第9話 相手の特技を見抜けるかわいさ!
おもちゃの人に、上下する鉄の棒を貸してもらいたい。つまり、貸しても良いと思えるだけの信頼を稼がなくちゃいけないんだよね。
実際のところ、かなり難しいとは思うよ。初対面の人に大事な物って貸せないし。
ただ、確かに隙もあるんだ。おもちゃの人、ローランド君は趣味を軽く見られている雰囲気みたい。ペアっぽい人に、おもちゃ呼ばわりされていたからね。
だからこそ、その価値をしっかり認める人になるのが第一歩。そこから、進んでいこう。
ミメンの実を押しつぶしているローランド君に近寄っていって、明るい笑顔と弾んだ声で話しかけていくよ。まるで、目をキラキラさせた子供みたいに。
「あの、これってどんな仕組みなんですか? 作業をしたまま聞いてもらって良いんですけど」
「気になるんですか? えっと、どのレベルで知りたいんですか?」
よし、取っ掛かりはつかめたみたい。とはいえ、まだまだ油断は禁物。どのレベルかと聞かれるってことは、軽い質問にはうんざりしているのかもしれないからね。
アミカちゃんかわいいテクニックその20! 言いたいことよりも、相手の言われたいことを優先すること!
興味のない話をされても、人はあんまり好きになってくれないからね。
「これって、回転を上下の動きに変えているんだと思いますけど、どういう仕組みなんですか?」
「えっと、回っているのは見てもらえば分かると思うんだけど、この柱を組み合わせて、距離を調整していて……」
詳しく聞いていくと、いくつも部品を組み合わせて動きを変換しているっていうのは分かったよ。たぶん、からくり人形みたいな仕組みなんだと思う。
つまり、応用すればもっと派手にものを動かせるかもしれないよね。
例えば、逆に上下運動を回転に変えれば、長い円みたいなのを回してものを運べるかも。
単なる思いつきでしか無いけれど、実現したら凄いかもって思えたよ。
私の発想力でも、夢が広がっていく。なら、もっと良い案が集まれば、もっとキラキラした夢が見られるかも。
ちょっとだけ、ワクワクしちゃった。ローランド君は、もしかしたら天才なのかもって。
なら、まずはその気持ちを素直に伝えるところからだよね。心からの感情を乗せた方が、本物に近づくんだから。
「その仕組みを大掛かりにすれば、人みたいなのを動かせたりしませんか? 回転を手足の動きに応用して……」
「た、確かに! この機構を応用すれば、関節の動きは作れるはず……! 僕なら、何ができる……?」
あごに手を当てて、考え込んじゃったみたい。邪魔するのも悪い気がするけれど、今は授業中だし。私が鉄の棒を借りたいのもあるけれど、ローランド君も課題をこなせなくなっちゃう。
ひとまず、話を止めた方が良いかな。ただ、私の案が良い発想につながったのなら、借りることには近づいたはず。
さっすがアミカちゃん! やっぱり、魔性の女なんだよね。どんな男の人でも、落とせちゃうんだから。
「あの、今は授業中ですから……。課題に集中した方が……。聞いておいて、悪いんですけど」
「えっ、あっ……。ごめん、気を使わせちゃったね。でも、ありがとう。おかげで、僕は一歩進めそうです」
「それで、提案なんですけど。その鉄の棒を貸してくれませんか? ちょっと、試してみたいことがあって」
「分かった、良いよ。最悪、壊しても構わない。あなたなら、ちゃんと意味のある実験をしてくれるはずですから」
穏やかな笑顔で、私に鉄の棒を渡してくれたよ。相当、信頼されちゃったみたい。こんなに簡単でいいのかなってくらい。
でも、なんとなく分かった気がするよ。ローランド君は、本当に実験が好きなんだね。なら、私の試すことでも役に立てるかも。
この鉄の棒でミメンの実を割れるのなら、他にも応用できるはずだもんね。結果を、しっかり伝えないとね。
まずは借りた道具を設置して、そこにミメンの実を転がしていく。実は上下運動に巻き込まれて、何度も叩かれていったよ。
