第6話 瘴気の元凶
翌朝アーヤは目が覚めると知らない場所で驚いた。
荷物は全部ある、服装も昨日のままで、部屋は日差しが入り豪華ではないがパッチワークが可愛い素敵な部屋だった。
「今何時だろう?」と「ここどこだったっけ?」で昨日の記憶を思い出そうと、うんうん唸っているとノックがあり、返事をすると村長の息子さんの奥さん、ミシェルさんが大きなおぼんを持って来てくれていた。
「おはよう、アーヤさん。体調は大丈夫かい?」
「おはようございます、ミシェルさん!
……すみません、私あんなにお酒に弱いなんて」
「いいのよー!何か食べられそうなら、これをどうぞ!
食べられるだけ食べてね。
カイトさんは今村の周りを見てくれているからゆっくりで大丈夫よ〜」
「はい、ありがとうございます! いただきます〜」
フルーツと薄いパンにハムなど朝から豪華だった。きっと奮発してくれているんだと思うと、心遣いにほっこりした。
一通り美味しくいただいて、アーヤは荷物の準備をしてから居間に向かった。
瘴気の元を探さなければいけない。正直神様に頼まれているミッションとしてはここからが本番だ。
居間に行くと村長、村長の息子さんのエドさんと一緒にカイトもいた。
カイトはすぐにアーヤに気付いて手を振ってくれて、笑みが零れる。
「アーヤ、大丈夫か?」
「うん、みっともないところを、お恥ずかしい。お酒だって気付かなくて、美味しくいただいちゃってました」
「気にするな、それでこれからどうするんだ?」
カイトのこうして私が話しやすいように進めてくれるのは、本当に助かる。
「うん、ちょっと待ってね。
先に話しておきます。これから見せるものは驚くかもしれないけど、特殊な保存ケースに入っているから、触っても害はないから。安心してね」
そう言って取り出した大きめの瓶の中には、一輪の黒ずんだ花が入っていた。その花が発する悍ましい気配に村長とエドさんは思わず腰が引けていた。カイトも顔がかなり引き攣っている。
「アーヤ、それめちゃくちゃ嫌な気配してんだけど」
「うん。これは瘴気の花、
この花が咲く近くには、必ず瘴気があるからその名がついたんだけど、村長さん、エドさんはこの花を見たことないですか?
もうちょっと白っぽいかもしれないんだけど」
「えっ? その花、元は白いんですか?」
「ええ、瘴気がない場所だと綺麗な白い花なんです。でも、瘴気を吸うとこうなってしまって……」
「オレ、その花見たことがあります。多分だけど、きっと山の中で確かに見た」
「助かります! そこへの案内をお願いできますか?」
アーヤの言葉にエドさんはどうしよう、と困った表情で村長の判断を仰ぐように続けた。
「親父、あの花は
「間違いないのか?」
「ああ……」
主? そう言えば、この世界には各地域を護る主、と呼ばれる
彼らは所謂ゲームにおけるフィールドボスという扱いだけど、この世界においては調停者であり瘴気を排除する機能のひとつでもある。
「すみません、もしかして山の主は凶暴化してますか?」
「あ、ああ、なのでお嬢さんを行かせるのは……」
「カイトさん、ランクAモンスターの討伐は可能ですか?」
「っ!! 可能だ、だが準備をしたい。ポーション関係は任せても良いか?」
「もちろんです。ミスルトゥ商会、アーヤ・ミスルトゥからの正式依頼です。タグを、簡易ですがこれでギルドに報告が行きます」
カイトの取り出した冒険者タグにアーヤは左手の指輪で触って『
「オレは準備してくる」
そう言うなり走り出したカイトはプロらしく余計な質問はせず、討伐の準備に行ってくれた。主が瘴気に汚染されているのはその程度の差でまた変わるとはいえ最悪のケースだ。
まさか初っ端こんな難関になると思っていなかったのは私の想定が甘かったな。
「お、お嬢さん、何が?」
「詳しい話は帰ってから、山の主は最悪討伐します。ただし、新しい主はすぐに生まれますのでこの地に混乱は生みません。
エドさん、大体の方向と目印だけ教えてください。時間との勝負になります」
「あ、ああ……」
エドと場所の確認をしてから私も部屋に戻ってカバンから装備を準備する。
軟弱な私をサポートしてくれる防具、それと完成したばかりの虫除けのバングル、それに魔物避け、魔物を拘束する捕縛薬、それと完全にチートな応急処置用の
革製のロングブーツ、服自体は軽装に見えつつも防刃効果のある上下に厚手の手袋とマント。
用意を終えて外に出るとカイトが待っていた。
「行けるか?」
「大丈夫、見た目より防御力高いから。向かう先は今朝行ったらしい池の奥だって、分かる?」
「任せとけ」
「ありがと、時間との勝負だから行こう」
「村長、念の為警戒だけするように」
「じゃあ、行ってきますねー!」
頑張って明るく言うアーヤに、村長もエドさんも少しだけ笑ってくれて、ホッとする。
それにしても、最初のチュートリアルでいきなり難易度高過ぎない!? 私、初ミッションなのに! 神様のバカー!!
