5.私の日常 壊れる世界 -理佳-
突然、同室に、
入院してきた宗成先生の息子。
誰も居ないシーンとした部屋の中に感じる
人の気配。
そんな人の気配が、闇に捕らわれた私を
何もかも見透かしてしまうようで怖かった。
向こうもベッドを囲むように、ぐるりとカーテンをかけてた。
だから私も自分のテリトリーを守るように、
ベッドの四方をカーテンで隠した。
21時。
病院の消灯時間。
夜勤の看護師さんが病室を覗いて、様子を確認していくと
病室の灯りは消される。
夜が暗闇を支配していく。
冴子先生からの課題の楽譜をこれ以上見ることも出来なくて、
私は音楽プレーヤーから聴こえるクラシックの曲を聴きながら
ゆっくりと目を閉じた。
昼間も演奏した、モーツァルトのレクイエム。
ラクリモーサの調べが、私を包み込んでくれる。
私も罪も優しく抱き留めて、
いつか来る、終焉へと誘ってくれるみたいで……
死神が踊れるのを待ち望むように、
その揺りかごの中で、眠りに落ちた。
目が覚めた時には、聴覚を刺激する、
レクイエムの音色はなくて、
私はベッドの上でゆっくりと体を起こす。
キャビネットの時計は、
チクタクと大きな音で時を刻み続ける。
……まだ生きてるんだ……。
そんな罪悪感が、
その瞬間今日も振り注ぐ。
ふいに懐中電灯の明かりがカーテン越しに見える。
「満永さん?
どうしたの?眠れないの?」
カーテンを潜って姿を見せた夜勤ナース。
「大丈夫。
お手洗いに行きたくなっただけだから。
後、少し喉が渇いたの」
「そう」
「だから看護師さんも仕事に戻って。
ちゃんとお手洗いに行ったら、
うがいで喉を湿らせて休むから」
そう言うとなんでもないように、
ベッドから降りて、トイレへと向かった。
本当はトイレなんて
行きたくもなかったけど……。
約束通り、トイレに行って何事もないように給湯室の紙コップに、
ミネラルウォーターを注ぐと、流しの前で紙コップの水を口に含んで
軽くうがいをしては、流しの方へと水を吐き出した。
これも小さい時からの生きる為に
教えられてきた制限。
疲れやすい体を守るために、
運動はさせて貰えない。
そして心臓に負担をかけないように、
水分と塩分を取りすぎないこと。
1日に接収する私の水分量は制限されていて、
それは食事の時の水分量も含まれているから
喉が渇いても、必要以上の水は嚥下することは許されない。
だからこうして……うがいと言う形で、
口の中を湿らせて、吐き出す。
紙コップに2杯分ほど
そんな行動を繰り返して、
私はもう一度、自分のベッドへと戻った。
だけどそのまま、眠りに落ちることは出来なくて、
窓際のカーテンだけを開いて、外を覗きながら朝を迎えた。
ノック音の後、
病室に入ってくるのは宗成先生。
「理佳ちゃん、おはよう」
いつもの様にカーテンを潜って、
私の傍に来ると目線を合わすように
ベッドサイドの椅子に腰掛ける。
「おはようございます」
「調子はどう?」
そんなことを言いながら、
先生の指先は私の瞼をグイっと押して
すでに診察モード。
「夜にお手洗いに行きたくて目が覚めて、
その後、寝れなかっただけだよ」
看護師さんに説明したのと同じように、
宗成先生にも告げる。
「託実が……
息子が迷惑かけなかったかい?」
そう言って『託実』と子供の名前を紡ぐ
宗成先生は、お父さんなんだなーって思えるほど
柔らかな微笑みを携えてた。
「迷惑はかけられてません」
だって……会話すらも何もなかったから。
続けそうになった言葉は、飲み込んで
そのまま窓から外の景色を見た。
「先生、今日はエントランスで演奏してもいいの?」
メイク・ア・ウィッシュで冴子先生に出逢った
その後から、調子の良い時だけ週に三回。
病院のエントランスホールにあるピアノで、
ミニコンサートをするのが私の大切な役割。
「診察の後に決めようか。
横になって」
宗成先生の言葉に従って、ベッドに体を横たえると
聴診器が肌に触れる。
「今日のミニコンサートは、お昼からだったね。
先生のリクエスト、
夜想曲を演奏してくれるなら許可しようかな。
ただし……」
「午前中は安静にしておくことでしょ。
毎日言われてるから、ちゃんと覚えてるもん」
宗成先生とそんな会話をしてると、
再び病室のドアが開く。
「託実……」
先生の息子さんの名前を呼ぶ女の人の声。
「理佳ちゃん、先生の奥さんで薫子さんの声。
少し病室が騒がしくなりそうだね」
宗成先生はそうやって、小さく溜息を吐くと
カーテンに手をかける。
「うるせぇっ!!
