サイコフットボール 〜天才サッカー少年の双子は本当のテレパシーが出来て心の読めるサイキッカーだった!〜

イーグル

プロローグ

第1話 彼らはサイキッカー兄弟

 燦々と輝く太陽の下で、人々の歓声が木霊する。


「ってぇ!」


 サッカーフィールドの芝生を強く蹴り、宙に舞うボールへ2人が跳躍。


 黄色いユニフォームを纏う選手が、赤と黒のストライプのユニフォームの選手が、空中で激しくぶつかり合う。


「出せ! クリア!」


 試合を見守る観客の声援に負けないぐらい、選手が大きく声を出す。



「何だ、珍しく点が動かないじゃないか。向こうは遠征でやってきて、俺達ドイツがホームだってのに」


 黄色いユニフォームのチームはドイツのファーレンFC。

 国内ではトップクラスの力を誇る名門サッカークラブで、彼らは互いにU-15のチーム。相手は同じ年代のイタリアから来たクラブだ。


 味方が点を取れていないと呟き、ベンチで試合を眺める短髪の赤髪。

 14歳で170cmを超える、技巧派の長身ストライカーでエースのクレット。

 今日の彼はベンチからのスタートで、退屈そうにしている。


「相手はイタリアのクラブだからな。ほら、向こうといえば守備が自慢だしさ」


 隣に座るチームメイトがクレットの呟きに反応、共に試合を眺めていた。


「そうは言うけど昔の話だろ? 今は全然違うし、あんな小さいDFとGKをわざわざ入れる辺り、相当人材不足なんだろうぜ」


 クレットが目を向ける先には、相手イタリアチームの小柄な選手2人が映る。


 1人が少し長めの黒髪で、もう1人も同じぐらいの長さだが髪の色は紫と、黒髪がDFで紫髪がGKをしている。

 共通してる所はかなりあって、どっちも小柄で細身。


 正直そのポジションにしては身長、体格共に頼りない。

 周囲と比べて、2人の小ささが際立っていた。


「確か名前がえーと? ヨイチ、キラ……日本人か」


「サッカーよりアイドルやる方が合ってそうな顔してんな」


 チームメイトはタブレットを操作して、対戦相手のデータを調べる。

 そこで黒髪の方が『神明寺与一(しんめいじ よいち)』、紫髪の方が『神明寺輝羅(しんめいじ きら)』と判明。


 与一が背番号6のDFで輝羅が背番号1のGK。

 プロフィールは与一が149cm、40Kg。

 輝羅の方が152cm、42Kgだ。


「日本人ならボールの扱いは上手いだろうが、あのDFとか普通に当たり負けするだろ。GKもリーチが足りなくてゴール許しそうだし」


 あの日本人達が小さいのにクラブの一員なのは、かなり技術が優れてるから。

 弱いフィジカルをそれでカバーしていると、クレットは見ている。


「──今に試合は動いてくれるだろ。うちの得点でな」


 クレットやチームメイト達はすぐに点が動くと見て、余裕からか談笑していた。


 彼らは知らない。

 自分達の予想が大きく外れてしまう事を。



 ファーレンFCが中央突破を狙い、前のFWにボールが渡る。

 観客達はゴール前のチャンスに、歓声が大きくなった。


「(えっ!?)」


 一瞬にしてFWの顔が、驚愕へと染まっていく。

 確かにボールを受けてキープしたはずなのに、球は無くなってしまう。


 その答えは中央のDF、与一が瞬く間にFWのボールを奪い取ったからだ。

 奪取に成功した与一は相手のプレスが来る前に、前方へボールを右足で蹴り出して、ゴールから遠ざける。


「おいおい、どうしたフレイ! 焦ったり力んだりしてないか!?」


 味方のらしくない、あっさりとした奪われ方に、ベンチからクレットが叫ぶ。


「(焦ったりとかしてるつもりないって! ただ、何か速かったっていうか……)」


 FWのフレイは一瞬で詰められ、奪い取られた気がした。

 今まで戦ってきたDFの誰よりも寄せが速いと、体が教えてくる。



「 クレット、準備しておけ!」


 ファーレンFCの監督から言われ、クレットはベンチから立ち上がると、軽く走り出す。


「(まだ0ー0って、攻撃陣の調子悪いのか)」


 今日のチームは不調気味と感じ、チームのエースとして自分の力で勝利へ導く為、出場の準備を進めていく。



「クレット、あの6番かなり速いぞ──」


「フン、確かに小さい分すばしっこいだろうなチビは」


 同じFWのフレイと交代で入り、クレットは相手の小さなDFを見据える。

 それに対して与一は小さく笑みを浮かべてみせた。


「(何笑ってんだ、フレイを止めたからって調子に乗ってんのか?)」


