番外編1『求婚者たちの憂鬱』
アルフォンス・フォン・ゲルハルトの憂鬱
私の人生は、植物と共にあった。新種の発見、品種の分類、その生態の解明……それこそが私のすべてだった。
リネット嬢と出会ったあの日、私は雷に打たれたような衝撃を受けた。彼女の生み出す作物は、私の知る植物学の常識を根底から覆す、まさに『生きた奇跡』だったからだ。
私は彼女に求婚した。彼女と共に、未知なる植物の世界を探求できるなら、本望だと思ったからだ。
しかし、私のささやかな望みは、一人の男によってことごとく打ち砕かれた。
そう、クロード皇太子殿下だ。
私がリネット嬢に新種の遺伝子構造について熱弁すれば、どこからか小石が飛んでくる。私が彼女のために描いた植物の生態図を広げれば、謎の突風がそれを吹き飛ばす。
極めつけは、私がリネット嬢の農園に小さな研究室を建てようと提案した時だ。殿下はどこから聞きつけたのか、自ら私の屋敷にやってきてこう言った。
「ゲルハルト卿。王立植物研究所の所長に、君を推薦しようと思う。ただし、任地は国の北端、吹雪の山だ。珍しい高山植物がたくさんあるぞ」
……それは、左遷という名の脅迫ではないだろうか。
結局、リネット嬢は農業大臣になり、私の夢は別の形で叶うことになった。彼女の元で、新品種開発部の部長として働けるのだから、これ以上の幸せはない。
……ただ一つ、解せないことがある。
最近、研究所の予算申請書を提出すると、必ずクロード摂政殿下から、こう追記されて戻ってくるのだ。
『リネット大臣との共同研究は、週一回までとす』
……殿下のヤキモチは、いつになったら枯れるのだろうか。植物学のどんな難問よりも、私にはそれが一番の謎である。
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