第四話

 苦労してようやくれたので、私はしばらくそのカツオをながめていた。すると、思った。美味おいしそう。お腹も少し、いてきたし。


 いやいや、ダメだ。これはアオマさんに、五〇〇〇ゴールドで売るんだから食べるわけにはいかない。でも、ちょっとくらいなら。シッポの方、ちょっとくらいなら……。そして私はナイフでカツオのシッポの部分を、切り取った。


 ナイフは、こしにぶら下げてある小袋から取り出した。それにはハシと小皿と、しょう油も入っていた。釣ったカツオを、ちょっとだけ食べようと思っていたからだ。なので切り取ったカツオをハシでつまむと、小皿の上にのせた。


 小皿にはしょう油を注いで、すりおろしたショウガを混ぜた。それに切り取ったカツオを付けて、刺身さしみで食べてみることにした。いただきます。


 するとしょう油とショウガに引き立てられた、カツオの旨味うまみを感じることができた。お、美味しい……。でも、これだけでは満足できなかった。


 私はカツオも食べたことがあるが、その時はもっとあぶらがのっていたはずだ。だから私はカツオの、お腹の部分をナイフで切り取って食べてみた。するとやはりカツオの脂と旨味を感じられて、とても美味しかった。


 そして気づくと、カツオの半身はんみを食べていた。うん、今回はここまでにしよう。残りは家に持って帰って、お父さんとお母さんに食べてもらおう。そう考えた時に、気づいた。


 だああああーー!! 食べちゃった! アオマさんに五〇〇〇ゴールドで売ろうと思っていたカツオを、食べちゃった! それも、半分も食べちゃった! 売れないよね、これは売れないよね。私はなんて、食いしんぼうなんだああああーー!!


 でも落ち込んでばかりもいられないので、もう一度カツオを釣ることにした。するとカツオが釣れる場所で魔法を使ったので、あっさりと二匹釣れた。私はそれを金属製のバケツに入れると、アオマさんの魚屋さんに向かった。私が釣ったカツオを見たアオマさんは、顔をほころばせた。


「おお! こいつは良いカツオだね、リーネちゃん! 丸々と太った、良いカツオだ。これなら一匹、五〇〇〇ゴールドで買うよ。二匹だから、一万ゴールドで買うよ。それで、いいかい?」


 い、一万ゴールド! 一匹、五〇〇〇ゴールドで買うと言ってたから二匹なら一万ゴールドで買ってもらえるかなと思ったら、その通りになった! なので私は、コクコクとうなづいた。


 するとアオマさんはるしていたザルから、金貨一枚を取り出して私にくれた。私はそれを裏表とひっくり返して、何度も見た。い、一万ゴールド。この私が、一万ゴールドをかせいじゃった。そして金貨をスカートのポケットに入れると、私は恐る恐るアオマさんに聞いてみた。


「あのー、アオマさん……」

「何だい、リーネちゃん」

「明日もカツオを二匹釣ってきたら、一万ゴールドで買ってくれる?」


 するとアオマさんは、少し考える表情をした後に答えた。

「そうだなあ。まだまだカツオは漁師りょうしってくる量が少ないから、買うよ。うん、二匹で一万ゴールドで買うよ」


 私はそれを聞いて、飛び上がるほど喜んだ。そしてアオマさんと、約束した。

「それじゃあ明日もカツオを二匹釣ってくるから、一万ゴールドを用意しててね! それじゃあ!」


 そうして私は半身が残ったカツオを持って、家に帰った。お母さんに渡すと夕飯のおかずに、カツオの竜田揚たつたあげを作ってくれた。それは油でカリッと揚げられて歯ごたえも良く、カツオの旨味も感じられた。それをお父さんもお母さんも、喜んで食べていた。

「うん。これは良いカツオだ。とても美味おいしいよ、リーネ」

「ホントに美味しいわよ、リーネ」


 そして私は、アオマさんからもらった金貨を見せた。

「それでね、今日はカツオを三匹釣ったんだけど、その内の二匹をアオマさんに売ったの。そしたら一万ゴールドで売れたの!」


 するとやはり、お父さんとお母さんは喜んだ。

「おお、一万ゴールドを稼いだか。やるな、リーネ」

「ホントよね~」


 なので私は、聞いてみた。

「で、アオマさんに聞いたら、明日もカツオを持って行ったら買ってくれるんだって。だから明日も、釣りに行ってもいいでしょう?」

「うーん、そうだなあ。危険なことをしなければ、行っても良いと思うぞ」

「そうねえ。ちゃんと乳牛にゅうぎゅうの世話をした後なら、行っても良いわよ」


 それを聞いて、私は再び飛び上がるほど喜んだ。

「うん! ちゃんと乳牛の世話もするよ! そしてそれから釣りに行くよ!」


 そうして夕飯を食べ終わった私は、明日に備えてすぐに眠った。


 次の日。私は、乳牛の世話をした。ミルクをしぼって食堂に売って、草を食べさせた。それが終わると私も昼食を食べて早速さっそく、釣りに行くことにした。行き先はもちろん、昨日カツオを釣った岩場だ。そして海にエサが付いていない、釣りばりをソロリといれた。それから、魔法をとなえる。


 私は意識を集中させて、それを右腕、釣り竿ざお、そしてその先にある釣り針まで届くイメージをした。そして、魔法を唱えた。

「魚たちよ、このにおいを感じ取れ! キャッチ・ザ・フィッシュ!」


 するとやはり、カツオが釣れた。もう一度やると、やはりカツオが釣れた。うん、今日はこれでいい。いくらカツオの刺身さしみが美味しくても、二日連続で食べる気はしない。なのですぐに、アオマさんの魚屋さんに向かった。

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