第37話
「ずいぶん好き勝手してくれたな」
おそらく界隈の顔役だろう。
入れ墨をした男をはじめ、間違いなく悪人と思われる男が4人。
SPを見て顔をしかめるも、彼らもここで退けないのだろう。
「先に着くの、警察じゃないんだ」
真菜はのほほんと言った。
「残念だな、そっちはナシついてんだよ」
なるほど、そういうつながりもあるわけか。
「ふうん。で、わたしはあなたたちに用はないんだけど、邪魔するの?」
「あ?」
「邪魔するのかしないのか、どっち?」
真菜はここを歩いて、ある意味観光ができればいいだけだ。
別に彼らに用なんてない。
彼らには用があるのかもしれないが、そんなことは真菜の知ったことではない。
「待て待て、そんな喧嘩腰じゃなくても」
「こういう手合いは格付けをちゃんとしないといつまでも大きい顔するだけだから」
「格付けだあ? チンピラ一匹ノしただけでずいぶんと自信満々だな、嬢ちゃん」
「そう? 手加減を緩めてもいいんだね?」
真菜はきょろ、と周囲を見渡し……近場にあった街灯の前に行くと、拳一発。
があん、と激しい音がした。
メコリと凹んだ街灯を、右手一本でねじ切る。
その先端を地面に叩きつけた。
ドカン、と轟音。銃声なんて比ではない。
コンクリートが破砕しているのだ。
およそ人間業ではない。
「そこになおれ。4人まとめてひき肉にしてやる」
真菜は一切加減をしない。
男たちは言葉もない。
あんなもので殴られたら間違いなく即死だ。ザクロのごとくはじけ飛ぶに違いない。
金属の街灯に指をめり込ませ、まるで短い木の枝かのように振り回すのだから異常も異常。
自分たちが生きるアングラでは銃を見かけることも珍しくはないのだが、はっきりいってあんなおもちゃなんて比較にもならない。
仮に銃を持っていたとしても、まったく頼りなかったに違いない。
「あ、そうだ、壊しとこ」
周囲を見渡してターゲットし、指先で雷撃魔法を一発。
そこかしこからスマホが壊れる音が聞こえた。
手に持っているもの、ポケットに入っているもの、すべて無差別だ。
「ああっ!?」
「スマホが壊れた!」
周囲の騒ぎをよそに、真菜の姿が消えた。
実際にはそんなことはなく、目にも止まらぬスピードで動いただけなのだが、地球人が走るのとは次元が違う。
気付けば真菜の姿は男たちの真横におり。
顔面数ミリのところに街灯の鉄の棒。
遅れて、ぶわ、と強風が吹きすさんだ。
「もう一度言うよ、わたしはあなたたちに用はないんだけど?」
真菜の立ち位置と行動。
殴りかかってきて、寸止めしたのだと理解した。
実際には迫る真菜と、目の前に向かってくる街灯の鉄棒が近づいてくるところは目で見えていた。
見えていただけでは反応なんてできない。
彼らのメンツを真っ向から捻りつぶした形だが、真菜は全く気にしていない。
格付けすることが大事だと言った通りのことをしただけだ。
現に、彼らの顔を見れば一目瞭然。
真菜へ何かをする気も、言う気も残っていないようだった。
「もう絡んで来ないでね。わたしがここで何してようとわたしの勝手。あなたたちには関係ないから」
真菜が街灯から手を放す。
ガランガランと、まるで工事現場かのような音が響いて、アスファルトが砕けた。
それだけの重量のものを片手で軽々と振り回し、寸止めをする。
かかる慣性を事も無げに制御したということだ。
「さ、いこっか」
「あーあ……まったく初日から問題ばかり起こして……」
「あいにくだけど、わたし日本という国にそこまで感謝はしてないんだよね」
そんなことを言いながら立ち去る。
すっかり空気が支配されてしまった花道通りのことなど、真菜はもはや気にもかけていない。
「うん? それはどういう……」
「まあ、それは調べてみたら分かるよ。当時のこと」
言いながらちらととある方向を見る。
そこには、かつて真菜を虐めていたグループのうち主犯のふたりが。
彼女らは真菜を見てビビっている。間違いなく真菜と気付いているだろう。
その証拠に、真菜を見てサッと目をそらしていたから。
なんでこんな派手な真似をしたのか。
それは、彼女たちに見せつけるためでもあったのだ。
今更彼女たちに仕返しなんてするつもりはない。
殴ったところでそこまでスカッとはしないだろう。
ちょっと加減を誤ったら殺してしまうし、かつて恨んだ相手に対してわざわざ気を遣うのもばからしい。
トー横界隈にいる時点で、つまりはそういうことなのだろう。
あえて何もしない。
復讐も。
声をかけることも、名前を呼ぶことさえしない。
ただ見て、「お前たちを見つけた」と焼きつけられたらそれで充分だった。
その後彼女らがおびえて過ごすかもしれないが、知ったことではない。
まあ、真菜のことをさっぱりと忘れて過ごすかもしれないが、それはそれで見事だ。
簡単にそうならないように暴れたのだから。
やりすぎじゃないか、とSPのふたりは言うが、あいにく真菜にとってはこの程度は普通の範疇だ。
これで日本に愛着があれば気を遣いもするが、真菜にとっては母のこと以外に日本には特別な感情はない。
この程度はいくらでも握りつぶせるだろう。
ぶっ壊した街灯と砕いた地面の分、弁償しろというならしたってかまわない。
金で解決できる問題なんて、真菜からしたらありがたいまである。
金なら余るほど持っているから、今この瞬間に10億円出せ、と言われたって痛くもかゆくもないのだ。
日本円で30億。
これは冒険者を2年間、何も考えずにやっていたら勝手に貯まっていた金額。
特に稼ごうとしていたわけじゃない。
本気で稼ごうと思ったら今後いくらでも増やせるから。
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