第19話 童顔父


「……海、ストーカーだよ?」

「何を申す貴様!!!!」


 諭すように、哀れみの目ではっきりと、海にストーカーだと伝える。すると少し被せ気味に怒鳴られた。

 あっ、また耳キーンてなってる。耳が持たない。


 推しの事を熱く語る海斗。そして僕は、海斗に会った時からの笑顔を保ちながら耳を塞ぎ、たまに相槌をうつ。

 すると、一人の女性に声をかけられた。


「あの、少々静かにしていただけないでしょうか。」


 その人はショートの髪でこめかみだけを伸ばしていて、珍しい髪型だな、と一番に思った。

 伊達眼鏡と思われる眼鏡の、綺麗に拭かれたレンズから覗く切れ長の目で少しにらまれ、少し冷や汗が出る。


「す、すみません……。」


 そう返して海の手を掴み、その場を逃げるように後にした。


+++


「はあ……。」


 僕は家族(兄不在)で泊まる旅館の一室で溜息をついていた。

 あの後の出来事をまとめると、


   あの後別の場所に移動して、

   推しの話抜きで会話して、ようやく人間らしい会話を交わし、

   みんな帰ったらしいから父さんが探しに来て、

   海と別れた。


 うん。簡単に言うと、こういうこと。


 海と別れたあとに気づいたんだけど、兄さんに電話すればよかったのでは? と気付いた。


 ――そう。気づいた。気がついてしまったのだ!


 気づかなければよかった。

 いっそこのまま気がつかずに忘れて墓までもっていきたかった!!


 はぁ……今となっては、後悔しかしてない。


「はあ……。」(二回目)


「陸ー、温泉行こー。」


 姿は見えないが、このゆったりとしたしゃべり方的にこの声の主は父の鏡。

 ほんと、いくつなんだあの人。年齢的に見ればその喋り方はちょっときついぞ?


 八つ当たりだ。まあ、仕方ないな。ウンウン。

 仕方ないよ、今日起きたのは科学的に不可能な出来事(魔法)だし。混乱するのも仕方ないね。


「はぁーい。今行くー。」


 ため息交じりに返事をしたときには、すでにあの人の鼻歌は遠くから聞こえてきていた。


(返事も待たないで先に行ったな?)


 と、父に対してキレつつ「走らないでくださーい。」と歩いて追いかける。

 これじゃどっちが年上だか……。


 部屋を出るとあの人の後ろ姿が見える。


 父はパッと見、高大学生だ。もう少し身長が低ければ中学生にも見えるかもしれない。

 まあ要するに。うちの父はそのくらい、童顔若く見えると褒めてる  つもり☆なのだ。

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