第16話 地区大会決勝 桜見VS富永2
富永のカウンターから菊池へのスルーパスを阻止した与一。
桜見は攻撃を立て直し、富永の陣地へ攻め込んで行く。
「(やっぱ、うじゃうじゃいるなぁ!)」
菊池以外の富永選手達が自陣で守り、人数をかけて桜見の攻撃を跳ね返しにかかる。
「ボール回して回して!素早く」
後ろから輝羅がボールを止めず、どんどん回していけと指示を送っていた。
「(この人数だからな、スルーパス出し難い上にドリブル突破もしづらい)」
「(だったら素早くショートパスを出来る限りワンタッチで……!)」
両サイドの霧林、室岡もパスを素早く回した方が良いと判断して、迫り来る富永に桜見はボールを素早く動かす。
「よーく見てー!相手さんは人数だけでプレスそこまで早くないよー!」
後ろから与一もコーチングに加わり、相手の守備の数に怖がるなと声を出していた。
「(確かに、王坂の時のプレスと比べたら──)」
「(まだ楽な方……!)」
楽斗に影二、それぞれが目の前の相手の動きを見て、練習試合で以前戦った王坂の方が速いと思い出す。
後ろからの声を聞いた事でパス回しが安定してきた桜見の中盤。
迫りくる相手のプレスをパスで躱し、富永ゴール前へ迫って行く。
「(此処は正面か!? いや、サイドを疎かにしたら隙を突かれて……!)」
富永のDFに一瞬の迷い、正面かサイドか意識がどっち付かずとなって、守備に僅かな乱れが生じる。
その隙に楽斗はパスからドリブルへと切り替え、中央から敵味方の大勢で入り乱れる中盤を越えていった。
「(よぉし!)」
この時、楽斗はゴールの方を見ている。
正面には竜斗と八坂西の両者。
王坂の時と違ってスペースの空きは見つけられないが、楽斗の右足はボールを捉えて飛ばす。
勢いの付いたミドルシュートがゴール正面から放たれ、上の方に浮き上がると下の方に向かって落ちる。
球に激しい縦回転をかけて、ドライブシュートと呼ばれる強力なボールとなっていた。
「くおぉっ!!」
富永のGK桃下が地を蹴り、懸命に落ちてくるボールへ飛びつく。
伸ばした右手がボールに触れれば、ドライブシュートを弾き出して桃下のスーパーセーブとなる。
ボールはゴールラインを割って桜見の左からのCK。
「おおっし! 良いぞ桃ー! 良いスーパーセーブだ!」
ピンチを防いだ事に菊池の口からチームの守護神を称える声が出て来る。
「上がって上がって! でっかい大橋が加わるだけでも全然違うから!」
「お、おお!」
与一はセットプレーに参加するようにと、大橋に伝えれば彼は富永のゴール前に向かっていった。
彼がいなければ桜見の長身プレーヤーは、ワントップのキャプテン竜斗だけとなってしまう。
全体的に桜見には長身の選手が足りていない、それは桜見の弱点でもある。
「(このセットプレー決めて早めに先制と行きたい所だな)」
セットプレーなら誰の邪魔も受ける事なく、思いっきり蹴れる。
左からのCKを務めるキッカー楽斗は、敵味方の多くがゴール前で争う光景を見据えた。
桜見のセットプレー、楽斗の右足から繰り出された球は、上がって来た大橋が頭で合わせに行く。
その前にGK桃下が飛び出してパンチングでクリア。
ただ、零れ球を影二が拾ったので桜見ボールはまだ続く。
「(セカンドはすぐ拾う……!)
