第46章 違和感


一方——


タケルはシュンへの心配を抱きながらも、別の違和感を感じ取っていた。




(……なんだ、この感じ……何か、おかしい)


胸の奥でざわつくような、説明のつかない不安。

それは、彼の中で少女とつながる“見えない糸”が震えているような感覚だった。



居場所だけではない。

そこから微かに伝わってくるのは——恐怖。


まるで、彼女の身に何かが迫っているかのようだった。


空を見上げると、そこには無数のキューブが漂っている。

これまではゆらゆらと静かに浮かんでいたそれらが、

今は一定間隔で、くるくるとその場で激しく回転していた。


挙動もおかしいが、もしシュンの言っていたことが本当なら、

このキューブはタケルと少女以外には無差別に襲いかかるはずだ。



だが今は、まるで命令を待つように沈黙している。

異常な静けさが、かえって不気味だった。


(どういうことだ……?)


「シュンさん……何か、異変が起きてるかもしれない。」

「何だと?」


「わからない……けど、何か……変だ。」




その瞬間——


ゴゴゴゴゴゴゴ……!


地鳴り。



空気が震え、建物の残骸が跳ね上がる。

地面が波打ち、二人は立っていられず膝をついた。




「うわっ……!」




耳鳴りの中で、世界そのものがうねるような音が響いた。




そして——

地平線の向こうから、地面が裂け、崩れ、落ちていく。

まるで、大地そのものが底なしの闇に飲み込まれていくようだった。




「な……!?」


粉塵が赤い雨に混じり、空まで濁っていく。



やがて、崩落は突然止まった。

しかし、世界はすでに歪んでいた。




シュンは息を呑んだ。

「もしかして……この世界、崩壊しようとしているのか……」




赤い雨が降り続く。

その一滴一滴が、まるでこの世界の“終わり”を告げる鐘の音のように響いていた。




「時間がないのかもしれない……」

タケルの低い声に、シュンは小さくうなずく。

「……急ごう。」


周囲を見渡すと、置換された“現実”の断片があちこちに浮かび上がっていた。



住宅街、学校、駅のホーム、壊れた信号機——。

異なる空間が、所せましと増殖している。

もはや半分近くが“現実空間”だった。




(……東京は、地獄かもしれないな。)




それでも、足を止めるわけにはいかない。

誰かを救えるかもしれない。

この崩れゆく世界のどこかに、まだ“希望”があると信じたい。




シュンは赤い大地を強く踏みしめ、

そのかすかな希望に向かって駆け出した。




——空が軋み、遠くで光が閃いた。

世界は終わりへと進みながら、なおも何かを求めていた。


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