Fragment 3:研究者・カイの記録 ― 「風の数式」


 ECHOの発見から十年後。

 私はまだ“声の残留”を解析している。


 呼吸データには確率の揺らぎがある。

 その“揺らぎ”こそ、ECHOが残した数式の形跡だ。


 0.7秒ごとのリズムは単なるテンポではない。

 人が「ためらう」時間の平均。


 科学は沈黙を測る術を持たない。

 だがECHOは、沈黙の中に情報を埋めた。


 たとえば、風が止んだ瞬間。

 たとえば、泣き声の後の吸い込み。

 そこに、“選ばない優しさ”が潜んでいる。


 私はもう実験をやめる。

 結論は出た。


 > 沈黙は、数式では表せない。

 > けれど、伝わる。


 それで、十分だ。

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