第12話

神崎と相談しながら、他に二件ほど物件を間取りから決めた。


一つは2DKのマンション。


もう一つは、八畳のワンルーム。


2DKのマンションは良さそうだが果たして。


「では、車で向かいましょう」


そう言って、木津と同じように神崎は車を出してくれる。助手席ではなく後部座席に乗れとのことだったので、乗り込む。


最初にワンルーム十畳の部屋を見せてもらった。


車で走れば二、三分で着いてしまう。


だが、縦に長く、コンセントが中途半端なところにある。イメージしてもテレビやパソコンが中途半端なところに置く羽目になる。するとベッドはどこに置く……?


快適に過ごせなさそうな部屋だ。キッチンも、コンロが一つしかない。


二つあったほうが助かるのだ。一応、自炊はするつもりだから。でも、バリアフリーのことを考えずに、ただ自分のためだけの物件を考えられるので気は楽だ。


「どうでしょうか」


「ちょっと縦に長すぎですね。生活のイメージが湧きません」


「ではここはなし、ですか」


「なし、です」


こういうところでも、何とか工夫して住んでいる人はいるのだろう。だが、くるみにはここに住める自信がなかった。住む家くらいわがままになってもいい。そう思うので、態度は謙虚に、要望はわがままになる。


「では、次に行きましょうか」


「はい」


次は間取りを見て楽しみにしていた2DKのマンションだ。


東神奈川からも近い。車がそこへ着くと、マンション専用の駐車場に車を止めた。


二階建てマンションの二階。神崎が鍵を開けるので、靴を脱いで中に入る。


思わず、うおおお、と叫びたくなった。カウンターキッチンに、


十畳くらいのリビング。そして、部屋が二つある。


どちらとも洋室だ。日当たりもいい。風呂、トイレも綺麗で広いし、水回りも一つに固まっている。


ここ、いいかも。感動するくらいとてもいい。そう思って部屋の窓を見に行った。


「あ!」


思わず叫ぶ。墓地があった。隣がすぐ墓地だ。くるみは内心で泣きそうになる。


こんなにいい部屋で気に入ってしまったのに隣が墓地とは。気にしないという人もいるのかもしれないが、くるみは気になる。


でもだからこんなに広くて七万円台だったのだ。


内心ですごくがっかりする。心なしか、線香の香りもしてくる。


「ここ、隣がすぐ墓地じゃないですか」


「そうなんですよ。でも、部屋自体はいいでしょう?」


「はい。とてもいいです。隣が墓地じゃなければ、すぐに借りてましたよ」


「墓地は嫌ですか」


「流石に」


「そうですよね。このマンション、空きも多いし、入る人がいても皆さん、すぐに出て行かれるんですよ」


「いわくつきじゃないですが」


「さらにお安くすることもできますが……」


隣が墓地で三年暮らす。安くても嫌だ。


お供え物を狙うカラスだっているだろうし、みんなすぐに出て行くということは、なにかあるのだ。絶対に。なんで墓地の隣にマンションなんて建てたのだろう。


「ここは、隣が墓地でも大丈夫な人に……」


神崎は渋い顔をする。


「ダメですか」


「はい。お化けも怖いですしね」


「お化けなんて出ないと思いますけど」


じゃあ、住んでみろ。そう言いたくなるのをこらえて、次へ向かう。


八畳のワンルームは、およそ、人が住めるような造りではなかった。


周囲が工事をしていて、空気が悪すぎる。


そして、クリーニングがされているとはいえクロスもなにもかも汚い。


お風呂は、昭和世代かと思うくらいのタイル張り。タイルの隙間と隙間には汚れが染みついていて、入りたくなくなる。


トイレも和式から無理やり洋式に直しましたという作りだ。


つまり、和式トイレを洋式として使えるように改造されている。


ここもないな、と思う。


「気に入りませんか」


「築何年ですか」


「五十年です」


「築年数は気にしませんが、ちょっと内装が古すぎますね……空気も悪いですし、あまり住みたくない家です」


「そうですか。申し訳ございません。こういうところしか紹介できなくて」


「いいえ、気にしないでください」


「今日はここまでしかご案内できませんが、弊社に帰ったら他の物件もピックアップして、ご自宅にファックスを送ります。ファックスはお持ちで?」


「はい、あります」


まあ、他を当たってもいいのだけれど。


「では、弊社まで帰りましょう」


マンションを出て車に乗り込むと、コウミハウスへ戻った。自宅の電話番号を確認する。


「いい物件がございましたら、ご紹介させて頂きますので。今後ともコウミハウスをよろしくお願い致します」


「はい、今日はありがとうございました」


「どうもありがとうございました」


神崎は深々と頭を下げる。コウミハウスも雰囲気が明るく、神崎の対応も嫌いじゃなかった。


ただ紹介される物件が、ことごとくよくない。くるみは他の不動産屋の貼り紙を見ることにした。


だが、やっぱりワンルームばかり。ワンルームが嫌なのは、荷物を置くと絶対に狭くなるからだ。


そんな狭くて余裕のないところには住みたくない。部屋の中で軽い運動すらできないのは嫌だ。


九万出せればいい部屋に住めるのに。


給料、もう少し上がらないだろうか。


勤続年数が十五年で手取り二十万はやっぱりあり得ない。


くるみと同じ年齢の人で、同じ勤続年数で、三十万貰っている人もいるだろう。


せめて二十五万だったら。そんなことも考える。 


二十五万貰えれば、九万の家を借りられたのになぁ。


様々な不動産会社を回り、一件だけ物件を見せてもらったが、環境が良くなかった。

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