出てけよ」
途端に怒鳴りだす言葉と、何かが壊れる音がした。
「託実、伯母さんを心配させたらダメだろ」
そうやって声をかける別の声が聞こえる。
隣のベッド周辺は朝から慌ただしくて、
そんなベッドの中心にいるのは、主治医の息子。
同じ空間に居るのも我慢できなくて、
イライラする心から遠ざかるように、
私はベッドから降りてゆっくりと歩いて抜け出す。
抜け出した途端に出勤してきた、
かおりさんと、かおりさんの前に担当ナースをしてくれてた
左近さんに見つかった。
「あらっ、理佳ちゃん。
ごめんなさいね。隣、騒々しいわよね。
遠山さん、理佳ちゃんをベッドに。
朝ご飯をお願いね」
左近さんはそう言うと私のことを、かおりさんに託して
深く息を吸いこむ。
「宗成先生、薫子先生。
そして、託実坊ちゃん。
お静かにっ!!
ここは病室ですよ。
親子喧嘩なら、ご自宅でなさってください」
一気にズドーンと落ちる雷に、
騒々しい病室は一気に静まり返った。
「宗成先生、薫子先生はお二人とも、持ち場へ。
託実坊ちゃん、君はここで朝食を。
今日から私が、託実坊ちゃんのお世話をさせて頂きます」
左近さんが追い打ちをかけるように告げた。
ベッドに上がった途端、かおりさんによって開放されたカーテン。
遮るものがなくなった視界は、
見たくなくても、もう一つのベッドを囲む環境を視界がとらえる。
「託実、後でまた顔を出す。
理佳ちゃん、朝から騒々しくて悪かったね。
左近さん、後お願いします」
そう言いながら病室を後にするのは宗成先生。
「託実、お母さんも仕事の合間に顔を出すわね。
満永さんだったわね。
お騒がせしました」
薫子先生と呼ばれてたその人も、
私にお辞儀をすると病室を後にした。
私のベッドテーブルに朝食のプレートが置かれた頃、
託実君のベッドサイドにも、朝食が置かれる。
見ただけで食事メニューは全く違う。
棚の引き出しから、お箸を取り出すと
私は決められたお茶をコップに入れて、
ゆっくりと食事を始める。
「理佳ちゃん、ご飯食べ終わったら呼んでね。
入れ替わりに朝のお薬持ってくるから」
かおりさんは、
そう言うと慌ただしそうに病室を後にした。
いつの間にか、
左近さんの姿も消えていた向かい側。
ベッドサイドに座っていたのは、
真っ黒な長い黒髪をくくった若い男の人。
「託実、叔母さんを心配させるなよ」
そう言って、その男の人も私に会釈をして出ていった。
艶やかな黒髪をくくる、紫色の組紐が印象的だった。
向かい合うベッド。
今も主治医の息子は、朝食に手を付けようともせずに
ただベッドでふて腐れて眠ってるように見えた。
そんな主治医の息子を見てるだけで、
イラつく自分が居る。
ご飯を食べ終わって、ナースコールでかおりさんを呼ぶと
朝食を下げて貰って、朝の薬を飲むとゆっくりとベッドに横になった。
音楽プレーヤーの充電池を入れ替えて、
再生ボタンを押すと、
イヤホンを耳にさしこんで冴子先生のピアノの音色に浸った。
次に目を覚ましたのはお昼前。
病室の人口密度は一気に多くなっていて、
隣人のベッド周辺には、彼の学校の友達らしい人が
ワイワイと騒ぎながら集まっていた。
「託実、智樹先輩に聞いてオレびっくりしてさ。
まさか、お前が入院するなんて思ってなかったから」
「そうよ。
私も今年の全国大会は、託実が優勝だと思ってたから」
そんな会話をした後、気まずそうに口元を抑える女の子。
