『放課後ゾンビクライシス! 〜JKだけど世界終わってた〜』

ぱやち ゆら

第1話 放課後、ゾンビが出たらしい

 放課後。

 空はめっちゃ晴れてた。

 つまり、世界が終わるにはちょっと眩しすぎた。


 「ねぇミカ、さっきの悲鳴聞いた?」

 「んー、聞こえたけど、まあいつもの文化部のやつでしょ」

 「“ぎゃああああ!”って?」

 「声量すごいね。合唱部の腹筋、恐るべし」


 ……とか言ってたら、校庭が血の海だった。


 体育教師が倒れてて、数人がその上にのしかかってる。

 咬んでる。ガチで。

 え、文化祭のホラー演劇、今日リハだっけ?


 リコが青ざめた顔でスマホを見せてくる。

 「ねぇ、ニュース……“全国的に不明な感染”って……」

 「いやいや、待って、バズり狙いの嘘ニュースでしょ。

  昨日も“学校に宇宙人来た”トレンド入りしてたし」


 廊下の向こうで何かが走る。

 窓が割れる。

 生徒の誰かが吹っ飛んできて、机に激突した。

 倒れた子がゆっくり起き上がって……笑ってない。


 「……あの、ちょっと……口から、血……」

 リコの声が裏返る。

 「は? まさか……ゾンビ?」

 「やめてよ。現実味ゼロすぎて逆に寒気する」


 次の瞬間、

 その“ゾンビ”が信じられない速度でこちらに突っ込んできた。


 机を倒してバリケードを作る。

 教科書が床に散らばる。

 “数ⅡB”のページに血が飛ぶ。

 テスト前にこうなるの、マジで理不尽。


 「え、ていうか本物? 本物なの?!」

 「うん、本物っぽい。歯の入り方がドッキリのレベルじゃない」

 「やば……! 待って、世界終わってんじゃん!」

 「ちょっと落ち着こ。まだ5限目終わったばっかだし」


 ——そう、私はまだ信じていなかった。

 この“ゾンビ映画”が、本当に自分の学校で上映中だなんて。



 机を積み上げてバリケードを作る。

 ロッカーも引っ張り出して、教室のドアを塞ぐ。

 リコが息を切らしながら言った。

 「ねぇミカ、これ映画とかで見るやつだよね?!」

 「うん、だね。まさか主演が私たちとは思わなかったけど」

 「主演っていうか、もうほぼモブだよ!? 一話で死ぬタイプだよ!?」

 「大丈夫。モブは悲鳴あげてすぐ死ぬけど、私は地味だから最後まで残るタイプ」


 笑ってるけど、笑い声がちゃんと震えてる。

 外では、ガラスの割れる音と何かが走る音。

 走るって、ゾンビ映画だと“ゆっくり歩く”のが普通じゃなかったっけ?

 うちのゾンビ、めっちゃ運動部出身っぽい。


 「ていうかさ、夜になったら速くなるってどういう理屈?」

 「知らん。太陽光にビタミンDが足りないのかも」

 「ゾンビの健康管理の話してる場合じゃない!」


 窓の外、校庭に影がいくつも動く。

 体育館の方向から、叫び声と拍手の音が混ざる。

 拍手? 何で?

 リコが首をかしげる。

 「……誰か、まだイベントやってる?」

 「多分、“生き残りサバゲー大会”開催中」

 「笑えない!」


 夜が完全に落ちた瞬間、外の静寂が反転した。

 足音、衝突音、壁を蹴る音。

 ガラスが連鎖的に割れ、何かがぶつかっては転び、また立ち上がる。

 その中で聞こえたのは——笑い声。


 「ひ、人間だよね? 笑ってるの……」

 「いやもう、笑ってる人は人間じゃない説」

 「やめて! それいちばん怖いやつ!」


 教室の蛍光灯が一瞬点滅して、プツンと消えた。

 真っ暗。

 リコのスマホのライトが唯一の光源になる。

 彼女の顔が白く照らされて、目だけがやたら大きく見えた。


 「ミカ、これ、ほんとに……夢じゃないよね?」

 「夢なら、明日の小テストのこと気にしてないと思う」

 「そうだね……あ、でも明日休校になったね」

 「いや、全校休校どころか全・国・休・校」

 「うわ、まさかの歴史的臨時休校じゃん……!」


 二人で変なテンションのまま笑った。

 泣くよりは、たぶんマシだと思った。


 ——そしてその夜、

 教室の外で、最初のドアが壊れる音がした。

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