ラジオドラマ 満天の星

Kay.Valentine

第1話 

キャスト


竹内修(四十歳):


総合商社の本社事業本部のエリートだったが


或る取引の大失敗で下田営業所に左遷される。


バツイチ。


速水久美(三十六歳):


下田営業所の所長補佐。同じくバツイチ。


叔父が本社役員のため中途採用されたが


下田に愛着があるので


本社勤務を断った経緯がある。


近藤営業課長(四十九歳):


竹内所長がいつも居眠りをしていることに


不満を持つ一人。竹内所長に


「居眠りオサム」のあだ名をつけた。

      

大沢庶務課長(五十三歳):


竹内所長に不満を持つ一人。


蔭で部下に悪口を叩いている。


カウンターバーのマスター(四十歳位?):


速水久美がたまに行く


弓ヶ浜にあるバーのマスター。


ナレーション


竹内修は総合商社の中枢で


社運を賭けた仕事を任されてきたが


或る取引に失敗して


下田営業所に左遷された。


四十歳だった。


 ~~~   ~~~   ~~~  


ナレーション


踊り子号はゆっくりと速度を落とし始めた。


やがて窓からはなだらかな山が見えた。


竹内修は伊豆の山は本州の山と違い


柔らかだと感じた。


特急踊り子号はホームに滑り込む。


停止。


ドアが開く。


ホームに降りた竹内は


ホームに降りた人数が


あまりに少ないことに驚いた。


熱海ではあんなに混んでいたのに


下田で降りるのは


一、二、三、四、……


たった十人か。


地の果てだなあ。


改札を出る。駅前広場。


観光客と思われる若い女性グループが


甲高い声で話をしている。


観光客の若い女性1


「ねえ、黒船クルーズを先にしようよ」


観光客の若い女性2


「私は目の前に見える寝姿山に


ロープウェイに乗って行ってみたいなあ。


あそこってぇ、春はお花が奇麗らしいしぃ」


ナレーション


駅前広場に広がる町並みは


さながら昭和三十年代だった。


なんだ、このレトロな町は! 


オレはこんなところに


一生埋もれてしまうのか。


竹内は覚悟はしていたものの


落胆は隠せなかった。


会社に着いた竹内はさらに驚く。


築三十年の三階建てのビル。


それが新しい職場だった。


パソコンを叩く音。所員が歩く靴の音。


電話の音、女性の声で


「はい、六井物産下田営業所でございます」


電話の音、男性の声で


「いえ、その件につきましては


当方で責任を持って……」


別の男性の声。


「はい、分かりました。


では、さっそくお伺いいたします」


竹内修モノローグ


(ドアの開閉の音。


所長席に座る時にチェアのソファが軋む音)


スタッフたちは忙しそうだけど


オレは時々ハンコを押すだけか。


ちぇっ、オレはハンコロボットかよ。


所内を一回りしたけど


自分には何もすることがなかったなあ。


なんだかまた睡魔に襲われてきた。


(あくび)。


近藤営業課長(ドアの開閉の音)


所長、……(大きな声で)所長!


竹内修 (寝ぼけた素っ頓狂な声で)


あーっ、びっくりした。


近藤営業課長 


(咳払いして。ムッとした言い方で)


所長、ハンコをお願いシマス!


竹内修 


あー、どこに押すの? 


あっ、ここね。


(朱肉を叩くポンポンという音)


はい、お疲れさん。


竹内修モノローグ


「高橋留吉鮮魚店」かあ……。


取引の相手は


零細企業か個人商店ばかりだなあ。


天下の六井物産が泣くぜ。


ったく、いいかげんにしてよ。


あーあ、グーグルやアマゾン相手に


仕事をしていた頃が懐かしいなあ。

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