「けど治るんだろ。
託実」
「俺さ、今日……コーチから言われたんだ。
託実の分も走ってくるよ」
聞きたくもないのに、騒々しい隣の会話は
いやおうなしに私の聴覚を刺激する。
早く出たい。
こんな騒々しい病室は嫌。
私は静かに……
死神が迎えに来てくれるのを待ちたいだけなのに。
私が許される日を待ってるだけなのに。
邪魔しないで。
私の大切な時間を……。
再び、病室のドアがノックされて
見慣れた人が姿を見せる。
「君たち、託実のお見舞いに来てくれたんだね。
有難う。
だけどここは病室。
ここには託実だけじゃない。
他にも入院してる人がいるってことを自覚して欲しいかな」
柔らかに静かに嗜めるその人が登場した途端、
今まで騒いでた人たちがシーンと静かに大人しくなる。
「最高総、大変申し訳ありません」
そう言って、その日との周囲には膝を折って座り込んで
お辞儀をする異様な集団が視界に入る。
何?
この人たち……。
「陸上部の皆さんは、
託実の分まで頑張って来てください。
もうお昼時になります。
皆さんは退室を」
私の知ってるその後ろ姿の存在は、
そう言うと、主治医の息子のベッドを囲んでた人たちは一斉に退室していく。
裕先生……。
名前を紡ぎかけようとして言い出せないまま、
じっとその存在を見つめる。
気が付いてくれるのを信じて。
「託実の友人たちがすいませんでした」
そう言いながら、振り返ったその人は
私の思ってた、裕先生とは違ってた。
顔立ちは凄く良く似てるのに、
何かが違う……。
そうだ……髪の結び方。
同じように長い髪を紫色の組紐でくくっているのに
左右が違うんだ。
右側にたらしている裕先生に比べて、
目の前にいる人は、左側に結わえてる。
「どうかしました?」
固まってる私に、声をかけるその人は
やっぱり……裕先生によく似てた。
出逢ったときは、まだ医学部の学生だったその人は、
ミニコンサートでピアノを演奏してた時、
私の隣で、ヴァイオリンの音色を響かせてくれた。
まだ学生さんだったその人を、
いつかは先生になる人だからって、裕先生って呼んでた。
裕先生は、「まだ先生じゃないよ」って苦笑いしてたけど
だけど……今は先生になってるはず。
国家試験には合格したって、
三月に教えてくれたから。
「裕先生?」
ゆっくりと言葉にすると、その人は
すぐに首を横に振った。
「裕は私に兄の名です。
私は裕真。
そこにいる託実の従兄弟。
君の主治医の兄の子供」
そう言って、私の疑問に答えてくれた。
その後、裕真さんは
すぐに主治医の息子の傍に近づくと
分厚い本をベッドサイドの椅子に座りながら読み始めた。
お昼ご飯の後、私はかおりさんに車椅子で迎えに来て貰って
一階のエントランスへと移動する。
沢山の患者さんが出入りしてる
外来のエントランス。
そこに飾られている
外国製のグランドピアノが私の相棒。
エレベーターで降りた後、
ピアノの前に辿り着くと、車椅子からピアノの椅子へとゆっくりと腰をおろした。
会計待ちの患者さんと家族でごった返してる
その場所で、ゆっくりとお辞儀をして
真っ白な鍵盤にそっと両手を置いた。
「理佳ちゃん、
15分後に迎えに来るわね」
そう、私に許された
一回のステージの時間は15分。
かおりさんが、ゆっくりと私の傍から
移動していったの確認すると今日最初の曲を演奏する。
ドビュッシー月の光。
詩人・ヴェルレーヌ「月の光」に影響されて