 余裕そうに感じる相手に、クレットの顔が険しい物へと変わっていく。


「もっとロングでも良いから狙えってさ。あの小さいGKなら入るだろ」


 監督からの伝言をクレットが皆へ伝える。


 そして作戦通り、ファーレンFCは遠目からシュートを狙うようになり、1本目のロングシュートがゴールへ放たれた。


 枠内に行っている良いシュート、だが小柄なGK輝羅は何事も無かったかのように、正面で簡単にキャッチング。


「(ちっ! 正面か!)」


 正面に飛んだ味方のシュートを、クレットは甘いと思った。


 この場の誰もが気づいていない、この間に密かなやりとりが行われている事を。



『(輝羅、向こうガンガンロング狙ってくるよ。プレス強める?)』


『(大丈夫だよ、撃ってくるなら取れば僕達のボールになるし)』


 2人は共に相手の心を読むと、それを互いの心の中で会話していた。

 普通ならあり得ない事が、彼らにとっては普通である。


『(じゃ、何時も通り)』


『(うん)』



『『(完封勝利をやっちゃおう)』』


 互いの心が、目指す物が重なり、一致して与一と輝羅は同じタイミングで不敵に笑う。



「うちが支配しているんだ、もっと強気に攻めろ!」


 攻めが足りないと、ファーレンFCの監督が前に出て来て指示を出す。


「(こんなチビに何苦戦してんだ!)」


 何時までも点が動かない事に業を煮やしたか、クレットはボールを要求。そこからドリブルに入り、単独突破を狙ってきた。


 これを読んでいたのか与一がすかさず、クレットの前に立つ。

「(俺と1対1で張り合う気か!? 生意気な!)」


 目の前の小柄なDFを前に、クレットは引くことなく正面からの突破を狙う。

 この年代で170cm以上ある彼は大柄な方だが、細やかなテクニックを得意として、与一を翻弄しようと動く。


「……!?」


 上半身の動きで惑わしに行くが、与一はそのフェイントに少しも引っかからない。

 彼の目は全てを見切っているかのように、目の前のクレットを捉えていた。


「くっ!」


 これに焦ったか、クレットはもう一度仕掛けようとするが、切り返しの一瞬の隙を突いて、与一は再びボール奪取成功する。


『(与一、左がフリー!)』


『(了解っとー!)』


 輝羅からの声を心で聞けば、直後に右足を振り抜く。

 前方には敵や味方の選手達がいて、その間をすり抜けて向かう。


 これが左から抜け出した味方選手に通り、まるで針の穴を通すような、正確無比のコントロール。

 そこからゴールが生まれ、強豪のファーレンFCから先制する事に成功。


 与一は自軍ゴールに向かって右手の親指を立てると、輝羅も同じポーズをとって互いに笑みを見せていた。



「(ゴールを奪えない訳あるか! あんなチビ相手に!)」


 今の状況が信じられず、試合再開から攻めるファーレンFCとクレット。

 ドイツの名門チームの一員として、このままでは終われない。


 味方からのパスが足元に来ると、それをトラップせずに右足のシュートを全力で狙う。

 さっき味方が放った時のロングよりも勢いよく、ゴールへ飛んでいく。


「!?」


 そのクレットは驚かされる。


 シュートフォームは良く、感触も良い。

 手応えのあるシュートだと確信していた。


 しかし輝羅は撃たれた刹那、すぐに動くと先程と同じ、真正面で何でもないようにキャッチ。


 観客は正面に飛んだかと思うが、対峙している方は違う。


 シュートが入らないせいか、小さいと舐めていたはずの相手が大きく見えて、まるでゴール全体を支配しているような感じがする。



『(相手エース飲まれてるね)』


『(完全に飲まれたよ)』


 与一、輝羅の2人は共に相手チームのエースが、飲まれた事を感じた。


 この場にいる者は誰も知らない。


 2人が人の心を読めて、互いにテレパシーでやりとりが出来る、『サイキッカー』である事を。


 ────────

 ここまで見ていただきありがとうございます!

 可能な限り、この時間に毎日上げていくのでよろしくお願いします。

 少しでも面白いと思ったら、☆☆☆評価、フォロー等があると嬉しいです。


 与一「という訳で始まりました、僕達の物語!」


 輝羅「この先どうなっていくのか、お楽しみに!」


 与一「次回は僕達、日本の学校に行きます♪」


 輝羅「このまま海外、と思いきや日本ってパターンだねー」

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