第20話

ドリーム&ハウスドリームの従業員も、実家のお隣さんも、そこで生きている人々は、本当に、自分の夢の中にしか存在しない――? 


考えてもわからないが、業界に長い神崎がドリーム&ハウスドリームのことを知らないとなると、やっぱり夢の中のみに存在する不動産会社なのだ。


現実にないことが、やっぱり気味悪く感じられるようになってきた。


現実にあれば、願望夢としてしっかり夢を見ているのだろうと思うのに。


もし現実に木津がいたら、挨拶をかわせるのだろうか。


それとも夢の中だけでしか会っていないので、お互い知らない人同士、挨拶もせずに通り過ぎてゆくのだろうか。


まあ、夢にしか存在しない人間のことを現実で考えていても仕方がない。


「そろそろです」


信号を綺麗に右に曲がると、三階建てのアパートが見えてきた。


内見する場所は、ここの三階だという。再び、アパートの駐車場に止まった。


降りて、神崎の後を追うように三階へ行く。どうしても男性のほうが歩くのが早いから、くるみが後を追うような形になってしまう。


小走りについていく。神崎がアパートの鍵を開け、どうぞ、と言う。中に入ると、一面に日が差していた。


明るい。それだけでもう満足感がある。


古い感じもするが、バスとトイレは別。部屋はダイニングのほかに、フローリングの部屋が二つ並んでいる。


水回りも一か所におさまっており、洗面台に洗濯機、収納棚がある。ベランダも広く、洗濯物が干しやすそうだ。コンセントもいい位置にある。


「ここ、いいですね」


「でしょう。私のおすすめの物件です。アパートですが、この辺りは治安もものすごくいいですし、アパートに住んでいる人もいい方々ですよ」


「地盤はどうですか」


「硬いほうだと思います」


頷いていると、靴音が聞こえてきて、隣の人が鍵を開ける音が大きく響いた。


やはり、音は良く響くし反響する。でも、許容範囲内かな、と思う。なにも聞こえないのも逆に怖い。少しくらい生活音があったほうが安心はできる。もちろん、なにも聞こえないほうがいいと思う人も世の中に入るのだろうけれど。


「都市ガスですか、プロパンですか」


「都市ガスです」


「駅からはどのくらいですか」


「十五分ほど歩きます。でもご要望のスーパー、病院はすぐ近くにありますし、家電量販店も駅前にありますよ」


「ちょっと外の環境を見てもいいですか」


「ではご案内します」


神崎はアパートから出る。くるみも出ると、鍵を閉め、近くのスーパーを案内された。


知っている、有名な巨大スーパーが、五分ほど歩いたところにある。病院も、内科と耳鼻科が近くにあった。


家電量販店まではさすがに行かなかったが、場所を教えてもらった。


十五分は長いと感じられるか短いと感じられるか。会社が終わって帰る夜道は怖いと思うか思わないか。


そこが引っかかった。


もう日が暮れるのも早くなっているし、秋冬はやはり、心配だ。


「夜道はどうですかね」


「商店街の中を通れるので明るい通りはありますよ。ですが五分ほど、暗い道があります」


「そうですか……」


「ご案内しますか?」


「お願いします」


夜、暗くなる、と言う道を徒歩で案内してもらった。確かに周囲には家も建物もなく、夜は真っ暗になるだろうな、という懸念がある。


「ここを頑張って通って頂ければ、あとはもうアパートですので」


「はい。ちょっと考えたいです……すごく気に入りました。もう一度アパートを見せて下さい」


「はい。ではもう一度行きますか」


五分ほど歩いて、アパートに戻る。ドアを開けた途端、日が差しているのが本当にいい。全体的に明るい。


キッチンも使いやすそうだ。改めて中を見渡してここ、いいなぁ、と本当に思う。


部屋も二つあるから、のびのび使える。一つを寝場所にして、もう一つをご飯を食べる場所にするのもいいかもしれない。これで六万八千円。駅から徒歩十五分という点と、木造アパートだから安いのだろう。


「本当に気に入られたようですね」


神崎が初めて笑顔を見せた。


「はい、とても」


くるみの出す声も、思わず明るくなった。本当に、今、ただここにいるだけで安心感が物凄い。


「では、もう一件、行きましょうか」


そう言って時計を見る。正午を回っていた。くるみもスマホで時間を見る。


「本来なら休憩時間ですか?」


「あ、いえ。休憩は別の時間にとれます。ただ、ちょっとお腹が空いてしまいまして」


朝はシリアルだったから、くるみもおなかが空いている。


「私も少し……」

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