第七話

 そうして私は、背中とお腹の部分の刺身さしみを食べてみた。するとやはり、より旨味うまみが感じられて美味おいしかった。そしてお腹がいっぱいになった私は、考えた。あ、半分も食べちゃったか。


 まあ、いい。残りは家に持って帰って、お父さんとお母さんに食べさせよう。だがそこで、気づいた。


 だああああ! また食べちゃった! ビューティフル・テイストのイシーロさんに渡して一〇万ゴールドをもらう、タイを食べちゃった! もう、どうして食べちゃったんだろう? バカなの? 私はバカなの?!


 と落ち込んでいても仕方しかたが無いので、私はまたタイを釣ることにした。するとタイがいる場所も分かっているし、絶対に魚が釣れる魔法を使ったのでタイはあっさりと釣れた。そして私はそのタイを食べないように、注意しながらバケツに入れた。そうして私はほうきに乗って、街に戻った。


 街に戻った時には日がれかかっていて、もうすぐ夕方になるところだった。なので私は急いで、アオマさんの魚屋さんがある通りの奥にあるビューティフル・テイストを目指した。


 そこは白いレンガで造られた三階建ての建物で、この街でもよく目立めだっていた。そして私は入り口からではなく、裏口うらぐちに回った。そこには木製のドアがあり、私は思い切り開いて叫んだ。

「すみませーん! リーネですー! イシーロさんはいますか?!」


 すると少しして、白い調理服を着た笑顔のイシーロさんが現れた。

「よう、リーネちゃん。その様子ようすだと、タイは釣れたみたいだな」

「はい!」


 私はバケツからタイを取り出して、イシーロさんに渡した。イシーロさんはくまなくタイの全身をチェックすると、微笑ほほえんだ。

「うんうん、こりゃあ良いタイだ。ちょっと待ってな」


 そう言い残してイシーロさんは、建物の中に入って行った。少しすると戻ってきて、右手を差し出した。

「金貨一〇枚で、一〇万ゴールドある。確認してみな」


 私は受け取った金貨を、数えてみた。うん、確かに一〇枚ある。なので私はイシーロさんに、お礼を言った。

「ありがとうございます!」


 するとやはりイシーロさんは、微笑んだ。

「いやいや。こっちこそ、立派りっぱなタイをありがとう。また釣ってもらう時があるかも知れないから、その時はよろしくな」

「はい!」


 そうするとイシーロさんは、「それじゃあ俺はこれから、これを料理するから」と言い残して建物の中に入って行った。私はその後姿うしろすがたを、満足して見つめた。


 ちゃんとタイを渡して、ちゃんと一〇万ゴールドを受け取ったからだ。それから私はウキウキした足取りで、家に帰った。するとお母さんが夕食の準備をしていたので、タイを渡した。

「お母さん! このタイをあげるね! 私が半分、食べちゃったけど!」


 するとお母さんは、微笑んだ。

「まあ、立派なタイねえ。うん、これも今夜のおかずにするわね」


 そして台所で料理を始めようとしたお母さんに、私は声をかけた。

「あ、そうだ。これ、あずかってて」

「え? なあに?」


 私はお母さんに、金貨を一〇枚手渡した。

「一〇万ゴールド、預かってて。タイをビューティフル・テイストのイシーロさんに渡したら、くれたの」


 するとお母さんは、笑顔で受け取った。

「なるほど、そうね。私が預かっておくわ。必要な時は、言ってね」

「うん!」


 そこまですると、私は急に疲れを感じた。無理もない。今日は久しぶりにほうきに乗ったし、タイを二匹も釣ったし。なのでお母さんが夕食を作るまで、私は自分の部屋のベットで横になった。するといつの間にかねむっていたんだろう。お父さんの声で、私は起こされた。

「起きなさい、リーネ。夕食の時間だよ」


 私は目をこすりながら、答えた。

「え? 夕食? あ、そうか。私、寝ちゃってたんだ……」


 テーブルのイスに座ると、テーブルの上にはパンとスープと大皿の上にせられたタイの半身があった。私は、聞いてみた。

「お母さん。タイを、どうしたの?」

「うん。塩を振って、焼いてみたの」


 なるほど、タイの塩焼きか。それは美味おいしそうだ。私は早速さっそく、食べてみることにした。いただきます。私はタイを一切ひときれ、食べてみた。お、美味しい……。


 タイは塩がいていて、身はふっくらとしていた。岩礁がんしょうで食べた時とは食感が違って、いくらでも食べられた。もちろんパンとスープも美味しかった。なので満腹になった私は「ごちそうさま」とテーブルを離れて、再びベットで眠った。


 朝。目が覚めると私は早速、乳牛にゅうぎゅうからミルクをしぼった。そうして乳牛に草原で草を食べさせて私も昼食を食べると、アオマさんの魚屋さんに向かった。そこに着くと早速、聞いてみた。

「ねえねえ、アオマさん。またイシーロさんから、タイを釣ってくれっていう依頼いらいはないの?」

「ううん。ないよ」

「ああ、そうですか……」

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