アミカ・ショウタイム! ~魔力ゼロだけど、最高のかわいさを装ったら世界中を魅了しちゃった~
maricaみかん
第1話 世界で一番かわいいアミカちゃん!
世界で一番かわいいのは、この私。そう、アミカちゃん!
入学式の準備のために鏡を見ながら、あらためて確信したんだ。
櫛が勝手にすり抜けちゃう銀髪は、ふわふわでキラキラ。
ピッカピカすぎて太陽もビックリな肌は、指に自然と吸い付いちゃう。
青空を押し込めても表現できない目からは、素敵オーラが飛び出てる。
どのパーツも神様レベルで、組み合わせも素晴らしすぎるよ。最高って言葉が形になった私の顔こそが、世界で一番の宝物なんだ。宝石なんて、私と比べれば石ころ同然。
だけど、そこで収まらないのがアミカちゃん!
鏡の前で、舌を鼻に届きそうなくらい上に出してみたり、逆に下に広げたり。舌を回すこともしちゃう。
さすがに、今の私はちょっとかわいくないかも。でも、これも大事なこと!
アミカちゃんかわいいテクニックその104! トレーニングでは恥ずかしい表情もためらわない!
でも、人前では厳禁だよ。かわいさの裏に隠れた秘密は、私だけが知っていれば良いんだ。
続けていつも通りに笑顔を作ると、清楚さも明るさもバッチリ。誰よりも自然な作り物。どんな人形だって、私にはひれ伏しちゃう。
つまり、私の全部が最高なんだ。完璧にかわいい存在。それこそが、アミカちゃんなんだよ。
笑顔の練習を続けていると、ノックの音が。外向きの顔を作って返事をすると、メイドさんが入ってきたよ。私より何歳か年上くらいの人だね。
「おはようございます。今日も、よろしくお願いしますね」
穏やかな笑顔で、朝のあいさつ。パッチリした目が崩れない程度に細めて、口元は咲き誇るように。最高の私を、全力で見せていくよ。
「これで、お腹は膨れると思うわ。栄養価も、悪くないはずよ」
私のかわいさに、メイドさんもニッコリ。とっても簡単に、とろけちゃうんだよね。
嬉しそうに、お食事を配膳しているよ。片方のトレーが食べ物を、もう片方が食器を。手から離れて、プカプカと浮いて運ばれていく。魔法、だね。うん。
今日は、豆とお芋のスープ。これが全部。
出されたメニューは、上品そのものって感じで食べる。口を大きく開けたりしないで、食器もなめらかに動かして。
食べ終えたら、自分の部屋から出ていくよ。メイドさんに、しっかりと笑顔で話しかけながらね。
「今日も朝ご飯、おいしかったです。優しい味がして、落ち着きました。いつも、ありがとうございます」
「気にしないで。アミカさんのお世話が、私たちの仕事なの。お礼なんて、いらないわ」
「毎日食べられると思うと、朝起きるのが楽しみなんですよ。今まで、ありがとうございました」
ペコリと頭を45度に下げて、上げた時にちょっとだけ笑顔を見せていく。
かわいく見える角度は、計算済み。全力で演出してこそ、本物だよね。メイドさんも、口元を緩めちゃってる。やせた後のスカートくらいゆるっゆるだよ。
いつも通りの話をしていると、いつもと違って横からパタパタと足音が聞こえる。そっちを見ると、バケツを浮かせたメイドさんが居たよ。
会ったことがないから、新人さんかな? 普段と同じ笑顔を向けると、バケツから水をかけられた。
「魔法も使えないようなやつには、これがお似合いだよ!」
顔が冷たい。苦みが広がっていく。生臭さも感じる。全身がちょっと黒い。体が震える。ポタポタって音が聞こえた。
今の私、たぶん泥人形。みんなから、冷たい目で見られる存在。どうして私ばっかり。魔法が使えないのが、そんなに悪いことなの?
水だけじゃない寒さが、全身に広がっていった。心まで、凍りついちゃいそうなくらいに。
「ふざけ……」
「アミカさん……! あなた……!」
メイドさんの言葉で、言葉が止まった。ちょっと深呼吸して、心を落ち着ける。
感情をそのままぶつけていたら、かわいくなかったね。
きっと、新人さんは何かを吹き込まれたんだと思う。たぶん、私が邪魔な人に。
なら、感情を上書きしてあげちゃえば良いんだ。
メイドさんは、新人さんを強くにらんでいる。新人さんもにらみ返している。きっと、このままじゃ争いになっちゃう。
今こそ、アミカ・ショウタイムだよ。私の輝きで、新人さんだって落としちゃうんだから!
「いえ、大丈夫です。苦しいことがあったのなら、聞きますよ。今日で私は出ていくんですから、この家の人には伝わりません」
私は、新人さんに柔らかい笑顔を見せる。頬を少しだけ緩めて、目元は穏やかに。気持ちは聖母様。
そうしたら、目を白黒させていたよ。狙い通り。ずっと好意を向けられたら、普通の人は折れちゃんだよ。ね?
