第四十七話

 すると二人の側近そっきんは、必死にラソミ女王じょおうをなだめた。

「き、聞きましたか女王! 人間の小娘こむすめもああ言っていることですし!」

「そ、そうでございます女王! たかが人間の小娘の戯言たわごと我々われわれほこり高い魔族が気にすることではございません!」


 それを聞いたラソミ女王は、少し落ち着いたようだ。

「う、うむ。それもそうだな……」


 だが次の瞬間、私を指差ゆびさして怒鳴どなった。

「さっきの言葉、忘れるなよ! 二度目は無いからな!」

「は、はい!」


 そうしてやっと、ラソミ女王は落ち着いたようでイスに座った。そして、つぶやいた。

「それにしても、魚か。うーむ……」


 少し考える表情になったラソミ女王は、私に告げた。

「ふむ、リーネよ。このわらわが、許可を出そう。この魔族の国で、ほんマグロという魚を釣っても良いという許可を。だがそれには一つ、条件がある」

「な、何でしょうか?! ラソミ女王?!」

「うむ。それはな、まず妾に鮭児けいじを釣ってまいれ」

「は? け、鮭児ですか?」

「うむ」


 そしてラソミ女王は、説明した。

「鮭児とはつまり、若いさけだ。鮭が一万びきいるとして、その中に一匹しかいないまぼろしの鮭だ。妾は昔、一度しょくしたことがあるが、あれは美味びみだった……」


 私はもちろん、その条件を飲むことにした。

「はい! 分かりました、ラソミ女王! その鮭児という魚を、釣ってきます! 今すぐ釣ってきます!」


 そして私は小走こばしりで、玉座ぎょくざから離れた。更に、城から出た。そして少しの間、ラソミ女王から解放かいほうされた喜びを味わった。ヤ、ヤバイよラソミ女王。ラソミ女王がその気になったら、私なんてすぐに殺されちゃうよ。やっぱり魔族の国の、女王だなあ……。


 そうして私は、やっと落ち着いた。だが、収穫しゅうかくがあった。ラソミ女王は、確かにこわい。でも、話せばわかるような気がする。魔族を悪く言った私は結局、殺されなかったし。それに鮭児という魚を釣れば、この魔族の国で本マグロという魚を釣っても良いと許可をもらえることになったし。


 そこまで考えると、私にはやる気が出てきた。よーし! やってやる! 幻だか何だか知らないけど、この私が釣ってやる! 待ってろ鮭児! だが私は、すぐに現実問題にぶつかった。


 あれ? 鮭児は若い鮭っていうことは、きっと海にいるんだよね。でもそもそも、この魔族の国の海ってどこにあるの?……。


 私は一瞬、誰かに聞こうと思ったがめた。ここは魔族の国だ。何が起きても不思議じゃない。最悪、魔族の誰かに殺される可能性もある。そう考えると、気軽きがるに魔族のだれかに聞くことはできない……。


 でも少し考えると、ひらめいた。そうだ! ほうきに乗って、空から海を探せばいいんだ! あー、もう! 何でこんな簡単なことに気づかなかったんだろう? やっぱり魔族の国にきて命の危険を感じてるから、相当そうとうビビってるな私……。


 そして私は背負せおっているほうきをろして、またがって風の魔法をとなえた。

「風の精霊せいれいよ、おどり出せ! ウインド!」


 そうして私は、三〇メートルほどの高さまで上昇じょうしょうした。するとこの、魔族の国が眼下がんかに広がった。この魔族の国の広さは大体だいたい、私たち人間の国の半分くらいか。するとざっと考えて、魔族の人数にんずうも人間の人数の半分かな?


 そしてこの魔族の国は、森にかこまれていてポツリポツリと家らしき建物が見えた。でもラソミ女王がいた城から南に伸びる広い道の両脇りょうわきには、商店しょうてんならんでいるようで歩いてる魔族が多くいた。うーん、なるほど。大体だいたい、魔族の国のことは分かった。それはそれとして、海を探さないと。


 でも海は、思ったよりも簡単に見つかった。城から南に伸びる広い道の更に南に、海は広がっていた。なので私は、急いで海岸かいがんに向かった。そして、小舟こぶねを探し始めた。以前いぜん時鮭ときしらずという魚を釣ったことがあるが、それはおきに出て釣った。だから今回も鮭児を釣るには、小舟で沖に出る必要があると思ったからだ。


 私が砂浜すなはまで小舟を探していると、見つかった。竿さお手入ていれをしている魔族の目の前に、小舟はあった。私はもちろんその魔族に、たのんだ。

「お願いします、その小舟をしてください! もちろんお金ははらいます!」


 するとそのねじり鉢巻はちまきをして黒いローブを着た魔族は、ジロリと私を見て聞いてきた。

「小舟を、何に使うつもりだ?」

「は、はい! 鮭児を釣るために使います!」


 それを聞いたその魔族は、豪快ごうかいに笑った。

「がっはっはっはっはっ! 鮭児を釣る?! こりゃあ、傑作けっさくだ!」


 そしてその魔族は、小舟を指差ゆびさした。

「いいぜ、使えよその小舟を。そして鮭児を、釣って見せろ。もちろん、釣れればの話だ。あ、それと金はいらねえぜ。タダで貸してやる」


 そう言われた私は、おそる恐る聞いてみた。

「あ、あのう。あなたは私が、人間だって気づいてますよね? それなのに、タダで小舟を貸してくれるんですか?」

「ふん。人間も魔族もかんけーねえよ。この時期じきに鮭児を釣ろうとしているバカがどうなるか、俺は見てえだけだ」


 え? それって一体いったい、どういうことだろう? と私は疑問に思ったが、とにかく早く鮭児を釣らなければならない。私は早速さっそくい、小舟に乗り込んだ。

「それじゃあ、この小舟をりますねー! ありがとうございますー!」

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