第7話 爆風の余韻

校門を出たあと、二人は並んで歩いた。

秋の風が少し冷たい。

面談の余韻が残るせいか、どちらも黙っていた。


「……帰るか」

「はい。買い物をします」

「お、計画的だな」

「冷蔵庫の残量を見ました。卵と牛乳が切れています」

「どっちも昨日の夜に気づいてたんだけどな」


近くのスーパーまで歩く間、周囲の視線が妙に気になった。

アリサが制服のまま歩いているからだ。

それでも本人はまるで気にしていない。


「さっきの発言、後悔してないのか?」

「どの発言ですか?」

「“直哉さんと一緒に過ごせる進路”ってやつ」

「合理的判断です。後悔の要素はありません」

「そりゃそう言うと思った」


スーパーに入る。

買い物カゴを持つアリサは、迷いがない。

商品を確認し、最短ルートで必要なものだけを取っていく。


「牛乳、銘柄は?」

「安い方でいい」

「味覚に関係します。普段どちらを選びますか?」

「……はいはい、いつものやつで」


会話は淡々としている。

だが直哉は、そのやり取りの一つ一つに妙な安堵を感じていた。


会計を済ませて外に出る。

買い物袋を片手に持ちながら、アリサがふと口を開いた。


「面談での発言、迷惑でしたか?」

「……正直、焦ったけどな」

「焦る要素は理解できません」

「そりゃそうだ」


信号待ちの間、直哉はぼそっと呟く。

「人の噂ってのは、勝手に話が膨らむもんなんだよ」

「誤情報が拡散するのは効率が悪いです」

「だろ? でも止められないんだ」

「ならば、放置します」

「簡単に言うな……」


家に着くころには、夕方の空がオレンジ色に染まっていた。

玄関に荷物を置き、アリサが靴を脱ぐ。

「夕食の準備をします」

「手伝うよ」

「必要ありません。あなたは休んでください」

「いや、そう言われると落ち着かねぇな」


アリサはエプロンをつけ、冷蔵庫を開けた。

動作に無駄がなく、静かに包丁の音が響く。

その姿を見ながら、直哉は思わず笑った。


「なんか、もう慣れてきたな」

「何にですか?」

「お前のペースに」

「悪くありませんね」


軽い会話が続く。

だがその奥にある、言葉にならない何かを、

二人ともまだ自覚していなかった。

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