第四十四話

 言えない。お母さんにホントのことを、言えるわけが無い。もし私が魔族まぞくの国に行くと言えば、お母さんは止めるだろう。でももし止められても、私は魔族の国に行かなければならない。


 この国の人間を、まもるために。だから私はお母さんに、エルフの国に行くとウソをついた。でも、これで良い。いや、これしかない……。


 そして私は、考えた。お母さんとは、話をした。だからお父さんとも、話をしておこうかと。もしかすると、もう二度とお父さんと話をすることができないかも知れないからだ。


 だが私は、考えなおした。ダメだ。そんな弱気よわきでどうする。私はまたこの家に、帰ってくる。必ず。だからその時に、お父さんといっぱい話をしようと。


 だから私は、お母さんにだけ挨拶あいさつをした。

「それじゃあ、お母さん。ちょっとエルフの国に行ってきまーす!」


 そして私は、家の外に出た。金属製のバケツと新しく買った竿さお背負さおうと、ほうきにまたがった。そうして私は、風の魔法をとなえた。

「風の精霊せいれいよ、おどり出せ! ウインド!」


 私はまず、三〇メートルほど上昇じょうしょうした。そして、西を向いた。魔族の国はこの人間の国の、西にあるからだ。それは、知っている。しかし、正確な場所は分からない。でも、行くしかない。なので私は、西に魔族の国をさがすために飛んだ。


 それから一時間ほど、飛んだだろうか。まだ魔族の国らしき場所は、分からない。すると何と、お腹がいてきた。ああ、もうすぐお昼か。それにしてもこんな状況でも、お腹は空くんだなあ。そう思うと、何だか少し笑える。


 でも次の瞬間、見つけた。魔族の国らしき場所を。そこは家の屋根やねが見えて、おくに城らしきモノも見える。うん、きっとあそこが魔族の国だ。でもいきなり、そこにりる訳にはいかない。いきなり魔族に、攻撃される可能性があるからだ。


 そう考えた私は、ゆっくりと地上に下りた。そこは深い森の中で、一〇メートルほどの高さの木がうっそうとえていた。私はそこから、魔族の国と思われる場所まで慎重しんちょうに進んだ。いきなり魔族と、出くわさないように。


 すると木々きぎの間から、建物が見えた。よく見てみると、木製の家のようだ。それはまるで、人間の国の家のようだった。上手うまく行けば、魔族に会えるかも。そして更に上手く行けば、魔族の国の新しい王の話を聞けるかも。そう考えた私は、慎重にその家に向かった。


 すると突然、「きゃっきゃっ」という声が聞こえた。な、何?! こ、子供の声?! すると突然とつぜん私の目の前に、二人の子供があらわれた。顔や髪型、そして着ている服の色から判断はんだんすると一人は男の子でもう一人は女の子のようだ。一人は青いローブ、もう一人は赤いローブを着ていた。


 私はその二人の子供を、まじまじと見た。人間で言うと、五歳くらいだろうか。そしておそらくこの二人は、追いかけっこをして遊んでいたようだ。そう考えるとこの二人は、まるで人間の子供のように見えた。


 だがこの二人には人間の子供と、決定的に違っているところがあった。それはひたいに、黒いつのが生えていることだ。それで私は、考えた。ここがおそらく、魔族の国だと。


 そして私は、更に考えた。今のこの状況じょうきょうが、とてもラッキーだと。初めて会った魔族が、子供だからだ。子供なら私が人間でも、いきなり攻撃するようなことは無いだろう。だから私は、話をしてみることにした。

「ねえ、ちょっと君たち……」


 するとその子供たちは、私を指差ゆびさした。

「あれー? このおねえちゃん、変だよー? 額に、角が無いよー?」

「あー、ホントだー。角が無いやー。変だなー」


 なので私は、説明した。

「あ。えーと、それはね。私は人間だから……」


 すると次の瞬間、私の前面ぜんめんに何かが当たった。その勢いで私は、後ろの大木たいぼくたたきつけられた。くっ、背中が痛い。これはおそらく、風の魔法で攻撃されたんだろう。でもこの二人の子供が、魔法を使ったとは思えない。となると……。


 私が前を見ると、黒いローブを着た女性の魔族と思われる人がかがんで二人の子供をかばうようにいていた。そしてけわしい表情で、叫んだ。

「あ、あなた人間ね?! こ、ここに何しにきたの?! この子たちを、どうするつもり?!」


「わ、私は……」と話をしようとした時、異変いへんに気づいた。私の体が、動かなかったからだ。まるで大木に、しばられているように。おそらくさっきの風の魔法で、私の体は縛られているんだろう。


 でもこんな魔法、人間の国では見たことも聞いたこともない。おそらく魔族だけが、使える魔法なんだろう。そしてこの魔法を使ったのは、おそらく二人の子供をかばっている母親だろう。


 私が背中の痛みで何もできずにいると、いつの間にか二人の子供とその母親と思われる魔族は消えていた。だがやはり私は魔法で大木に縛られているようで、身動きが取れなかった。


 くっ。いきなり、最悪の事態じたいだ。これでは私は魔族に、いいようにされるだろう。下手へたをしたら、いきなり殺される可能性だってある。くっ、どうすればいい?……。

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