第二章 一方通行

第16話 神秘的な


「これが例の……青い花?」


 葵がつぶやいた。正直、同感だ。


 あの後、筮さんに連れてこられてきた場所は、旅館の裏にある大きな池。

 その片隅に、青くて綺麗な花が咲いていた。


「これは……蓮ですか?」


 僕はそう聞いた。筮さんに連れてこられた場所。そこに咲いていたのは青い蓮。

 その蓮に、ちょうど近くに生えている木の木漏れ日が当たり、神秘的な空気が僕らを包んでいた。


「……この花が咲いているこの場所は、そう簡単にはのだけれど」


 ……え?

 筮さんが蓮を見つめながら放ったその一言に、本日何度目だろう。もう一度固まった。


「えっあー………そう、なんですか? ならどうして……。」


 どうしてお兄さんは、この花の存在を知っていたのだろうか。


 数秒間、その場は静まり返った。数秒後、その沈黙を破ったのは筮さんだった。


「どうやって、この花の存在を知ったの?」


「へ⁉ それは……知らない人……が、僕が暇そうにしてたから親切なお兄さんに、ここに、きれいな……花が………あるっ、て………。」


 そこで、僕は気が付いた。


「……でも、とっても、親切なお兄さんで……した」


 お兄さんは、怪しい人だってことに。


 僕が、そんなわけないと思っていると、表情に出ていたらしく、光莉と葵に目をそらされ、筮さんが溜息をついて、少しためらいがちな表情で言った。


「その人がどんな人だったのか、私は知らない。けど、注意しておいた方がいいのは確実でしょうね。」

「……っ! ………でも……でも! 優しそうだったし……。」


「はあ……。犯罪を犯そうとしてる人が、怪しそうな見た目だと思う? 余計警戒されるでしょ?」


 そう言われて僕は、納得するしかなかった。


「……わかりました。」

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