第30話 13年前のあの日(兄視点)


 今日もいつもどうり、友達とご飯を食べようと思って、カバンから弁当を出した。

 いつも弟の陸が作ってくれていて、忙しそうなので他の家事を手伝おうとすると全力で止められる。


 だが諦めずに挑戦すればいつかは手伝わせてもらえるはず! 

 ……でも一ヶ月に一回は台所、もしくは洗濯機を爆発させる。なぜだ……? そんなに脆い作りなんだろうか?


 ……まあいい。弁当を開けると、少し違和感があった。その違和感について数秒考えると、陸と入れ替わってしまったのではないか? という答えが浮かんできた。感覚的には、「ほわわわわーん」と。


 そうして俺は、陸を探す旅に出た!!

 ……みたいな中二台詞は置いておいて。


 りくーと、名前を呼ぶ。陸を見つけて、陸に駆け寄る。

 教室に、一緒にご飯を食べる約束をしていた友達を待たせていて焦っていたのだ。



「弁当、入れ替わって、た……よ……?」


 そこまで言って気づいた。陸の隣にいる人物に。


 13年前のあの日、交通事故に遭った家族を運んだ病院で出会った、人見知りの少年。記憶の中でうすぼんやりと生きている彼が、ここに座って、売り切れになっていた新商品のパンをかじっていたからだった。


 うまそーと思いつつも、記憶の中で少年は、生まれつき重い病気にかかっているようだ。

 そして手術するには、お金が足りないと、人見知りの少年の代わりに、少年の友達が「内緒」と言って教えてくれた。



「たしか、二年の光莉ちゃんと光流……」


 光流ちゃん。そう言いかけると口が止まった。

 初めて光流を見たとき、女性として認識して、違和感を抱いた。まあもし間違っていても、冗談だと笑い飛ばせばいいか。


「光流君! これからも弟と仲良くしてね!」


 冗談交じりだったのに、「え……なんで……」という意外で意外過ぎる反応に驚きながらも、会話を終わらせないようにして驚きを隠す。


「なんでって言われても……なんとなくだからなぁ~」と、頬をかく。

 あながち間違いじゃない。勘っていうか運っていうか……。運も実力のうちとか言う奴いるけど、俺からしたらただの厄介な実力ですわ。


「で、君たちが山田姉妹、千代さんと紗代さん。」


「っ! あたりです。」


「君たちは双子なのに全然似てないって、友達から聞いたんだよ~。」


 俺は紗代と会話を始める。山田姉妹も、最初聞いた時、「何かありそうだな……」と感じた。

 自分の第六感がそう告げるのであればそうなのだろうが、面識のない人間のことなので首を突っ込まないようにした。


 どうせ、幼いころの喧嘩でも引きずってるんだろ。


「で、君が山田姉妹のいとこの優斗!」


 優斗からの返事はない。友達からトラウマで喋れなくなったと聞いたな……。

 ま、知らなくていっか。所詮は他人事だ。


 それより優斗は俺の事を覚えていないのか。下手に確認して


 ちらりと陸を見て、あの時の事は絶対に言ってはいけないともう一度覚悟を決めた。

 ……万が一、向こうから話題を振ってきたら、適当に誤魔化すか。

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