第52話 強制戦闘
「どうして教官とレナが……」
「え、誰?」
ナルドは誰なのか分からず首を傾げている。
「そういえば君達は知らなかったんですね、彼らはレブナントさんとレナ君、どちらも優秀な魔法使いだ。大陸一ともいえる西の強国ガレア帝国のね」
「ガレアの?」
「そう、そしてそこにいるのがそこから追放された元ガレアの魔法使い、ハヤト士爵と言うわけだ」
「…………っ!」
「ガレア? ハヤト、お前ガレア出身だったのか」
視線が集まる。
「そして、そこのリア・ローファス。あなたの父を襲った刺客を放ったのもガレアの人間です」
「…………」
「本当に貴女の護衛は貴女を守ってくれるんですか? 信用できるんですか?」
目を細め、ニイ……と笑う。
嫌らしい笑みだ。
仲違いさせようという考えだろう。だがそれは恐らく効かない。
「ハヤトさんがガレア出身なんて私は最初から知っています」
「え?」
ナルドが驚く中、リア様は微笑む。
「出自がどこかではありません、大事なのは彼が今まで何をしてきたか……です。そんな讒言には乗りませんよ」
「リア様……」
流石は俺の主、分かってる。
「……まあいい。ならば別の方法で絶望に堕としてやればいいだけ」
首で合図し、イズールドは兵と共に下がっていく。
俺も後ろをちらっと見て、皆を下がらせる。
「教官、戦うなら私に先に行かせてください」
「やってみよ」
「はい」
レナが先に前に出てきた。
見た感じレナはあの頃と変わっていない、首に着いた無骨なアクセサリーが増えた位で、長い黒髪を後ろで一本にまとめている姿も快活そうな運動少女といった見た目と変わらない。
強いて言えば少々表情が固いくらいか。
「ハヤト……生きてたんだね」
「死にかけたよ、でも彼女が助けてくれたんだ」
「そっか……この国は良い国だもんね」
レナは複雑そうな顔をする。
「覚えてる? ずっとガレアにいた頃一緒に戦闘訓練をしてた事」
「覚えてるよ」
「私ね、あれから頑張って、転生者の中でも上位五人だけが名乗れる称号を貰ったの。あんなに人がいた中でもかなり強いんだよ。多分ハヤトなんてあっけなく倒せる位に」
「そうなんだ。、おめでとう」
褒めたのに俺の言葉に顔を顰める。
レナはどこか苦しそうな表情をしている。
「……ねえハヤト、戦わない事って出来ないのかな?」
「それは俺も言いたかったよ。けど出来ない」
「どうして? どうして転生者同士で……っ!」
俺は構えを取る。
「そっちが俺の恩人であるリア様を殺そうとするからだ」
「……後悔しないで」
【アクアランス】
初級魔法である氷の槍が飛んでくる、迎撃しようと構えた所で、
【ファイアピラー】
何本もの炎の柱が周囲に現れた。
動きが取れなくなった瞬間、魔力の高まりと共に高速詠唱が聞こえてくる。
素早い連続魔法それは唄うように空気を揺らす。
『我願う、呪われし裁判官イロイの助力。炎柱にて記された獲物に断罪の業を鍛て。聖者には施しを罪人には鉄槌を。大地を償いの血で染め上げろ』
スッと目を細める。
『キキキキキッ!』
不気味な声が聞こえた。
炎の柱の噴煙の中、中空に佇むは白衣を着たのっぺらぼうの人型。
体躯より大きな金槌が今炎の柱で示された標的に向かって振り下ろされる。
「これで終わり」
【インフェルノクラッシュ】
大きな衝撃音が聞こえた。
地面を揺るがす一撃は間違いなく上級魔法であり、並みの術者であれば……否、強靭な盾を持った戦士でも耐えられない一撃。
だが、
「…………」
ハヤトは立っていた。
何事もなかったように、余裕の表情を浮かべて……だ。
「嘘……どうして、防御魔法を?」
「止めよう。レナじゃ俺に勝てないよ」
「…………」
レナは険しい顔をする。
