ぼくのかんがえた最強のお嫁さんが可愛くて強すぎる!
小狐ミナト@ダンキャン〜10月発売!
プロローグ
俺は、容姿にも親にも才能にも恵まれない人生を送ってきた。誰かから馬鹿にされ、下に見られ、何かを推して楽しんでいる様子すら気持ち悪いと罵られる人生だ。
でも人として、自分だけは誰にでも優しくあるべきだという心は忘れずに生きてきた。
六畳一間のアパート、俺はそこで生涯を終えたらしい。体が動かず、視界が引っ張られるようにブラックアウトした。
***
「起きた?」
起きてないのに、トンチンカンな声かけだ。驚いて目を開けると、そこはまるで、まるでじゃなくて多分天国だった。ふわふわの白い床はまるで絵に描いた雲のよう。真っ白な床とは一変して天井は晴天模様。真っ青な澄んだ空が広がっている。
「俺、死んだんですか」
「そうね。死んじゃったみたい」
視線を上げると、そこには美しい女性が立っていた。彼女は神という存在なんだろうか。後光が差していて、天使の輪っか的なのが頭の上に浮いていて羽も生えている美人。女神様、とか?
「貴方には次の人生が始まるのだけど、願いを叶えてあげようと思って」
女神様は赤ちゃんを抱いている。可愛らしい赤ん坊はこちらをみてにっこりと笑っている。むちむちの手はクリームパンみたいで可愛らしい。
「願いですか? 俺の?」
「えぇ。貴方は不遇中の不遇の人生を受け入れたのに善行を積み重ねていたでしょう? なかなかできることじゃないの。自分に理不尽な不幸が起こった時、人というのは誰かに牙を向けてしまうから。特に貴方と同じような境遇の人はね」
「俺は、誰かを傷つけたくなかっただけで。そもそもそれって普通のことですよね? 俺は自分が弱男だからって誰かを恨んで傷つけるようなことしたくなかっただけで」
「それが誰にでもできることじゃないって言ってるのよ。さ、願いを言ってみて。次の人生でお姉さんが叶えてあげる」
女神様はウインクをすると笑顔を向けた。すると、赤ん坊の方が話し出す。
「おいおい、勝手なことしていいのかよ? こいつのいう通り人を傷つけないなんて当たり前の当たり前だろ?」
「こーら、口を挟まないの。君もみたでしょ? さっきの邪悪な男を境遇は彼とおんなじモテない世間から見放されてしまった男性だったでしょう」
「ありゃ、まぁあいつはやばかったな」
赤ん坊はぺっと唾を吐いて口元を拭いた。なんでも、モテないことを理由に若者が集まる街で若い女性ばかりを連続で殺傷した犯人が自殺してこちらへやってきたらしい。
世も末である。俺はその話をきいて身震いした。こういう事件が起こると世間の視線が「弱男」に牙を剥くのだ。俺は死んでよかったのかもしれない。
「で、貴方の願いは? 次はどんな生を送りたい?」
「願いって言われても人間で、貧しくなかったらいいかなって」
「あら〜〜〜それじゃつまらないじゃない? 貴方は今回の人生でできなかったことをしたいと思わないの?」
「そりゃ、やりたいことはいっぱいありましたよ。例えば、すごく綺麗な女の子とお付き合いしたいとか」
「あらっ。いいじゃない」
「でも、女神様の力で無理やり俺と付き合わされる方の気持ちはどうなるんです? 女の子でも職場でもなんでも。相手が可哀想じゃないですか」
赤ん坊が俺を指さして言った。
「コイツ、やべぇな。善人すぎる、欲とかないのかよ? いっそ、天国勤務にさせるか?」
「そんなこと言っちゃいけませんっ。めっ。じゃあ、あくまでも私は貴方に機会と、それに十分な才能をあげるだけにするから教えてよ。貴方の欲しい……何かを」
俺が、前世でやりたかったこと。例えば、THE青春みたいな時間を過ごすことだったり、仲間と部活で熱くなる経験もやってみたかった。
そもそも四年制大学に行きたかった。受験に向かって頑張っていい大学に入って恋愛をして、就活して……
いっぱいあるな。でもそれは容姿とか親ガチャが良くても俺の中身でできたかは謎だ。
「優しくて可愛いお嫁さんと暮らしたかった」
口から溢れたのはそんな言葉だった。多分、勉強も仕事も恋愛も最終的にはそこに行き着くための手段でしかないと思ったから。間違っているのかもしれないけれど。
「どんな子か教えて?」
「優しくて、可愛くて、一緒にて最高だなって思える人。ですかね」
「あらあらあらあら。素敵ねえ。わかったわ。他にある?」
「できれば、そのできれば……日本食が食べられる場所がいいですね」
「はーい。あと赤ちゃんからじゃ大変だからすぐにそこに飛ばすわねっ」
ぐいっと、後頭部が引っ張られるような感覚がして俺は意識が薄れていく。その中で女神様と赤ん坊の声が聞こえた。
「本当にいいのかよ?」
「大丈夫よ。私はあくまでも出会いを与えるだけ。選ぶのは彼だもの、可愛くて、優しくて、最強のお嫁さん。素敵じゃない」
——あれ、なんか少し違うような?
次に俺が目を開くと、そこは井草の香りが新鮮な美しい部屋の中だった。料亭、だろうか。ふと近くの窓ガラスに映った自分が若く優しそうな色男であることに気がついた。頬に触れてみれば実際に触感があり、自分が生きているのだと感じた。
料亭にくることができるそこそこのイケメン、まず容姿のガチャは成功したようだ。ありがとう女神様。
「ユウキ。ちゃんとしなさいな。お見合いの場なんだよ。ふらふらするんじゃないの。お相手はあの、日本一の妖怪退治屋の娘さんなんだからね。でも光栄よねぇ、素材屋を営む我が家に、日本で最強の妖怪退治人がお嫁に来てくれるかもしれないなんて」
——大丈夫よ。可愛くて、優しくて、最強のお嫁さん。素敵じゃない
俺がお願いしたのは「一緒にいて《最高》だと思える人」であり「最強」の人ではない。あの女神様、ちょっとポンコツっぽかったけど……まさか。
おしゃれな襖がガラッと開き、桃色の振袖をきた女性が入ってきた。彼女は俺に向かって微笑むと美しい所作で向かい側に座ると言った。
「はじめまして、
北野翡翠は、俺が今まで見た中で一番と言っていいほど美しい女性だった。細身で色白、その上目の大きな美人。最低限のメイクのはずなのにはっきりした顔立ちでうっすらと色づいた頬も少し厚い唇には紅が刺してある。
じっと目を見つめられるのになれていない俺は目を逸らしてしまう。
——私は出会いを与えるだけ。選ぶのは彼だもの。
女神様の言葉が脳内に響く。どうやら目の前にいる彼女が、俺の考えた最高(最強?)のお嫁さん……候補。
でも自分で望んだ通り、彼女が強制的に俺と結婚するわけではない。ここから先はあくまでも自分の力で頑張らないと。
「よければお二人の話からでもいかがですか」
仲人の言葉に俺と俺の母親、北野翡翠と彼女の母親が頷いた。
こうして、俺の新しい人生が始まったのだ。
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