第13話 篠塚隊長

紗織の心臓が、ドクンと高鳴る。

視線がほんの一瞬、自分を掠めただけで――

空気が凍りついたように感じる。


紗織(心の声):「……なに、この人……怖いのに、綺麗……」


紗織は表情を整え、ぎこちなく笑って頭を下げる。


紗織:「あっ、えっと……澪の親友の、佐藤紗織です。

澪を助けてくれて……本当に、ありがとうございます。」


彼女は恐る恐る桃太郎の手を取る。


桃太郎:「あぁ…よろしく。」


桃太郎の指がわずかに動き、静かに手を振り払いそのまま通り過ぎる。


残された紗織は、頬を赤らめたまま彼の背を見つめる。


紗織(心の声):「……危ういほど、魅力的な人。」


澪がくすっと笑い、

紗織の肩を軽く叩く。


澪:「ね、変わってるでしょ? でも……悪い人じゃないの。」


紗織はまだ心臓の鼓動を抑えられず、小さく頷いた。




篠塚のオフィスへ向かう一向


厚い鉄扉の前で足を止める。

地下深く、冷たい蛍光灯が一本だけ灯る通路には、風の音も届かない。

ただ、機械の低い駆動音と湿った空気だけが満ちていた。


澪が軽く息を整え、扉をノックする。


「……神谷です。任務から戻りました。」


数秒の間を置いて、低く落ち着いた声が返る。


「入れ。」


扉が重い音を立てて開き、3人は中へ入る。

部屋の中央には、資料と地図が積み上げられたデスク。

篠塚剛志が腕を組み、ゆっくりと立ち上がった。



篠塚:「……よく生きて戻ったな、澪。

あんな鬼の群れに囲まれて……どうやって生き延びた。」


澪:「……私一人じゃ無理でした。

桃太郎さんと、彼(バサラ)に助けてもらったんです。」


篠塚は二人に視線を向け、短く頷いた。

そして、息をつく。


篠塚:「そうか……。他の部隊は?」


澪:「全滅しました。」


重い沈黙。

篠塚は拳を握り、わずかに俯く。


篠塚:「……あの任務は危険すぎた。

だが、お前が戻っただけでも意味はある。報告してくれてありがとう。」



篠塚はデスク脇の資料を手に取り、バサラへと向き直った。


篠塚:「あなたが……“十二神将”か。」


バサラは軽く頷く。

その名を聞き、篠塚の目に驚きと敬意が宿る。


篠塚:「まさか……伝説が本当だったとはな。

俺の師――玄真から十二神将の話を聞かされてたんだ。

“古き時代、人と神の理を繋ぐ十二の戦士が存在した”ってな。

だがまさか、実在するとは思わなかった。」


バサラは静かに笑みを浮かべる。


バサラ:「……伝説、か。

なら、まだどこかに俺と同じ“同胞”が生きているはずだ。」


その言葉に篠塚が頷き、机上の地図を広げる。


篠塚:「その可能性はある。

北海道の中部、山岳地帯の山頂に“廃寺”がある。

古い記録に“異界の風が吹く場所”とだけ残されていた。

師匠はそこに“十二神将の一人が眠っている”と話していた…申(サル)だったかな…..?」


バサラ(少し前のめりになり):「……本当か?

同士がまだ、この地に?」


篠塚:「確証はない。

だが、もし本当なら――お前たちが探す“理”への手がかりになるかもしれん。」



バサラはしばらく考え、桃太郎に視線を向けた。


バサラ:「桃太郎……一緒に来てくれないか。

もし本当に十二神将が眠っているなら、

私達も天の使いだ…お前の“失われた記憶”にも何か繋がるはずだ。」


桃太郎は黙って考え込み、目を閉じて短く息を吐く。

そして、ゆっくりと答えた。

「……行かない理由もないからな。わかった、行くよ。」


その瞬間、澪が一歩前に出る。


澪:「わ、私も行きます! 二人の護衛として!」


篠塚が驚いて眉を上げる。


篠塚:「おい、澪。お前はまだ――」


澪:「決めました。もう、誰かを失うのは嫌です。

それに……桃太郎さんを一人で行かせられません。」


一瞬、静寂。

篠塚はしばらく澪を見つめ、やがて苦笑を漏らした。


篠塚:「……お前のそういうところ、師匠譲りだな。

好きにしろ。ただし――命を粗末にするな。」


澪は深く頭を下げる。


澪:「ありがとうございます、隊長。」


篠塚は頷き、少し柔らかい口調に戻る。

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