転移ニートの異世界究極メシ~チートが付与されたのは、俺ではなく隣のぬいぐるみでした~

一ノ瀬和葉

第1話 プロローグ

 これを読んでいる皆さんも、この質問を一度は聞いたことがあるだろう。


「無人島に一つだけ持っていけるとしたら?」


 この質問は、本人の性格などが色濃く現れる、案外奥が深い質問なのである。


 たとえば、サバイバル志向の人は「ナイフ」や「ライター」と答えるだろう。

 理屈で考えるタイプだ。限られた状況の中でどう生き延びるか、手段と結果を冷静に見据えている。


 一方で、「スマホ」と答える人もいる。

 通信ができない場所なのに?と思うかもしれないが、彼らは現代の象徴を手放せないのだ。

 安心感や繋がりの象徴として、無人島でもそれを握っていたい。


 中には「推しの写真」などを選ぶ人もいる。

 生きるためではなく、“心を保つため”。

 極限の孤独の中で、自分が自分でいられるものを選ぶのだ。


 この質問の答えは未だ出ないままだが、今後答えは出るのかが楽しみなところである。


 ◆


 島野勇気(しまの・ゆうき) 24歳。 ニート

 9年前 高校生活、初日。

 俺の人生は、たった一つのギャグから大きく脱線した。


「よーし、自己紹介始めるぞー!」と担任が言った瞬間、俺の決意が固まった。ここで笑いを取って、クラスの中心に立つ。そして毎日友達とウェイウェイして彼女を作って、中学では地味だった自分に、終止符を打つ時が来たのだ。


 そして――俺の番が来た。


「島野勇気です! 好きな食べ物は……」

 一呼吸おいて、満を持して放った。


「“島”だけに、シマアジです!」


 ……シーン。


 教室の空気が、一瞬で凍りついたのがわかった。

 窓の外でカラスが「カァ」と鳴いたのが、俺の胸にやけに響いた。


 俺は、咄嗟に付け足した。

「……あ、あとアジフライも好きです!」


 ――さらに沈黙。


 担任が「はい、次~」と淡々と言い放ったとき、

 勇気の中で何かが、パキンと音を立てて折れた。


(……終わった)


 放課後。クラスLINE(俺抜き)ができていた。

『〇〇組みんなで仲良くしよー!』

 クラスは活気に溢れていた。


「ま、俺そういうの入んねータイプだし」と呟きながら、帰り道の自販機で缶コーヒーを買った。


 苦かった。泣くほど苦かった。


 次の日


 俺は、「体調悪いんで休みます」と言って布団に潜った。本当は体調なんて悪くない。むしろ、健康そのものだった。だからこそ、一番しんどかった。


 そのまま一日、二日、三日と時が過ぎても、俺のLINEの通知は鳴らない。スマホはただの鉄の塊と化していた。そして、クラスの話題も知らないまま、気づけば春が終わっていた。


 母親が心配そうに言う。

「勇気、学校行かなくて大丈夫?」

「大丈夫。俺は今、パソコンで魂の修行中だから」

 強がってそう言ったけど、実際はただ2チャン◯ルでレスバしていただけだった。


 ――こうして、島野勇気は伝説になった。

「自己紹介でスベって消えた男」として。


 そんな中、いつも通り2チャン◯ルで熱いレスバ(修行)を繰り広げていると、ピンクの画面ギラギラとした画面に、変な質問が出てきた。


「異世界になにか一つ持って行くとしたら?」


 あれ?飛ばそうとしても画面にバツボタンがない。これって強制?なんかの詐欺?

 少し怖かったけど、早くレスバに戻りたいので適当に書くことにした。


 そして少し悩んでから、俺は横にあった小学生の頃からある「ぬいぐるみ」を選んだ。


 え?なんでぬいぐるみを選んだのかって?そりゃ決まってるだろ!こいつ、俺の相棒だからだ!見ろよ、この兎のぬいぐるみ、耳がちょっと曲がってるだろ?でもな、それがまた愛おしいんだよ!異世界に行くってんなら、剣や魔法道具よりもまずこいつだろ!だってこいつとならどんな危険も乗り越えられる気がするんだ!肌身離さず抱きしめてやるぜ!


 そして、ぬいぐるみを抱きながら、解答欄に「ぬいぐるみ」と入力しEnterキーを押した。


 ―――その瞬間、画面からまばゆい光が溢れ出した。


 うおっ!?なんだこれ!目がぁ、目がぁ!

 俺の視界はほぼピンク一色!ギラギラギラギラ……まぶしい!ピンクのギラギラが本気出してきた!?


 GYAAAAAAAAAAAAAA!!!!


 俺は咄嗟にぬいぐるみを抱きしめたまま叫ぶ。すると次の瞬間、机も椅子もキーボードも全部消えた。いや、消えたんじゃなくて、俺が消えたのか?いやいや、視界が変だ、空が青すぎて眩しい、地面がフカフカだ、ってなんで俺はこんなところにいるんだ!?さっきまでレスバしてたよな!?


 落ち着け俺、これは異世界なのか!?あの大好きなラノベで百億万回見たあの異世界に俺は転移したのか!?


 すると、俺の前に突然ふわりと人影が浮かび上がる。

 金髪、白ドレス、謎のエフェクト盛り盛り。


「……女神、だと!?」


 女神(多分)は微笑んで言った。

『異世界転移、おめでとうございます♡ あなたの回答に基づき、“ぬいぐるみ”をお持ちいただきます』


「ちょ、ちょっと待て!ぬいぐるみ!?マジで!?いや、あれ適当に書いたやつ――」


『安心してください。あなたの相棒、“兎のぬいぐるみ”には、特別にチートスキル【兎神化状態ラビットゴットモード】を付与しました♡』


「いや強そう!!名前だけでラスボス倒せそうな響き!!」


『あなたの冒険を祝して――異世界転移、開始♡』


「まっ、待てまだ心の準備が――ってかレスバの途中なんだって!!」


 ドンッ!!!


 次の瞬間、俺の体は光に包まれ、ぬいぐるみを抱きしめたまま空へぶっ飛ばされた。

「ぎゃあああ!!ああああああ!!離さねぇぞぉぉぉぉ!!!」


 眩しい光の向こうで、確かにぬいぐるみの目が一瞬――金色に光った。


『――起動確認。《マスター保護モード》開始』


「おい今しゃべったよな!?しゃべったよな!?お前喋れんのかよ兎ぉぉぉ!!」


 重力が反転するような浮遊感のあと、俺は見知らぬ草原にドッシャーンと着地した。

 見上げると、空がやけに青い。そして腕の中の兎が、堂々とこう言い放った。


『……こんにちは、マスター。』


 ――こうして俺とチート兎の、異世界生活(物騒)が始まった。




ここまで読んでいただき、ありがとうございました


是非ブックマーク、感想、評価ポイントなどなどよろしくお願いいたします。


次の話もお楽しみください

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る