第14話

「はい、コウミハウスです」


「あの、本日お世話になりました都築です。神崎さんはいらっしゃいますか」


「少々お待ちください」


事務的な態度で相手は言う。三十秒ほど保留音が流れて、声が聞こえた。


「はい、神崎です」


くるみは繰り返し言う。


「都築です。本日はお世話になりました」


「こちらこそお世話になりました」


「遅くにすみません。頂いたファックスの中で気になるものがありましたので、それをお伝えしようかと」


「教えて下さい」


くるみは気になった物件四か所を言う。


神崎はメモしているのか、なにかを書く音が電話の向こうから聞こえてきた。


「この四か所、まだ見学者が少ないんですよ。だから、早めのほうがいいですよ」


なら明日にでも行こうか。


「行って確かめますが、周囲の環境はどうでしょうか」


「どれも悪くないと思います。今日行ったような墓地もありませんし、日当たりも基本的に全部いいところを選ばせてもらいました。スーパーと病院、家電量販店はどこも近くにありますよ」


「では、明日にでも見学させてください」


「了解です。では明日の午前十時に」


「よろしくお願いいたします」


電話越しで頭を下げて、スマホの通話を終了させた。


ふ―っと息をつく。今日、三件見学しただけでも体が疲れている。


しかし墓地の隣を紹介されるとは。なにを考えているのだろう。いや、墓地の隣は嫌だとでも備考欄に書いておけばよかったのだ。


盲点だった。


今度はスマホの着信音が鳴る。大学時代の友人、友崎愛美まなみからだ。


「もしもし、愛美?」


「あ、くるみ? 元気?」


「うん、元気元気。どうしたの」


愛美も結婚して子供がいるが、働いているし、唯香のようにあれこれ言ってこない。


年賀状に子供の写真を送ってきたことがあっても、最初の一、二年だけだった。


今では普通の干支の絵が描かれた年賀状が送られてくる。


「いや、ちょっと遊びたくなって。映画でも観に行きたいなと思って。どう? 今忙しい?」


「リフレッシュ休暇中だけどちょっと忙しい。今一人暮らししたいから家借りるために走り回っていて」


「一人暮らしかぁ。私も、昔一人暮らししてたな。変な物件たくさんあるでしょ?」


「ある、ある。二等辺三角形の部屋とか」


言うと愛美は笑った。


「家が決まったら、遊びに行こうか。愛美の都合が良ければだけど」


「うん、そうしよ。なんかストレスたまっちゃって、仕事辞めたんだ。旦那が土日に出張行くし、実家のおかんが一日子供見てくれるっていうし、土曜か日曜、遊びに行かない?」


今日は木曜。家が決まっても決まらなくても、やっぱり遊びに行くか。唯香の時、嫌な思いしたからそのリベンジだ。


「うん、じゃあ、遊びに行こう」


「映画見てお昼食べてお茶しようか」


「いいね」


喋りたいこともたくさんあるのだろう。人間生きていればストレスが溜まる。


ストレスを発散したくなる時は、誰でもあるのだ。


「見たい映画とかある?」


「洋画ならなんでもいいかな。今何やってるのかちょっと、調べる気が起きない」


「じゃあ私が見たいのでいい?」


「うん。構わないよ。愛美に任せた」


渋谷で待ち合わせになった。渋谷も人が多いが、悪くない街だと思う。


ただ、小学生の時は、渋谷の悪い噂は絶えなかった。犯罪が多いとか、詐欺にあいやすいとか。


「じゃあ、土曜、渋谷の映画館前に、午前九時五十分」


午前十時からの映画を観たいのだという。


「わかった。土曜、映画館前に午前九時五十分ね」


頭に叩き込んで、電話を切る。大人になってもこうして友達が遊びに誘ってくれるのはありがたい。


愛美とも昔よりは話が合わなくなったと感じることもあるが、唯香ほどの毒はない。


明日は料理当番だ。朝は、今日と同じ、シリアルでいいや。そんなことを思い、早めに布団に入った。体がベッドに沈んでいく。


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