そして1分ほどして、割ることに成功したんだ。ただ、時計を見ると残り20分。今のままでは、間に合わない。
とりあえず、止まっちゃダメ。策を考えながら、動かし続けないと。一個一個、ミメンの実を割っていく。
これって、何でもとの回転を作っているんだろう。魔力だったりするのかな。
魔力だとすると、できることはある。私は、魔導石を取り出したよ。そして、鉄の棒に触れさせる。魔力を送り込めるように。
そうしたら、音が強くなったのが分かったよ。カンカン鳴っていたのが、もっと甲高くなる感じ。
ミメンの実を鉄の棒のところに転がすと、30秒もしないうちに割れたんだ。
残り時間は、ひたすら同じことを繰り返したよ。そして、なんとか間に合ったみたい。
まずは、エルカ先生に提出していく。
「合格だ、アミカ君。次の課題も、乗り越えられるといいがね」
ちょっとだけ厳しい目で、そんなことを言われた。だけど、今は気にしても仕方ないよね。
ひとまず、ローランド君に鉄の棒を返しに行くよ。すると、とても楽しそうな笑顔をしていたんだ。
「ちょっと、見ていたよ。あんな単純な動きの道具でも、使い道はあるんですね。もっと圧を高めたら、金属を砕けたりしないかな……?」
「なるほど。ローランド君。上下動の回数を増やせば、すりつぶせたりするかもしれません」
「良いね、それ! そっか……。他の人と話すだけで、こんなにアイデアが浮かぶんですね……」
ローランド君は、ちょっとだけうつむいてニヤけているみたいだった。よっぽど嬉しかったみたい。
アミカちゃんも、試験を突破できて嬉しいよ。お互い、良い出会いだったよね。
これからも、いろんな発明を見せてほしいな。アミカちゃんの課題に、役立ってくれるはずだよ。
そうしているうちに、チャイムが鳴ったよ。私もローランド君も、問題なく突破できた。
「ローランド君、ありがとうございました。また、お話してください」
「こちらこそ。アミカさんって言うんだよね。これから、よろしくお願いします」
私たちは握手をして、それから別れていったんだ。
休み時間が来て、ちょっとだけ休憩。息抜きも兼ねて、学園を探検してみることにしたよ。建物の中は、かなりいろんな部屋がある感じ。実験に使いそうな部屋とか、本がいっぱいある部屋とか。
一通り見て回って、今度は校舎裏に入ってみる。その先に、ソフィさんを見つけたんだ。
「ソフィさ……」
「アミカさんを退学にさせたいの? それなら……」
そんな声が聞こえて、息が止まった。少しして、心臓がうるさくなっているのが分かったよ。
ちょっと、話が聞こえてこないかも。いや、良いんだよね。盗み聞きは、かわいくないから。
軽く覗き込むと、奥にエルカ先生の姿が見えた。それだけ分かって、私は離れていく。うつむきそうになるのを、ほんの少しだけ上を向いて我慢しながら。
ソフィさんは、私を退学させたいのかな。信じないでって言ってたのは、このことだったのかな。
ううん、疑うのはかわいくない。信じなくちゃ。
それに、ソフィさんは魔導石を渡してくれた。美味しい料理を作ってくれた。ただ退学させたいだけなら、邪魔なだけなことを。
きっと、お父さんに命令されて仕方なくやっているだけ。ソフィさんだって、クビになったら生活できないんだから。そうに決まっている。
ソフィさんは、私をかわいいって思ってくれているはず。そうだよね。そのはずだよね。
気づいたら、お昼ご飯を食べ終わっていた。それまで何をしていたのかも、お弁当がどんな味かも、何も思い出せなかったんだ。
ただ、隣の席にいるクロエちゃんは、どこか泣きそうな顔をしていた。それが、目に入ったよ。
「アミカちゃん……。私が、一緒に戦えれば……」
うつむくクロエちゃんに、何も返せないまま。ただ、時間だけが過ぎていった。
そして、次の授業。私の組は、スミス君もローランド君も、俺様の人もいない組になっていたんだ。
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