影二は再び楽斗を使おうと彼の姿を見つけた直後、すぐにパスを送っていた。
ボールを受ければ今の楽斗がいる位置は左サイド。
「(今度は低く!)」
高い球だと、さっきのようにGKの手で阻止される。
かと言ってドリブルで切り込むかとなれば、この密集地帯では無理な話だ。
右足で楽斗はボールを蹴り、低いクロスを竜斗へ送る。
だが、富永DFが頭で弾き返して通さない。
「(動き回ってはいるけど、中々フリーになれねぇ……!)」
竜斗には常に厳しいマークが張り付き、彼らの目からは逃れられず。
菊池に匹敵する程の得点を重ねるエースに対し、富永の守備陣は常に警戒している。
「ううん、向こう人数かけて守ってばかりだなぁー。攻めには来ない?」
「彼らとしては我慢の時間帯だと思いますから、耐え切った先の攻撃に備えてるのかと」
富永が攻めて来なくて守備を固めてばかりなのを見た遊子から、消極的なんじゃないかという言葉が出て来る。
それに神奈が今は守る時間帯で前に出て来ないんだと思い、反撃のカウンターに警戒していた。
向こうの得点パターンとして相手の攻めを耐え凌ぎ、そこからの速攻で菊池が主に決める。
こういったデータがあるせいか。
「(何時も通り待ってりゃ良い。速攻で相手が守備に切り替えきれていない隙を突けば、どんな鉄壁の守備も崩されるってな)」
桜見に押されている展開だが菊池に焦りは無い。
自分の役割は決まっている。
守りきった所へ速攻のチャンスが来た時、確実にゴールを奪う事。
それがワントップの点取り屋である自分の仕事で、来たるべきチャンスの時まで彼は温存していた。
ただ、それは相手の方も同じだが。
前半も終盤、桜見は最初の30分で先制しようと、かなり前へ出て来ている。
「(しつっこいなぁ〜。飽きもせずガチガチと固めちゃって!)」
変わらずゴール前を人数かけて固める富永に、楽斗はパスターゲットを見つけられない。
だったら自分で決めてやろうと、中央の位置から右足でシュートを撃つ。
「ぐっ!」
これは相手DFの釜石がシュートブロックで体を張って、ゴールはならなかった。
『(与一! 来るよ!)』
『(うん!)』
輝羅とテレパシーでやり取りすれば与一が動き出す。
楽斗のシュートは跳ね返ると、富永の谷岡が拾って右サイドの長崎へパスを出す。
チャンスから一転、カウンターのピンチに桜見は陥る。
「(よし!!)」
これに菊池が桜見の空いてるスペースに走り、長崎からは既に長いスルーパスが、菊池の目指す場所へと放り込まれる。
「ナイスパース♪」
「な!?」
菊池は驚愕。
またしても自分より速く与一が先にパスへ到達、というよりも完璧に読まれた感じの方が大きかった。
耐えてカウンターに繋げたはずが、それをあっさりと潰されてしまい、富永としては貴重な攻撃チャンスを逃す形となる。
ピィ────
此処で主審から前半終了を告げる笛が吹かれた。
桜見が優勢で試合を進めるも、富永の堅い守備を崩す事が出来なくて、スコアレスで折り返す事となった。
「お前、思ったよりもやるみたいじゃんか」
「ありがとうー♪」
前半が終わったタイミングで菊池は与一に声を掛ける。
流石に此処まで防がれ、自分の動きについてくる相手は認めざるを得なかった。
菊池に認められた与一から笑顔が咲く。
「けど、こっちは後半ゴールを取るからな。そんで俺らが都大会に行く」
ニヤッと強気な笑みを見せる菊池。
実力は認めても試合で負けるつもりはなく、後半で彼のゴールを叩き割ろうと、ゴールへの意欲が心と共に表れていた。
「あー、悪いんだけど〜」
与一は陽気な笑顔から菊池と同じ強気な笑みへと変わり、そこに後ろから輝羅も加わる。
「「中学で失点する気無いから」」
2人揃って同じ台詞を菊池へ言い放った後、双子はベンチに引き上げていく。
この試合だけに限らず与一と輝羅は先の都大会、関東大会、更にその先の全国大会で全ての試合で完封を狙っていた。
────────
与一「うーん、点が入らないねー」
輝羅「上のレベルに行けば、こういうの多くはなりそうだけど、取れる時に取ってはおきたいかなぁ」
神奈「このままスコアレスかな?」
与一「どうなんだろうねぇー」
輝羅「次回、影の薄い彼が活躍するかもね♪」
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