第十話

 なので私はアオマさんからもらった三万ゴールドから、一万ゴールドをはらうことにした。私は財布さいふから金貨を一枚取り出すと、おじいさんに渡した。それを受け取ったおじいさんは、告げた。

「それじゃあ、この小舟こぶねを貸そう。好きなだけ、使うといい」


 あったり前よ! 何たってこっちは、一万ゴールド払ってるんだからね! と私は、ちょっとムカつきながらも小舟を押して、海に出した。そしてそれに、飛び乗った。


 さてと。ここじゃあアンコウは釣れないから、おきに出ないと。そのためには、魔法を使わないと。私は小舟の後ろに移動すると、右手を海水に入れた。そして直径一メートルほどの円に、意識を集中した。そうしてから、魔法をとなえた。

「水よ、が意思にしたしたがえ! ウオーター!」


 魔法を唱えたと同時に私は、海から右手を引き上げた。すると直径一メートルほどの海水が、上昇じょうしょうした。小舟の後ろの海水が上昇したので、小舟は少しだけ前に進んだ。


 それを確認すると、私は満足した。うん、これならイケる。そうして私は、再び水の魔法を唱えた。今度は、海水を引っ張り続けるイメージで。


 こうすると小舟の後ろで、海水が持ち上げられ続ける。すると小舟は、前に進み続ける。よーし、いいぞー! 行けー! そうして私は小舟を、砂浜すなはまから百メートルほど移動させた。


 うん、これくらいでいいだろう。ここなら海底まで、五〇メートルはあるだろう。つまり、アンコウはいるだろう。なので私は早速さっそく、釣りばりを海の中に入れた。


 そして意識を集中して、それを移動させた。胸から右腕に、竿さおを伝って更に釣り糸、そしてその先の釣り糸にまで。そうして私は、魔法をとなえた。

「魚たちよ、このにおいを感じ取れ! キャッチ・ザ・フィッシュ!」


 よーし。これでアンコウを釣ってヘイテさんに渡して、五〇万ゴールドは私のモノだ。フッフッフッフッ。でもいくら待っても、アンコウは釣れなかった。あれー、おかしいな? ちゃんと絶対に魚が釣れる魔法を、唱えたのに。


 釣り針だって、ちゃんと五〇メートルくらいの海底に……。あ、そうか! そこで私は、気づいた。私は釣り針を海から出して、確認した。そして、落ち込んだ。竿の先端せんたんから釣り針までの長さが、短すぎるのだ。


 私が釣り糸を改めて確認すると、海面から三メートルくらいしか入らない。今まではそれでも良かったが、今回は別だ。今回釣ろうとしているアンコウは、五〇メートルほどの深さにいる。そこまで釣り針は、届かない。そうか、それでアンコウは釣れなかったのか。うーん、どうしよう……。


 でもちょっと考えたら、気づいた。そうだ。五〇メートルの深さまで、釣り糸が届くようにすればいいんだ! つまり、釣り糸を伸ばせばいいんだ! よし、それだ! と、そこまで考えたが私は落ち込んだ。私は学校で、そんな魔法は覚えなかったからだ。


 っていうか、そんな魔法はあるんだろうか? でもアンコウを釣るためには、釣り糸を伸ばすしかない。でも、どうやって……。と考えていると、ひらめいた。


 そうだ! 古代こだい魔法ならあるかも知れない! 現代は技術が発達して、魔法を使う必要が無くなってきている。例えば、馬車だ。馬車が発明されてからは人間は魔法を使わずに、馬車で移動するようになった。でも古代には技術が無く、人々は何をするにも魔法が必要で使っていた。


 それをまとめたものが、図書館にあった。古代魔法書だ。だからそれで調べて見れば、モノを伸ばす魔法も書かれているかも知れない。なので私は早速、図書館に行ってみた。


 本を収めたたなが、ズラリと並んでいる。その中の一番奥にある棚に、私は向かった。確かこの辺に……、あ、あった、あった。古代魔法書だ。それを手に取って私は、目次もくじを調べた。


 えーと、モノを伸ばす魔法はあるかな……、あ、あった、あった。正確にはモノを伸ばす魔法ではなく、モノを伸縮しんしゅくさせる魔法だ。でも、それでいい。釣り糸を伸ばせるなら、それでいい。それに釣り糸を伸ばしたら、後で縮めなきゃいけないし。


 そうしてモノを伸縮させる魔法を覚えた私は、再び小舟に乗って砂浜から一〇〇メートルほど離れた。そして早速、釣り針を海に入れて魔法を唱えた。

「形あるすべてのモノよ、伸びろ! チェンジ・ザ・ロング!」


 すると釣り糸はスルスルと、伸びて行った。海面の近くに見えていた釣り針が、ドンドンしずんでいく。うーん、まだだなあ。まだ、十メートルくらいしか伸びてないな。なので私は釣り糸に意識を集中させて、魔法で釣り糸を伸ばし続けた。


 そして一分くらいった時に、釣り糸から意識を戻した。多分これで、五〇メートルくらいに伸びたはず。だから一回、ためしに魚を釣る魔法を使ってみよう。釣れなかったら、また他の方法を考えよう。そして私は釣り糸の先の、釣り針に意識を集中した。そうして、魔法を唱えた。

「魚たちよ、この匂いを感じ取れ! キャッチ・ザ・フィッシュ!」


 すると少しして、竿に手ごたえがあった。五〇メートルも離れているからだろう、かすかな手ごたえだった。だが確かに、手ごたえがあった。よし、釣りあげてみよう。


 でも、どう頑張がんばってもこのままでは釣り上げることはできない。なので私は、釣り糸を短くすることにした。そうすれば自動的に、魚が釣れるはずだ。私はすぐに、釣り糸を短くするために魔法を唱えた。

「形ある全てのモノよ、縮め! チェンジ・ザ・ショート!」


 すると釣り糸は、スルスルと縮みだした。よし、いいぞ。このまま、このまま。そうして一分ほどすると釣り糸は元の長さに戻ったようで、海の中に魚影ぎょえいが見えた。やった、釣れてる! アンコウだと良いな。とにかく、釣りあげよう。私はそっと釣り針に食いついている魚を、小舟の上に釣り上げた。そして、まじまじと見つめた。


 それは表面の色は茶色で円形で両脇りょうわきにヒレが付いていて、シッポも付いていた。うん、魚の図鑑で見た通りだ。きっと、これがアンコウだ。やった、釣ったぞ!


 そしてアンコウを金属製のバケツに入れると、一安心した私は小舟の中で仰向あおむけになって休んだ。ふう。やっぱり古代魔法は、魔力をたくさん使うなあ。つまり、精神的に疲れるなあ。なので私は、しばらくの間そうしていた。

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