タイトルに名付けられたとされる、
美しい流れるようなメロディーラインの調べ。
心のままに鍵盤を走らせていくうちに、
私の心の中まで、清めてくれそうな
そんな音の噴水に、癒されていく。
4分少しの間の演奏を終える頃には、
ピアノの周辺には、
集まってくれた人が拍手をくれる。
ゆっくりと鍵盤から指を話して、
その人たちにお辞儀をする。
『お嬢ちゃん、
エルガーの愛の挨拶は弾けるかね。
昔、死んだ祖母さんが弾いとったんじゃ』
集まってくれた人たちからの声を受けて、
次の曲は決めていく。
その曲が自分で演奏できるものだったら、
演奏を頑張って、弾けない曲だったら素直に謝って
練習することにする。
愛の挨拶だったら、お稽古したことある。
2曲目はそれに決まった。
おじいさんの想い出の曲、
大切に演奏しよう。
ゆっくりと2曲目を始める。
すると何処からともなく、
私のピアノの演奏に、
重なってくるヴァイオリンの音色。
その音色は……小さい時から
ずっと知ってる優しい音色。
演奏を終えると、
ゆっくりとお辞儀をしてその人を見る。
さらさらの髪を結わえた
その人は、主治医の甥っ子。
そう言って私に話しかけてきたのはさっき私が間違えた
逢いたかった裕先生。
自分の夢を掴みとった人。
裕先生は出逢ったあの時と同じように、
ヴァイオリンを操りながら、私の傍へと近づいてくる。
演奏が終わって、お辞儀をすると
顔を上げた途端に、約束通り姿を見せてくれた宗成先生。
……夜想曲……どうしよう。
演奏するかどうか迷ってたら、
かおりさんの代わりに、迎えに来てくれた左近の姿が視界を捉える。
あっ……もう時間がない。
「理佳ちゃん、久し振り。
後、一曲出来そうかな?」
裕先生は私の方を見てから迎えに来てくれた左近さんに
アイコンタクト。
黙って、傍で見守ってくれてる左近さんに会釈をして
もう一度、ピアノに向かった。
裕先生のヴァイオリンが伸びやかに歌うのは
プッチーニ
トゥーランドット(誰も寝てはならぬ)の有名なフレーズ。
中学生くらいの私が当時、
病院に顔を出してくれた裕先生と偶然演奏した曲。
練習していた私の後ろで、
ヴァイオリンの音色を重ねてくれたって
言うのが正しいんだけどね。
そんな思い出が瞬時に浮かび上がる。
メインフレーズが少し落ち着いたとこで、
私はゆっくりとピアノの伴奏を最初から始めた。
ピアノの音色だけが静かに流れていた空間に、
華やかなヴァイオリンの音色が重なって広がっていく。
私の伴奏に、ヴァイオリンを震わせながら
メロディラインを鳴り響かせてくれる裕先生。
久し振りに心から、
楽しいを思えた演奏時間。
演奏が終わると、沢山の拍手と共に
私はその場所を離れた。
私は車椅子に移動して、
左近さんと入院病棟へと戻った。
裕先生も何処かへと姿を消した。
「あらっ、理佳ちゃん。
嬉しそうね。
裕君、一週間だけ日本に帰って来てるみたいね。
また来週には、行ってしまうけど
「行ってしまう?」
「あらっ、知らなかった?
裕君、卒業してから今留学してるのよ。
伊舎堂家の人間は、大学を卒業したら二年間海外留学することが
決められているのよ。
社会経験の一環でね」
そうやって情報をくれる左近さん。
最近ずっと見なかったのは、
留学してたからなんだ。
そう思ったら、ちょっぴり寂しくなった。
「あらっ、裕君が留学して寂しくなっちゃったかな?
