調査資料5
加納のアパートは学校から近くて、大学1年の冬にはもう俺たちの格好のたまり場になっていた。
加納本人も、よく言えばおおらかで気のいい、悪く言えばかなりルーズな性格で、ありがたいことに俺たちが部屋に入り浸ることをほとんど気にしていなかった。
なにせ、朝、加納がバイトに出かけるときに雑魚寝のこたつから見送った俺たちが、帰ってきたときにまだそこで酒盛りをしているのを見ても、苦笑して文句も言わずそのまま酒盛りに加わったくらいだ。
そんな加納が、意外に真剣な顔で俺に話しかけてきたのは、2年の夏休みを間近に控えたある日のことだった。
「鈴木。この間俺の部屋に来た時どうだった」
「どうだったって何が」
「夜、寝苦しくなかったか」
「夜?」
俺は先日、いつものように加納の部屋になだれ込んだ時のことを思い出す。
佐藤や井上も一緒だった。
ひとしきり飲んだ後で俺は、部屋の隅の、加納の部屋に泊まる時はいつもそこで眠る、もはや俺の場所と言っても過言ではないポジションで横になり、すぐに眠ってしまった。
次の日バイトで朝早かったせいもあった。
佐藤と井上は遅くまでゲームか何かをしていた気もするが。
あいつらの声が多少うるさかった記憶はある。
だけど、特別、寝苦しかった記憶はない。
俺がそう言うと、加納は難しい顔で黙り込んだ。
「どうした」
普段見せないその表情に、俺も何だか不安になってくる。
「何かあったか」
「お前も気付いてると思うんだけど」
加納はそう前置きした。
「俺の部屋、クーラーついてないんだよ」
「あ、そうだっけ」
俺は加納の部屋の間取りを思い出す。
言われてみると、確かについていない気がする。
「そういやついてなかった気もするな。でも、それがどうかしたか」
「いや」
加納はきまり悪そうに笑う。
「俺、東京の夏がこんなに暑いと思わなくてさ。うちの田舎じゃクーラーなんてついてる家ほとんどないから全然気にしてなくて、それで去年の夏は暑くて暑くてえらい目に遭ったんだけど」
確かに、加納は北の雪深い地方の出身だった。去年の冬はよく、東京の冬はあったかくて冬じゃないみたいだ、と言って薄着で歩き回っていた気がする。
「だけど、今年の夏はなんか家の中が涼しいんだよな」
加納によれば、去年の夏は暑くて明け方まで眠れない日もたびたびあったそうで、今年のように三人も四人も泊まりに来てみんながぐっすり眠れる、などというのはありえないことらしい。
「何でだろう。今年も去年と同じくらい暑いのにさ」
「ふうん。でもまあ良かったじゃねえか。クーラーもないのに部屋が涼しいってラッキーじゃんかよ」
「まあ、そうかな」
加納が曖昧に微笑んで、それでその日の会話は終わった。
夏休みに入る直前のことだった。
大学生の夏休みは、高校生までと比べると格段に自由だ。帰省するやつもいるし、長期のバイトに行くやつもいる。
だから次に会うときまでに、せっかくだから飲んどくかーって話になった。
居酒屋でひとしきり飲んで、井上のバイト先のかわいい子を今度みんなで見に行く話をして、それから店を出たけれどまだ飲み足りなかった。
「俺んち来いよ」
加納が突然言った。
「俺んちで飲もうぜ」
「なんだよ、珍しいな」
佐藤が言った。
加納の家で飲むこと自体は珍しくもなんともなかった。俺たちの定番コースと言っても良かった。
でも、加納が自分から、自分の家で飲もうということはなかった。少なくとも、俺の記憶では。
全員で押し掛けた加納の部屋は、いつも通りだった。何の変化もなかった。
ある一点を除いては。
「おっ」
佐藤が嬉しそうな声を上げる。
「すげえ涼しい。クーラー、予約して付けてあったのか」
その言葉通り、部屋はひんやりとした冷気に包まれていた。
「違うよ」
最後に入ってきた加納が、後ろ手にドアを閉める。
「うちにクーラーはねえよ、佐藤」
「え?」
「ほら」
加納が差し出したのは、黒ずんだ木片だった。
ところで話は変わるのだが、昔、多摩のとある集落のとある神社で陰惨な事件が起きたらしい。小さな集落のことだから、住民の誰もがその事件のことを知っているはずなのに、部外者がその事件について尋ねると皆知らないふりをするのだそうだ。おかしいじゃないか、知らないはずはないとしつこく聞こうとした新聞記者がいたらしい。けれどおかしいそんなわけはない知らないはずはないと思ってしつこく聞こうとした新聞記者は三軒目か四軒目の家を訪ねたままとうとう帰ってこなかったらしい何でこんな話をするのかというとそれがとある事件に関わってくるからだ。そのとある事件というのは多摩のとある集落のとある神社で起きたらしい。小さな集落のことだから住民の誰もがその事件のことを知っているはずなのに知っているはずなのに知っているはずなのに知っているはずなのに知っているはずなのに知っているはずなのに知っているはずなのに知っている
知っている
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