「むーん」


 ソファーで生首のエリスが唸ってる。


「むむー」


 眉間にシワを寄せて唇を尖らせてる。


「面白い顔してるね」


 それを机挟んでぼんやり観察してる。


「ジロジロ見ないでほしいのだわ」


 視線の先には青い石のはめ込まれた指輪が一つ。


「なーんであんなところにー?」

「あの廃工場に隠れてはいたってことじゃない?」


 ヒョイッと摘まんでまじまじ覗く。

 昨日ヤンキーに追いかけられ廃工場から逃げてる最中見つけたそれは古めかしいデザインながらよく手入れされていた。

 エリスの話によればこれは胴体が指に身に付けていたモノで、他でもない私に渡すつもりでいた『報酬』の品物だった。

 指輪にも宝石にも詳しい訳じゃないからそれだけの価値あるかどうかわからないけど。


「ヤンキー達がいる間は別のとこに身を潜めてるのかも」


 別の世界の装飾品としてだとどんな骨董品より希少に見えた。


「移動する時落としたんでしょうね」

「肌身離さず付けてる指輪がそんな簡単に?」

「慌ててたんじゃない?」


 エリスの依頼を受けて、報酬に納得して、捜査してる。

 こっちの世界じゃ手に入らない指輪は既に自分のモノ。


「なんにせよこんなの見つかったんだからまたあそこ行かなきゃだね」


 コトリッ。指輪を台座代わりのコースターに置く。

 聞けばこれはエリスが自分の瞳と同じ色を目印として胴体にも付けててほしいと買ったモノらしい。

 そんな謂れあるモノを報酬として受け取っていいのか、どうか。


「エリスの感じたボワッの正体も知りたいし」


 現時点では、ちょっと、迷うな。

 ブラインドの上がった窓を見る。


「いつやむのかもがみわかる?」

「今日の夜には止むらしいけど」

「じゃあ明日改めてなのだわ」

「早い時間ならいないかな?」


 ぽつりっ、ぽつりっ。

 雨が作り出す透明の斑点を二人でぼんやり眺めた。



 十一月十七日。身支度前。

 一日室内のつもりだったが切らした牛乳買いに行くため結局外出をした。

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