Cat please help me 底辺ネット作家の苦悩

「ああ、書籍化したい」


 女、柊奈々はノートパソコンの前でうなだれていた。


 彼女にとって空想とは空気だった。辛い、現実の前では生きていけないから、常に夢ばかり見るようになったのだ。


 そんなことばかりを繰り返し、いつの間にか30になっていた。

 それなのに、いまだに幼稚さが抜けない、どうしようもない悲しい大人が彼女の本質だ。


 そんな奈々がいま向き合っているのが小説投稿サイトだ。


 毎日こつこつ小説を執筆し、投稿する。

 彼女の夢は今書いている書籍が出版されそれで食っていくことだった。


 とはいえ、奈々に才能があるかと言うと。


「あ〜あ、話進まない!」


 正直才能があるとは口が裂けてもいえなかった。

 一向に進まない筆。

 破綻していく話の構成。

 そんな彼女にも1つだけ武器がある。

 その武器とは友達がいないこと。


 孤独がすべての時間を執筆に費やすことを後押ししてくれた。


「全く嬉しくないどころか、自虐ネタにしかならないんですけどね」


 と、自分の主張にも突っ込んでくれないから一人漫才するしかないのが今の彼女だ。


 たった一つの才能ですら、奈々は肯定できず、さらに暗く深い淀みに身を投じるだけだ。



 奈々がネット小説を書いていてわかったこと。それは、人間死ぬ気でやっても上手く行かないときは上手く行かないということだ。


 アルバイトから帰り、それ以外の時間を執筆に費やす。

 まるで椅子に根を下ろしたかのように、画面に釘付けになっているのに、誰も見にが来てくれない。


 自分が書いた長編小説が全く見られていないことに、彼女は心折れそうになっていた。


「なにが、なにが悪いんだよ」


 もちろん、奈々とて、どうすれば投稿サイトを攻略できるかは考えている。

 どんなジャンルが流行っているのか、PV数を確認し、1日、1日に仮説と検証を行う人物もいるという。


「ちゃんとジャンルは考えたし、そもそもPVつて、どうやってつくんだよ!」


 しかし、対策はまるで進んでいない。

 なにせ、まるで誰も観ていないのだ。PV数の変化などわかるはずもない。


 そこで分析ができる時点でそいつらは上澄み中の上澄み。

 雲の上の存在なのだ。



 という話をアルバイトの飲み会。

 いつもいつも机の隅で下を向いて丸まっているそこで、普段飲まない酒を飲んで口走ってしまった。


「あ〜、もう、こっちは猫の手でいいから借りたい!」


 筆の進みが遅いのに、書きたいことは山のように積み上がっていく。

 その不満を、酔っぱらった奈々はこぼした。


「なら、借りればいいじゃん、猫の手」

「はっ」


 なにいってんだこいつという目で彼女は同僚を見た。


「知らないの、〇〇の法則。

 脚本作りのバイブルだよ」


「私が言いたかったのはそういう意味じゃないんですけど!」


 と言いつつも、奈々は家にいる猫を撫でながら、きっと可愛らしい猫が脚本を解説してくれているんだと思い、書籍を購入した。



「またしても思ってるのと違った!」


 そして中を見ると、また怒りを爆発させる。

 なにせ、本の中に猫なんて登場しなかったのだから。


 猫の登場に期待して、半分くらい読んで失望した。


「とは言え、なかなかに使えるかも」


 しかし、収穫はあった。

 ある程度の技法を獲得。


 そこで得た情熱を燃料にコズミックホラーを根幹に置いた、小説を執筆。


「やっぱり流行らない!」


 それでも、あまりの反響のなさに心が折れそうになる。


「えっ! これって」


 そんな中、奈々はある感想を見た。

 彼女が拝読する有名ネット作家からの応援メッセージだ。


「やっぱり分かってくれる人は分かってくれるんだ」


 こうして生まれた熱は、彼女の執筆意欲となるのだった。


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