第4話
「……なるほど」
何がなるほどなのかは分からないけれど、とりあえずそう呟いてみる。
戦闘が行われている場所から少し離れたところに岩がある。
真菜はとりあえずそこに降りてみた。
双方ともに先頭に集中していて真菜に気付いた様子はない。
盗賊らしい、と見立てた男たちは見た目も外見も汚らしいが、その戦闘力はただの盗賊ではない。
現に騎士たちが防戦一方で、相手の数を減らすこともできていない。
盗賊(?)側も騎士の数を減らすことはできていないが、むしろちょっとずつ押し込めている形だ。
汚らしい恰好は間違いなくカモフラージュ。何らかの戦闘訓練を受けた刺客なのは明らか。
そう思ったのは、真菜の中にあるアルヘラの知見があったからだが。
一方の騎士たちは数で劣るからか、徐々にその防衛ラインを下げさせられている。
それでもまだまだ戦えているのは、個の質が敵よりも上回っているからに他ならない。
「でも、遅かれ早かれ、ってところかな」
騎士のひとりでも倒れたら、この拮抗は瓦解するだろう。
騎士側の戦線を支えているのは、先頭に立って戦っている女性。
大体高校生か大学生くらいだろうか。
この中で誰よりもとびぬけて高い実力で、他の騎士がタッグで3名ほどの刺客を受け持っているのに対し、彼女はひとりで6名の刺客を受け持っている。
さすがに倒すことはできないようだが、受け持った6名については完全に足止めしている。
彼女が戦っているからこそ持っているのは間違いない。
さて、どちらの味方をするか。
真菜としては、どちらにも思い入れはない。
どちらが勝っても負けても心が痛まないだろう。
現に死体が転がり血が地面を染めているが、何の感情も湧かないのだ。
それは間違いなく、アルヘラが憑依したからだ。
アルヘラの魔法の効果には、宿主の精神力強化も含まれていたから。
そのうえで味方をするなら、話が通じる方だ。
騎士側は必死に問い掛けているが、盗賊(?)側は一切答えることなく、淡々と容赦なく戦いを継続している。
刺客に味方をしたとして、その後真菜の質問に答えてもらえるとは思えない。
ならば味方をするなら騎士側か。
こちらも話を聞いてもらえない可能性はあるが、それならとっととずらかればいいだけだ。
「さて」
この世界に来てから初めての攻撃魔法だ。
しかも相手は手ごろな魔物じゃなく、人間。
まあ獣人やエルフ、ドワーフといった種族もいるらしいが、それらもひっくるめて人間と呼ばれているので、人間でいいだろう。
杖を構える。
自分の身長よりも長い杖だけれど、ここまで全く邪魔だと感じたことは無い。
「風の尖刃」
鋭い三角錐の風の刃。
それが高速で放たれ、盗賊(?)2人の頭を貫いた。
血しぶきをあげてもんどりうって倒れる男たち。
さすがに予想外の攻撃だったのか、刺客どもが一瞬うろたえて。
「今だ!」
一気に攻勢に出る騎士たち。
この機を逃さず一気にギアをあげた。
さすがは戦闘のプロ。
見事な対応だと思いつつ、それならば真菜もやることはもっとある。
「さて次は、と」
介入したからには、だらだらと戦闘を続けられるのもかったるい。
フレンドリーファイアなんてするつもりはない。
騎士たちに当てないように魔法を制御するいい訓練だ。
風以外の魔法も使えるだろうか。
構えた杖に、今度は水の玉を作る。
人を2人殺したが、相変わらず真菜の心には何の痛痒ももたらさない。
それでいい。いちいち手を止めなくて済むのはありがたいことだった。
「穿て、水槍!」
水球から伸びた水の槍が、更に3人を串刺しにした。
さすがに5人を立て続けに斃されては戦線維持は不可能だったらしい。
穴が空いたところに騎士たちが波状攻撃を仕掛け、一気に形勢は逆転。
気付けば盗賊(?)は全滅していた。
「さすがに気付くよね」
騎士たちの視線が真菜の方に向いているのが分かった。
むしろ気付いてもらわなきゃ困る。