内心で文句言いつつ、アーヤに合わせつつも走りながら、迷わず案内してくれるカイトに必死で着いていく。
早い、出る前に色々アーヤ専用チートポーションでバフかけたのに、カイトの移動速度が速すぎてついて行くのもきつい……!
足元の悪い森の中を駆け抜け、傾斜も徐々に上がり始めた。周りを見ている余裕はないけど、転ばないように足元に注意しながら走り続けた。村を出て小一時間で池についた。
「つ、疲れた〜……」
「ほら、水」
「ありがとー」
冷たい水が火照った体に沁みる。お水ってこんなに美味しいんだね、生き返る~。
このまま横になりたいけど、まだ本番始まってないし、まずはやることをやらないとなぁ。
「カイト、主に向かう前に話さないといけないことがあるんだけど、聞いてくれる?」
「ああ、アーヤが緊急依頼なんて知ってたのは驚いたよ」
「うん、それも含めて話しがあるから、まずは魔術契約して欲しいの」
文字通り魔術を使って契約した人の魂に制限をかける、この世界で最も厳しく破ることイコール死に繋がる怖い契約。
そして契約に必要な
魔術契約の内容はアーヤ・ミスルトゥの能力、使った薬品やポーションについて一切他言しないこと。アーヤ・ミスルトゥが他言無用だと宣言した情報の一切について他言は許されない、という内容を盛り込んである。そして、これが破られた場合は即死だ。
「そこまでか」
「うん、契約出来ないなら私を置いて帰って」
「主はどうするんだ? アーヤには倒せる、のか?」
「うーん、それも話せない内容だね」
かなり理不尽な、何も情報なしでこっちの話は一切外に出すなっていう条件だから悩むのが当然だと思う。
なのに、カイトは一瞬考えるように眉間を押さえていたけど、すぐにスクロールに署名してしまった。
「っ、いいの?」
「アーヤのことだから、なんか悪いことなんかしねーだろ?」
「はあっ!? しないよ!!」
「主を討伐するのも理由があって、それは教えてくれるけど他の人には話せない。
それだけだろ?」
「そ、そうだけど……」
「オレの中の何かが、この『瘴気』に関わるものは知らないと不味いって言ってるんだ。
だから、オレは知りたい」
「分かった、ありがとう。カイトが手伝ってくれると、本当に助かる」
それから、私はカイトに私の瞳が特殊な魔眼の一種であること、それで瘴気の状態や浄化薬などの性能が正確に読み取れることを説明した。
「だから私は過不足なく薬を作れるの。
それにこの眼は瘴気に汚染されている場所とかが明確に分かるから、主との戦いで弱点も視える、はず……」
「はず? やったことはないんだ?」
「うっ……うん。でも拘束する薬品とか最高度の浄化薬は複数あるから、視えなくても」
もにょもにょと言葉の力が弱くなってしまうと、申し訳なくて視線も下を向いてしまうけど、カイトが頭をぽんぽんとしてくる。
「大丈夫だ、オレはソロでもランクAモンスターの討伐実績はある。
アーヤの眼に弱点が見えたらラッキー、視えなくてもちゃんと討伐してやるから安心しろ」
「うん!私も足手まといにならないようにするよ!」
さあ、この先に行けば山の主の住処は目の前のはずだ。
初めての戦闘になるだろうけど、カイトの協力があることが心強い。気を強く持って、頑張るんだ。
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