第4話
いい夢を見た。
そう思いながら目を覚ます。午前七時。
部屋のカーテンを開けると、暗い。
向かいが七階建てのマンションで、太陽の光が遮られる。地主は金のためにくるみたちの家の日当たりなどを無視してマンションを建てたのだ。
日がそんなに入ってこない。会社のない平日は素晴らしいけれど、日が当たらないのも憂鬱だ。
朝食を作る。ここは現実世界だ。
そう思うと、夢の中での開放感がなくなり、たちまち気が滅入ってくる。
朝食は、いり卵とハム、野菜をロールパンにはさんだものを一人二つ。両親も起きてきた。
父はベッドから車椅子に乗り換えて、テーブルで食べるのが日課だ。
「ごめん、今日は友達と遊びに行くから、お昼は適当に食べて」
「わかった。じゃあ、お昼は適当に買う」
母が応じる。作りたくないから買うのだ。
「ありがとう」
朝食を食べ終えると身支度をし、歯を磨いて家を出る。川崎は家からまあ、近い。
電車一本で行ける。電車に揺られて、川崎駅に着いた。
人が多い。多い。時計台の下で待ち合わせをするので、時計台の下へ行く。
この時計台だけは、若い頃からずっとあるなぁ、と思いながら待っていると、午前十一時五分前に唯香がやって来た。
「お待たせ」
長い髪を一つにまとめ、ばっちり化粧をしている。
「待った?」
「待ってない。近いし」
「平日は手ごろな価格で美味しいお寿司屋さんがあるんだって」
「へえ」
言うと唯香は改札から見て左方向に歩いていく。くるみはあとをついていくことにした。
駅直結だ。歩けばすぐに、商業施設の人口芝生が見えてくる。
その芝生を突っ切って、お店の中に入ると、中のエスカレーターで四階まで上がる。
四階がレストランの並ぶフロアになっているらしい。
「ここ、ここ」
エスカレーターを登った先の、いちばん右側にお寿司屋さんがあった。そのすぐ横は家電量販店になっている。
お寿司のメニューを見てみると、確かにランチタイムでいくつかの握り寿司が、手ごろな価格で表示されていた。
客は結構並んでいる。出入り口で名前を書く場所があったので、くるみは名前を書いて、二人で椅子に座って待つことにした。メニューは千八百円の握り寿司にする。
「今実家?」
唯香が訊ねる。
「うん、一人暮らししたいなって考えているけど、今は実家だね」
唯香は笑って言った。
「それは子供部屋おばさんっていうことですね」
むっとする。どうして子供部屋おばさんとかおじさんとか、そういう言葉が流行ってしまうのだろう。人には事情があって、実家から出られない人もいるのに。
「どうしてそういうこと言うかなぁ。ちょっと腹立つ」
「だってその年で実家住まいって」
唯香は鼻で笑った。
「じゃあ、自分はどうなの? 旦那に養ってもらいながら生きているんでしょ? 寄生虫?」
すると、唯香もむっとしたような顔をする。
「私は子供二人を育てるのに必死なのよ」
「なら私だって毎日働いていることに必死だよ。お互い様でしょう」
「旦那に養ってもらうのだって、子育てしてるからだし。子供部屋おばさんよりましじゃない?」
本当に、この子とは相性が合わない。
というより唯香が必ず流行りの言葉を使って揶揄してくるのだ。
中学の時、父が独立するために今、無職でいると言った時、
「ならニートだね。昔で言えばプー太郎?」とのたまった。
この子は人の神経を逆なでする。なのに、なんでこんな年齢まで付き合っているのだろう。
そして、なんでこの子から離れられないのだろう。やっぱり遊びに来るの、辞めればよかった。それでも、唯香は気にせず話してくる。
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