「ハヤトも魔力量が上がった様だね。でも次はさっき以上に魔力を込めて放つから、怪我しても知らないよ?」
「やってみて」
続けてレナは詠唱を始める。
『吹き付けるは暴風、駆け抜けるは黄昏色に染まる草原、無より生じた見えない刃は大地と接する大岩をも宙へと転がす。風よ遊べ』
『ウィル・ソルファ』
続けて来たのは風系の上級魔法、魔力が乗り、並の魔法使いの放つ同じ魔法とは大違いだ。
無数の風の刃が地を這い草木を切り裂き、岩まで切断しながらこちらに近づいて来る。
俺はゆっくりと歩いて行く。
「負けを認めた? でももう遅いよ」
大きな風の刃が滑るように俺の身体に当たる。
キュンキュンという甲高い音をたてながらも俺の身体に当たっては弾かれ消えていく。
俺がレナの正面に立つ頃には襲ってきていた風の刃は消失していた。
「そんな……」
「無理だよ。風系上級魔法だけど、それじゃ俺に傷一つ付かない。もう一度言う。やめよう」
レナは唇を噛み下を向いた。
「本当に強くなったんだね」
「努力したからね」
「そう……なんだ。ハヤトは凄いね。けど諦めるわけにはいかないよ、私は負けられない」
「どうしてだよ! なんでそうまでして、そんなにガレリアが好きなのか!?」
「好きなわけ無いでしょう! でも私は戦わないといけないの! 勝たないと……だから……あ、ああああああ!」
瞬間、弾かれるように身体を反らし、レナが悲鳴を上げて倒れ込んだ。
びくびくと痙攣し、それでいて甲高い悲鳴を上げながら首元を抑えている。
否、厳密には首に着いた装着具を抑えている。
「愚図が、覚悟が足りぬから私が補佐に来たというのに中途半端な魔法を使いおって」
「も……申し訳ありません」
「ガレアに敗北は許されない、敗北者はゴミだ、虫けらだと何度も言っただろう」
「教官、何をしたんです!」
俺はレナに駆け寄りながらレブナントを睨む。
「躾をしただけだ。ガレリア国民ではない者はどうも信用ならん。だから管理し躾をするのは当然だろう?」
レブナントが手に持った物を見せてくる。
「ガレアの作った簡易魔道具だ。これを使えばガレア以外の国民もガレアの為に頑張れるようになる、良い魔道具だろう?」
レブナントの言葉にリーゼ様が酷い……という小さな呟きを漏らす。
だが俺は酷いとは思わない、何故ならガレアとはそういう国だと知っているからだ。
自国の国民以外には何をやっても良いと思っているのだから。
「レナは、頑張ってきたはずじゃ」
「使えない道具に存在価値はない、再三私に貴様を説得して仲間に入れると言っておきながらこの体たらく。もっとも、無能など貰っても私は要らないと思っていたがな」
「ではレナはこちらで預かっても?」
「構わん。それを預かるならば万が一にも貴様が無様に逃げ出すことはないだろうからな」
「……それはありがとうございます」
俺は痛みで意識を失っているレナをこちら側へ連れてきた。
ナルドにレナを預ける。
「馬車に寝かせて置いてください」
「あ、ああ……」
ナルドは言われた通りレナを馬車に運んだ。
続けて俺はレブナントの方へと歩いて行く。
「教官、ガレアではお世話になりました」
「そうか。私にとっては無駄な時間だったよ。ガレアの為にならない人材に時間を使ってな」
「それは良かったです。俺もガレアのような糞な国の為に働きたくなかったので、強くならなくて良かったと思っています」
「何が言いたい……?」
「さっき教官は言いましたね。ガレアに敗北は許されない……と」
「それがどうした」
俺はレブナントを睨みつける。
「これから俺があなたはゴミであるという事を教えます」
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