第33話
改めて見たゲートは、10m四方の正方形にフレームが作られていて、その中が虹色のマーブル模様に揺らいでいた。
ここを通り抜ければ、日本につながっているらしい。
「じゃあ、行くよ」
真菜からしたら未知のゲートだが、飯沼はずんずんと進んでいき、消えていった。
飯沼は真菜と違い一般人だ。
何かが起きた場合の対応力では真菜と比べるべくもない。
となれば、そんな彼が恐れることなく進んだ。ゲートを恐れる理由なんてない。
さくっとゲートをくぐる。
視界に映る光景がゆがんだのも一瞬。
真菜はすでに日本に立っていた。
パシャパシャとシャッターを切る音に、アナウンサーが唾を飛ばしながらもカメラに向かって話しかけている。
今すぐにでも真菜にインタビューをしたいのだろうが、事前に飯沼が言っていた通り、仕切りに囲まれていてマスコミはそれ以上近づくことはできなかった。
真菜の名前を呼んでいるレポーターはたくさんいるが、近寄らなければ話をすることはできない。
ちらりと一瞥し、そのまま無視。
飯沼に案内されるまま歩いて行った先には、一台のワゴン車が停めてあった。
どうやらこれを使って移動するみたいだ。
「出してくれ」
飯沼と真菜が乗ったところで、車が動き出した。
景色が動き出す。
今はもう懐かしい光景が飛び込んできた。
どうやら海に囲まれている場所みたいだ。
車が陸橋を通る際に外を見ると、四方が海だった。
「ここはどこ?」
「ああ。ここは令和島だよ」
「令和島?」
聞いたはいいもののピンとこない。
そんなに地理に明るかったわけでもなければ、2年間も日本とは物理的に離されていたわけで。
「ああ」
真菜が詳しくないことに気付いた飯沼がスマホの地図アプリで令和島を指して教えてくれた。
「ここだから、すぐだよ」
ここからなら外務省へはすぐだろう。
車は首都高に乗り、レインボーブリッジを通過。
この東京の景色懐かしい。
こういった高層の建物は異世界にはなかった。
もっとも高い建物でも、王城の塔だけで、一般的に建物は5階建てを超えたら高いな、となる価値観だ。
10階建ての建物が当たり前に林立するような光景はまず見られない。
久々に眺める日本の景色を、真菜はぼんやりと眺めていた。
東京タワーを右手に進んで首都高を降りると、外務省はすぐそこだ。
警備員が閉ざしている正門が開けられ、車はその中に。
マスコミも追いかけてきていたが、さすがに今回はマスコミの車は入れないので真菜は映ることなく庁舎内に入ることができた。
「じゃあ、こっちだよ」
飯沼に先導されて外務省の中を進んでいく。
そしてしばらく進んで辿り着いた会議室。
そこには松島や飯沼よりもさらに年かさの男性が待っていた。
「来たね。私は鈴木武雄。外務次官を務めている。少しだけお付き合い願うよ」
「はい」
貫禄がある。
真菜も「圧」というものを受けることには慣れている。
しかし戦場で受ける圧と、こうした場所で政府高官や貴族が持つ貫禄はまた別種だ。
さすがに背筋が伸びる。
これまで真菜が必要と感じなければ敬語になることはなかったが、さすがに鈴木相手にはした方がいいだろうと感じたのだ。
「じゃあ、そこに座ってくれたまえ。君、お茶を」
秘書にお茶を用意させる。
真菜、飯沼、そして鈴木が腰かけて相対する。
「さて、まずはおかえり、と言わせてもらおうか。あの世界は何も力がない人にとってはかなり厳しい世界だ。よくぞ生き延びられたね」
「幸運がありましたから」
「なかなか君のように順風満帆な異世界生活を送れた日本人は少なくてね。そんな目に遭わずに済んだのは喜ばしいことだ」
なるほど、情報を探ろうとしているのか。
そんなに隠すことは多くないけれど、アルヘラのことはまだラミリアたちにも喋っていない。
ならば、ラミリアに明かしている内容までならいいだろう、と結論付けた。
「さて、お母さんに会いたかったと言っていたね。親御さんはパートをしながら慎ましく生活されているようだよ」
「あ、そうなんですか」
まあ仕方あるまい。
状況が変われば、自分を取り巻く環境を変えることもあるだろう。
真菜が行方不明になって2年。でも母が働いているだけでも十分だった。
「君の名前はマスコミが公表しているから、もしかしたらお母さんも見ているかもしれないね」
「そうですか、無事が伝わっているならよかったです」
そのうち会いに行く。
そこにはマスコミがいたりするだろう。
相手したくないときに相手をするのも大変だ。
その辺も考えないといけないだろう。
「それで、お母さんに会えた後はどうするのかね?」
「2年ぶりの日本なので、昔はいけなかったところとかを歩いてみたいと思ってます」
中学生だから。
お金がないから。
そういった理由で諦めたことはいくつもあった。
今は金は掃いて捨てるほどあるし、一般的に危険だと言われるところだって、もはや恐れることは何もない。
いろいろと巡ってみたい。
別に真菜は優等生ではない。
いじめられて鬱屈とした日々を過ごしていた真菜はそういったところに興味はあった。
それを思いとどまらせていたのは母の存在。
お母さんに心配をかけたくない、といった一心で踏みとどまっていたのだ。
これで家族との仲が悪いとかそういったことがあったら、きっと真菜はそっちに行っていたに違いない。
家庭に居場所はない、学校にも居場所はないとなれば、もう気を遣う相手、守るものなんてないのだから。
「そうか……プライベートだから、止めることはできないか」
そう。
こうして外務省にいて偉い人と話をしているが、真菜は別に公人ではない。
日本政府だって強かなので政府が抱き込むように色々と手を打ったりも当たり前にやるが、真菜にはそれをやることもできない。
「もう聞いているとは思うが、その場合は君に付き添い要員が付くのでそこの認識をお願いしたい」
「分かってます」
別に無視することはできるだろう。
でもそうなると王国側……ラミリアやアルフレートに迷惑がかかる。
それは本意ではないので連絡はした方がいいだろう。
「でも、実家にいるときはその人たちはどうするんですか?」
「それなんだが、できればこちらで用意したホテルでの滞在をお願いしたい。いつでも付き添いができるようにしてもらえれば出かける行為に制限は設けないようにしよう」
「わかりました」
このくらいなら呑んでも問題はない。
母に会えるし、日本の観光も自由にできるのなら、人がついて歩くことくらいどうということはない。
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