アミカちゃんかわいいテクニックその1! 笑顔はすべての基本だよ。どんなに苦しくたって、変えないこと。
泣き顔を見せたって、もっと責められるだけ。にらんだりしても、負けだから。ただ敵が増えちゃうだけなんだから。
だから私は、新人さんに微笑みかけ続けるだけだよ。
「は……? 雑巾を絞った水までかけられて、どうしてそんな笑顔ができるの!? おかしいんじゃないの!?」
「これは、あなたが頑張ってお掃除をしてくれた証なんです。だから、大丈夫。ね?」
そう言って、もう一度笑いかける。これが私のかわいさ。アミカちゃんの生き方だから。
「そんな姿で、何を……」
「ねえ、私と仲良くしてくれませんか? あなたがどんな仕事をしているか、教えてくれませんか?」
「言えば良いんだろ。単なる掃除係だよ。いくらでも換えの効く程度の」
そっぽを向きながら言っていたよ。そこが、隙。不満があるのなら、私だけでも肯定する。そうしたら、きっと味方になってくれるはず。
私のやるべきことは、ただまっすぐに向き合うことだけなんだ。
「違います。私の話を、ちゃんと聞いてくれました。それって、あなたの優しさだと思うんです。特別なことなんですよ」
「なんで、そんなにあたしを……」
目が揺れているね。きっと、次でトドメになるはずだよ。
「信じるって決めましたから。あなたにも、何か事情があるんだって。きっと、本当は素敵な人なんだって」
「ははっ……。誰だよ、薄汚い売女って言ったやつ……」
新人さんの顔から、力が抜けていく。これは、大成功だね。
「分かってくれて、ありがとうございます。あっ、手を握ったら、あなたが汚れちゃいますね」
「いや、良いよ。あたしのやったことなんだからさ……」
新人さんは、私の手を両手で包みこんでくる。私が勝った証だね。
そのまま、新人さんにお風呂で洗ってもらうことになったんだ。備え付けられたシャワーは、魔力が必要だから。
私には、基本的に家具は使えないんだ。魔法が使えないから、誰かにお世話してもらわなくちゃダメってこと。
「当主様は、メイドとして認められたければって。どうしてなんだろうね。ただ流されたあたしも、バカだったんだけどさ」
新人さんの手でゆっくりと、魔法で出されたお湯で洗い流されていくよ。とっても丁寧に触れてくれる。
どうして、か。誰でも魔法が使えるくらいなんだから、貴族の私が使えないのはダメなんだろうね。そんな悔しさも、少しはある。誰もいなかったら、唇を噛んじゃってたかも。
だけど、私は理想の姿を見せ続けるよ。だから私は、はにかむような笑顔を浮かべたよ。
「ありがとうございます。やっぱり、あなたは優しいですね」
新人さんは、そっぽを向いていたよ。でも、ちょっとだけ顔が赤いんだ。アミカちゃんの大勝利だね。
「どうして、あんたは魔法を……。他に見たことなんて無いのに……」
メイドさんは、ぽつりとこぼした。本当に、どうしてなんだろうね。私も、魔法を使えない人なんて見たことない。そんな本音が言えたら、もっと楽なのかもって思いもしたよ。
でも、かわいい私をずっと見せ続けなきゃダメ。だから、顔に力を入れたんだ。
お風呂から出たら、私は自分で着替えに行く。新人さんは、少し悲しそうに見えたかな。
「さっきのおわびに、あたしに手伝わせてよ」
「過度な手伝いは禁止されているでしょう? 当主様に私たちが罰されると、アミカさんが悲しむわ」
そんな言葉を聞きながら、着替えのある部屋に入った。扉は、メイドさんが開けてくれたよ。照明も点けてくれた。魔力がないと、扉すら開けられないから。
聞く感じだと、私に親切にするなって言われているみたい。お父さんの命令らしいよ。魔法も使えない私なんて、放っておけだって。妾がせいぜいだとも言われた。
「私だって、頑張っているのに……」
座り込んで、スカートをぎゅっと握りしめた。声が震えているのが分かる。
こんなのダメだよ。かわいくない。かわいさを無くした私なんて、生きている意味がないんだから。
だから、諦めちゃダメ。私は、かわいいんだから。もっとかわいくなれるんだから。
それに、自分で服を選ぶってことは、最高の私を演出できるってこと。とっても大事なことだよ。全力で、私が引き立つものを選んでいくんだ。
かわいさは総合芸術。ただ顔だけじゃ、全然足りないからね。
今日から始まる学園生活で、この家とはしばらくお別れ。両親のいない世界に羽ばたくんだ。
だから、そこから始めるよ。私のすべてでメロメロにして、運命を変えてみせるんだから。
ゆっくりと立ち上がる。そして、一度だけ目をつぶって深呼吸。それから私は、いつものかわいい私になった。
私は、出来損ないなんかじゃない。絶対に、証明してみせるんだから。
そのために、アミカ・ショウタイムを続けていく。必ず、私を認めさせてみせるよ。決意を秘めて、服に袖を通したんだ。
部屋から出ると、メイドさんたちが見送りをしてくれる。玄関までたどり着くと、ふたりとも頭を下げてくれたよ。
「応援しているわ。これからも、ね。何も変えられないのが、申し訳ないけれど」
「本当に、さっきはごめん。あんたは、絶対に出来損ないなんかじゃないんだ」
「大丈夫です。絶対に、めげたりしません。魔法がなくても人間なんだって、証明してみせますから」
メイドさんたちは最後にもう一度、深く、深く頭を下げてくれたんだ。ちょっとだけ目が熱くなったのは、アミカちゃんだけの秘密にしておくね。
自宅へと別れを告げて、ユミナス学園へと向かう。そこは貴族たちの社交の場でもあるよ。似合う服をいっぱい選んだから、それを全力で活用しないとね。
私のかわいさを、最大限に発揮してみせるよ。まぶしさで目を焼かれちゃいそうなくらいに。
学園にいる人たちを、全員ときめかせちゃう。男の子も女の子も、先生だって。みんなみんな。
アミカちゃんかわいいテクニックを使いこなして、学園で一番の人気者になっちゃうんだから!
えっ? 学園の門って、魔力がないと開かないの?
―※―※―
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また、同日に更新している作品もありますので、良ければそちらもどうぞ。
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