俺の周りはヤンヘラヒロインが多いのだが!?

森雨葵

第1話 はじまり

 自販機で買った温かいお茶を飲みながら、一人教室で読むラノベは格別だ。

 微かにグランドから聞こえる運動部の声、窓の外から差し光る夕焼け。

 自分がまるで、ラノベの中にいる主人公であるかのように感じる。


 今、俺が読んでいる『メンヘラ彼女は少しウザいですが、可愛いので許しちゃいます。』略して『メンゆる。』というラノベはドロッとした甘々ラブコメなのだが、ヒロインの羽代優樹菜はしろゆきなの挿絵が可愛すぎて、毎回死にそうになる。


 特にニヤけた時の挿絵がたまらない。

 頬の赤さ、光が宿っていない目、上がった口角の隙間から見える八重歯、全てのパーツが素晴らしい。この顔で罵倒され──


「あったけ〜、この教室」

「うわ、ほんとじゃん!」

「え、てか人いるやん」


 俺がヒロインに思いを馳せている時に、明らかな運動部の格好をした男子三人が教室へ乱入してきやがった。

 自分とは、また別の世界に生きる人物──陽キャだ。


「てか、お前。別れたらしいな!」

「別れたんじゃない。俺が振ったんだ。あの女──」


 どうやら、今さっき男子三人組のうち一人が付き合って一週間で彼女を振ったらしい。

 あ、決して盗み聞きしているわけじゃないぞ?

 勝手に聞こえてくるだけだ。ホントに。


 その振った男子曰く、自分に対する『愛』が重すぎて耐えられなくなり振ったとのこと。

 その時点で俺、カッチーン。

 それだけ愛されているってことだろうがよ! と言いたくなるのを抑えて、お茶を一口。


「いや、体は良かったんだけどな〜。なぜか、ガード固いんよ」

「お前、体目当てかよ!」

「さすが、変態と言われてるだけあるな」


 ダメだ。聞いていて胸糞悪い。

 もう、今日のところは帰るとしよう。

 バックにラノベを入れて机の中を確認した後、お茶を手に取ってそそくさと教室を出た。


 廊下から見えるグランドには、サッカー部と野球部が頑張っている。

 ちなみに、男子三人組あいつらはバスケ部。今日だけ監督の用事とかで、早くに練習が終わったそうだ。


 俺も運動部に入っていたら、陽キャになれただろうか?

 いや、自分は入っていたところで何も変わらないだろうな。

 中学の時にも、し……


 手に持っていたお茶を全て飲み干して、下駄箱の近くにある自販機のゴミ箱に投げ入れた。


 ガコンッ……コロコロ……


 投げ入れ失敗。どうやら、俺はバスケ部には向いていないようだ。

 外したペットボトルを取ろうと、外に出ると頬を突き刺すような寒い風が吹いた。

 十月下旬。最近、一気に気温が下がった。その影響なのか、クラスで休んでいる人が多い。


 コロコロと転がるペットボトルを追いかけるも、風が強くて止まる気配がない。

 ため息をつきながら、転がるペットボトルを追っかけていると校舎の柱が壁となって止まってくれた。


「もう二度と投げ入れないでおこう……」


 かかんで取ろうとした時、どこからかすすり泣くような声が聞こえた。


「グズ……ふぅ。グズ……」


 恐る恐る柱からゆっくりと顔を出してみると、花壇の近くにある木の影で一人女の子がかかんで泣いていた。

 おそらく、さっき話していた振られた子だろう。


 ラノベ主人公なら、女の子の元に駆けつけて話を訊いたりするだろうが、俺はそんなキャラじゃない。

 それに、今は一人で整理する時間が必要だと思う。


「……グズッ。ふぅ……グズ……」


 俺は啜り泣く彼女を見て見ぬ振りして、ペットボトルを拾ってゴミ箱に入れた。

 だけど、彼女の啜り泣く声が俺の耳から離れない。

 赤の他人に気を遣う柄でもないのに、彼女のことが気になって仕方がない。


 俺は自販機で温かいお茶を一本買って、バックからは紺色のマフラーを取り出した。

 寒がりな自分のためにマフラーも持ってきていたのだが、朝は寝坊して着ける暇もなくバックに突っ込んだままだった。


 俺は彼女の方へ歩み寄ると迫り来る影に気付いたのか、彼女はそっと顔を上げた。

 目が充血していて、袖は涙で濡れている。

 化粧も少し崩れているような気がする。


「さ、寒いだろ。これ」


 顔の目の前にお茶を差し出すと、彼女は少しだけ頭を下げて受け取った。

 よっぽど寒かったのか、手にひらでペットボトルを擦り始める。


「あと、これも。風邪ひく……ぞ?」


 さすがにマフラーを巻くような度胸はないしイケメンでもないため、首にかけた。

 やりすぎだと思うかもしれないが、今だけでも彼女は少し楽になるようなことがあってもいいんじゃないかと思う。


 お人好しでもない俺がやっていることは偽善に過ぎない。

 赤の他人の恋愛なんてもは、どうだっていい。

 興味なんてあるわけがない。


 だけど、見て見ぬ振りは違うと思った。

 よく言うよな。

 って。


 もちろん、これは恋愛の中でも言えることだと思う。

 振られる側にも非があるんだってね。

 まぁ、恋愛経験なしの童貞の俺が言っても説得力はないんだけどな。


「あ、あの……!」


 帰り際の俺に何か言っているような気がしたが、声が小さくて何を言っているのかよくわからなかった。

 寒いし、早く家に帰って風呂で温まりたい。

 俺は下駄箱で外靴に履き替えた後、小走りで帰路についた。






〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

【あとがき】

最後までお読みいただきありがとうございます!!

みなさん、応援していただけますと幸いです……

よろしくお願いします!!((*_ _))ペコリ

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