【19話】サンタの社会-1
サンタの世界は、意外にも縦割り社会の傾向にある。私、黒臼ニコルの階級はまだまだ下のほうとはいえ、一応肩書が表記できる程度の役職には着いている。只埜さんが生きるこの時代に準えていえば、いわゆる主任という階級に近いのかもしれないが、ここで私のことを主任と表記すれば世界観がよくわからなくなってしまうのでやめておく。
そんな私にも、上司がいる。これまたこの時代に準えると係長にあたるような人なのだが、私たちの日々の業務報告は、部長や課長(のようなクラスの人)ではなく、直属のこの上司のこの人にする、というのが私たちの組織のルールとなっている。
実は昨日、今回のトラブルについて報告したところ、落ち着いたタイミングで通信を繋ぐよう指示があったので、只埜さんが出掛け私とキャノしか残っていないこのタイミングは連絡にうってつけの機会なのだ。
だけど、気が重いな…。正直言うと、私は仮長 ― 仮の上司みたいな立ち位置なので、ユーモアを交えてそう呼んでいる。係長と響きが似ているのはたまだまだ。 ― のことはそんなに得意じゃないのだ。いつも、うるさいし。
とはいえ、連絡しないわけにもいかない。時間が止められない以上、いつでも連絡できるというわけでもない。気は進まないけど、今しといたほうがいいよなぁ。
「まあ、あいつうるさいけど悪いやつやないやん。うちも一緒におるし、がんばろ。」
キャノが励ましてくれたので、重い腰をあげんとばかり、通信の準備に取り掛かる。
ピロピロと数コールの後、その人は応対する。ホログラム上にスラっとした赤いスーツの男が浮かび上がる。深紅のジャケット、パンツ、ネクタイ、革靴。真っ赤なフォーマルスタイルに、シャツとベルトの白が差し色になり映えている。紅白を極めんとばかり、赤いレンズに白の太縁のサングラスまでしている。サンタカラーで全身をバッチリ決め込み、忘れてはならぬとサンタ帽子もしっかり着用しているのだが、その本来正しいであろう一部のみが浮いて見える程度には、紅白といえどもサンタらしからぬ恰好といえる。一応補足しておくけど、サンタの男性がみんなこんな恰好というわけではないよ。これは、この人の趣味。
「ハーイ!マイハニー!連絡待ってたよ!フフフフフ!!!」
…うるさっ。相変わらず声も大きいし、距離が近い。数百年離れているはずなのに。
「おや?不機嫌そうだね?彼氏の僕の声、聞きたくなかったかい?」
「仮長の彼女になんてなった覚えないですけど。」
そう、サンタの誇りにかけて言うが、こんなのは私のタイプではない。
「え?通信悪いのかな?よく聞こえない。なんて?愛してるって?」
「ふざけるな!あんたの彼女になんてなった覚えない!…って言ったんです。」
ダメだ、この人にはいつもペースを狂わされる。ついつい口が悪くなってしまう。私は、縁をプレゼントするサンタクロース。人当たりは良くしないと、紡げる縁も紡げない。
「う~ん、聞こえない。豚蹴るな?パンダの彼女になんてなった覚えはない、って?」
絶対聞こえてる。ていうか、その豚とパンダのぬいぐるみはどこから持ってきたんですか?…ちょっと!豚さんのぬいぐるみでリフティングしないで!いろんな団体から苦情きちゃう!
「キリちゃん?ちょっとトバしすぎちゃうか?」
「その声は…キャノか。あれ?姿出してんの?」
「それほど切羽詰まった状況やってことや。はよなんとかしてくれんと困るんやけど。それと、ニコちんめちゃくちゃヒいて固まってもうてるで。」
「しばらく会えないと寂しくてねー。それに、こうやって毎回アピールしてたらいつか振り向いてくれるかもしれないし?単純接触効果ってやつ?」
全然無視無視、私無理。
「そんないにしえの動揺みたいに言わないで、一回くらいデートしてよ?ね?」
…お前の頭はどこにある?
「どんなメンタルなんですか。それより、報告なんですけど。」
ことの顛末を委細報告する。事前に簡単には状況を伝えていたものの、異例の事態にどう説明したら良いか言葉が詰まる部分もあった。私、まだまだ経験不足だな。
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