 そして私は、考えた。なぜ、鮭児が釣れないのか。そして、思い出した。鮭児は鮭が一万匹いるとして、一匹しかいないまぼろしの魚だと。つまり鮭児を釣るには、運が必要だと。だとすると、幸運こううんの魔法を使うしかない。


 私は一瞬いっしゅん、ひるんだ。幸運の魔法とはつまり、これからの幸運を前借まえがりする魔法だ。だから幸運の魔法を使って運が良くなると、その後に良くないことが起こる。この魔族の国で良くないことが起きたら、私はどうなるのか? 


 だが、私は決めた。幸運の魔法を、使うことを。鮭児が釣れなければ、どうせ私は終わりだからだ。だから私は右手の手の平を空に向けて、魔法をとなえた。

「幸運の女神よ、微笑ほほえみを! ラッキー!」


 そして、『絶対に魚が釣れる魔法』を唱えた。

「魚たちよ、この匂いを感じ取れ! キャッチ・ザ・フィッシュ!」


 すると早速さっそく、竿に手ごたえがあった。お願い、鮭児が釣れて! 私はそういのりながら竿を振り上げた。すると、今までの鮭とは違う魚が釣れた。それは今まで釣った鮭よりも、全体的に丸みをびておなかがふっくらとしていた。


 魚の図鑑ずかんで確認してみると、これは確かに鮭児だった。私は思わず、さけんだ。

「やったー、鮭児だー! 私はついに、鮭児を釣ったぞー!」


 そして私はしばらくの間、鮭児を釣った達成感たっせいかんつつまれた。や、やった。私は、まぼろしの魚を釣った……。だが次の瞬間、私は考えてしまった。幻の魚とは一体いったい、どんな味がするんだろうと?


 いやいやいやいや! それはダメだ、絶対にダメだ! この魚だけは、食べちゃダメだ! だが私は結局けっきょく誘惑ゆうわくに負けた。ちょっとくらいなら、いいよね? シッポの方、ちょっとくらいならいいよね?……。


 そして私はナイフを取り出して、シッポの方を切り取ってしょう油を付けて食べてみた。お、美味おいしい……。あぶらの甘みが強く、まろやかな舌触したざわりだった。シッポの方がこれだけ美味しいなら、本体ほんたいの方はどれだけ美味しんだろう? 大丈夫。ちょっとだけ、ちょっとだけ。


 と本体の方を食べてみると、とろけるようにやわらかく味わいが濃厚のうこうだった。美味しい! 美味しすぎる! もうちょっとだけ、もうちょっとだけと食べていると鮭児の半分を食べていた。


 ふー、美味しかった。こんなに美味しい魚を食べたのは、初めてだよ。さすが、幻の魚。さすが、ラソミ女王が食べたいと言う魚だよ……。はっ、ラソミ女王! 食べちゃった、ラソミ女王にあげる鮭児を、半分も食べちゃった!


 こ、これはマズイ! マズすぎる! あげられないよね、半分も食べちゃったらあげられないよね! こんな魚あげたら最悪さいあく即死そくし魔法で殺されちゃうよー! 釣らなきゃ! もう一匹、鮭児を釣らなきゃ!


 幻の魚が二匹も釣れるかなと不安だったが、幸運と『絶対に魚が釣れる魔法』を使ったので二匹目の鮭児はあっさりと釣れた。よ、良かったー。ホントに良かったー。私は二匹目の鮭児を見つめて、心の底からそう思った。


 さあ、鮭児を釣ったらあとはラソミ女王に渡すだけだ! 私は水の魔法を推進力すいしんりょくにして、小舟こぶね砂浜すなはまに向かわせた。すると何と砂浜には五、六人の男性の魔族がいた! しかもぼうのようなモノを持って全員、怒りの表情だ! ギャー! いきなりアンラッキーがキター!


 私は、おそる恐る聞いてみた。

「あ、あのー皆さん。私に何か、御用ごようでしょうか?」


 すると魔族の皆さんは、やはり怒ってらっしゃるようだ。

「おうおう、人間の小娘こむすめ! 俺たちの漁場ぎょじょうで、勝手に釣りをしたようだな?!」

「俺たちの許可も取らねーでよー!」

「そうだ、そうだ!」


 なるほど。この魔族のみなさんは漁師りょうしで、私が勝手に魚を釣ったのでおいかりのようだ。なので私は、思い切り下手したてに出た。取り敢えず、土下座どげざした。

まことに申し訳ありません! 小舟こぶねに私が半分食べた鮭児と鮭があります! それを差し上げますのでどうかお許しを!」


 すると魔族の一人が、不審ふしんな表情になった。

「はあ? 鮭児を釣った? ウソをつけ! 今の時期に、しかも幻の魚の鮭児なんか釣れるわけねえだろ?!」


 なので私は、小舟から半分食べた鮭児を持ってきた。

「これが証拠でございます!」


 すると魔族の方々かたがたは皆、おどろいた表情になった。

「おいおい。本物だ、本物の鮭児だ」

「うーん、確かに……」

「一体、どうやって釣ったんだ?」


 そう聞かれたので、私は説明した。ラソミ女王に魔法で冬にしてもらって、『絶対に魚が釣れる魔法』と幸運の魔法を使って釣ったと。すると魔族の方々は一応、納得したようだ。


「なるほど、女王が……。しかしなぜ女王が、人間の小娘のために魔法を使ったんだ?」

「はい。女王が鮭児を、ぜひ食べたいとおっしゃったので……」

「ふーむ、なるほど……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る