理佳ちゃん、中学生のあの日から
ずっと裕先生・裕先生だものね」
そんな風に左近さんに言われてしまう。
好きか嫌いかって言われると、
多分、好きになるんだと思う。
だけど、それは……恋の好きじゃなくて。
一人で過ごす病院生活で出会った、
優しいお兄ちゃん。
裕先生は私にとっては、
そんな感じで。
昔みたいに一緒に演奏して貰えた時間が
懐かしかっただけ。
後は……また生きてる間に会えて
良かったなーって思えた、純粋な喜び。
「ねぇ、左近さん。
元弥(もとや)君のところに寄ってもいいかな?」
わざと声を大きく出してその話題から逃げようと試みるも、
こっちはこっちで駄目だったらしく左近さんとの会話は、
予想外の方向へと展開していく。
斎元弥(いつき もとや)君。
私と同じように心臓に病気を抱えた友達。
「そっか。
裕君は理佳ちゃんと離れすぎだもんね。
理佳ちゃんには、斎君が居たわね」
「もう、左近さん。
元弥君もあくまでお友達なんだからね」
「はいはい。お友達ね」
そんなことを言いながら左近さんは、
何時も私の体が許す限りは私の願いを叶えてくれる。
音楽に沢山の力を貰ってる私。
音楽を通して、こんな狭い閉ざされた場所でも、
誰かに(生きてる証)を知って貰える時間。
そんな時間を噛みしめながら
ゆっくりと抱きしめていく。
トントン。
到着した病室の扉をノックする。
「どうぞ」
そうやって顔を出したのは、
元弥君のお母さん。
「まぁ、理佳ちゃん来てくれたのね」
そうやって迎え入れてくれた病室。
だけど、元弥くんの声が帰ってくるわけではなく、
規則的に動いている、人工呼吸器の機械音が響くだけ。
心臓移植の順番を待ち続けながら、
私と同じ時を、必死に闘病して来た仲間。
そんな元弥君の心臓も限界に近づいていて、
今では補助人工心臓の力を借りてようやく動かしている状態。
そんな元弥君の隣に、
ゆっくりと近づく。
「元弥くん、こんにちは。
理佳だよ。
今ね、1階でピアノ弾いて来たよ」
そうやって声をかけると、
閉じられていた瞳が微かに開いた。
人工呼吸器が付けられているから、
声が聞こえることはなかったけど、
目を開けてくれたことだけでも十分。
それがだれだけ大変か、
私にはわかるから。
「また顔出すね」
そう言うと自分で車椅子の車輪をまわして
病室を飛び出すように出て行く。
見ているのが辛いって言うのもあるけど、
元弥くんの今の姿は、近い将来の私自身だと思えるから。
僅かな行動なのに、心臓に負担をかけてしまったのか、
脈拍が乱れているのを感じる。
車輪を回す手を止めて、
そのまま車椅子にもたれかかる。
「理佳ちゃん?」
慌てて駆け寄ってきた左近さんは、
何時ものように私の状態を確認していく。
「大丈夫……。
少し……息苦しく……なった……だけ」
そうやって答えるのが精一杯。
そのまま私は、左近さんに車椅子を押して貰いながら
自室へと戻ると、車椅子からベッドに
自分で移動することも出来ず、
左近さんに抱えられるような状態で、寝かされた。
ベッドサイドのコールを鳴らして、
左近さんが私の状態を伝える。
すぐにナースステーションから、
点滴を持った、応援の看護師さんが病室に姿を見せる。
「宗成先生の指示で持ってきました。
後で、病室に顔を出すそうです」
そうやって、点滴を左近さんに手渡すと、
手慣れた手技で、私の腕に点滴針が留置される。
「少し今の心電図見せて貰うわよ」
そう言うと、簡易心電計を心臓に押し当てて
データーを読み取ると、
それを制服のポケットへと入れる。
「理佳ちゃん、
詳しい説明は宗成先生の診察の後ね。
暫く、休んでいなさい」
そう言って左近さんは、病室を出て行った。
一気にシーンと静まり帰った病室。
病室の窓ガラスに、
蝉が衝突したゆっくりと
落ちていくのが視界に入った。
私の心臓は、
後、どれくらい持つのかな?
大好きなピアノは、
後どけだけ?
引き込まれていく意識の中、
不安だけは消える事はないままに。
必死で縋りつくように、
脳内に鳴り響かせるのは
トゥーランドット。
そして私が今まで演奏して来た、
大好きな音楽たち。
まだ私の希望を奪わないで。
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