特に姿を隠して狙撃、といったことをしたわけではないのだから。
ひょいと岩から飛び降り、歩いて騎士たちの方へ向かう。
あえて身体強化などを施さず、素のままの身体能力で。
相手に敵対しているという意志を見せないためのものだ。
どうやら真菜の意図は汲み取ってくれているようで、多少の警戒はあるものの武器を構えたりはしていない。
多少距離があるので、お互い顔が見えるようになるまでは数分を要した。
「援護助かった」
先頭に立っていた女性騎士が明るく友好的に話しかけてきた。
その装いは明らかに他の騎士とは違う。
ずいぶんと流麗な装備品だ。
地球のモデルや芸能人、アイドルといった美人たちをも上回っているだろう、驚くほどの美貌とプロポーション。
身に着ける者を選ぶだろう品格と豪華さ、そして実用性がありそうな装備。
それらを身に着けて着られるどころか着こなしている。
まあ外見はともかく。
その堂々とした立ち居振る舞いと「おのれが上に立つ者」というオーラが隠し切れないほどの存在感。
彼女が騎士たちの中で一番偉いのは間違いない。
「それなら良かった」
特に意識することなく、真菜は素直にそれを受け取った。
本心からの言葉だ。
騎士たちは怪我をしている者はいて数名が治療に当たってはいるが、幸運にも死者はいない様子。
助けると決めたからには死者がいない方がいいに決まっている。
まだ戦線は維持されていたものの、押されていたので間に合ってよかった。
のだが。
「その口の利き方はなんだ!」
偉い女性騎士の後ろから男性騎士が前に出てきた。
真菜の口調が気に入らなかったらしい。
体躯も立派で威圧感もある。
恐怖を感じてもおかしくないのだけれど。
今の真菜は何も感じなかった。
どころか、その物言いにむしろ気分を害したのは真菜の方である。
助けたことの礼を言うならまだしも、先にそれか、と。
礼を言わない代わりに黙っておくとか、そういうのは無いのだろうか。
「……助けなくてもよかったかな」
ぽつりとつぶやく。
そういう態度の人間と話をする必要性は、今の真菜は感じなかった。
街への手がかりをつかめるかと思っていたから接触してみたが、別に真菜だけでも街を探すことはできる。
なので、この騎士たちにこだわる理由は、今の真菜にはなかった。
「そっか、ごめんね。助かってよかったね」
それだけ言って踵を返す。
助かってよかった、という言葉にプライドを刺激されたのか、真菜に文句を言った騎士が嫌そうな顔をした。
それだけでも十分だった。
のだが。
「ジンネマン」
底冷えするような声が響いた。
その声を発したのは、偉い女性騎士だった。
「彼女と話をしていたのは私だ」
「はっ、いえ、しかし……」
「これ以上言わせるな」
「……大変、失礼いたしました」
黙れと、そう言わなければ分からないのか。
そのような言葉の裏を感じ取ったジンネマンは下がった。
「私の部下がすまない。少し待ってもらえないだろうか」
「うん」
真菜の口調はわざとだ。
あくまでも創作の知識だが、騎士が特権階級であるという知識を持っていた。
こちらの世界ではどうなのかは、ジンネマンの反応で分かった。
この騎士たち全員がジンネマンのようだったら最悪敵対していたかもしれない。
それでもいいと思えたのは、戦っているところを見て、少なくとも死には無いと理解できたからだ。。
そうなったら彼らを撒いてどこかに逃げればいい。戦って勝てるかは分からないが、逃げるだけなら問題ないと言い切れる自信があったから。
しかしこの女性騎士は、真菜の物言いを意に介していない。
「私の名前はラミリア。アルクレシア伯爵家の者だ」
伯爵家。
どうやら真菜は、この世界に来て大物を釣り上げることができたらしい。
それが当たりかどうかは、これから分かるだろう。
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