【14話】えっほえっほ-1
男女と猫の組み合わせで、夜道をよたよた歩く。かれこれ1時間は歩いている。他に移動手段がないから仕方ない。夏本番はまだ少し先とはいえ、日が暮れた夜でも決して涼しいとは言えない温度が、発汗を促進し喉をこれでもかと乾かせる。暑い。ついさっきまで真冬にいたんだから殊更に。せめて半袖が欲しかった。
長い上り坂に差し掛かる。目的地はこの坂の上、高台にそびえている。これを上り切れば、灯の暮らすマンションが見えてくるはずだ。あと少し、あと少し、と息も絶え絶え重い足を引きずり出す。時間が止められたら快適な温度の中歩けるのに、とキャノは愚痴を零す。いや、お前歩いてるふりしてちょっと浮遊して飛んでるのバレてるからな。そんな歩き方する猫は、他に超次元ポケット4の所有者くらいしかいないからな。
坂道の途中、小休止を兼ねて立ち止まる。ふうと息をつき夜空を見上げる。無数の星たちが燦ざめいている。そういえば、今日は七夕らしい。織姫と彦星は無事に逢えたかしら。なんて感慨に浸るキャラでもないし、ぶっちゃけどの星が織姫と彦星なのかも見分けがつかない。織姫がベガで、彦星がアルタイルらしいけど。あれがデネブ、アルタイル、ベガ。君が指差す夏の大三角関係。デネブよ、お前は一体誰なんだ。
「天の川を渡すカササギらしいですよ。」
ひいひい息を切らしながら追いついてきたニコルが、額の汗を拭いながら答える。ふーん、そうなんか。三角関係じゃないんだ、残念。
「私は好きですけどね。織姫と彦星を出会わせる為に、天の川に橋を架けるんです。なんだか縁を紡ぐサンタみたいで勝手に親近感を感じちゃって。」
親近感を感じるのは構わんが、汗がだくだくで天の川もびっくりだぞ。そのサンタ服と帽子、モコモコしてて暑そうだし、脱いだらいいのに。
「この時代はハラスメントに厳しいと聞きました。今のセリフもセクハラですね!そもそも、この服はサンタのスタンダードマイポリシーです!そうやすやすと脱いでたまりますか!」
膝に手をつき肩で息をしている割に、まだまだ元気はあるらしい。
で、スタンダードマイポリシーって何なんよ。どれだけ暑くてもスーツ着てネクタイしてる営業マンみたいなもんか?
減点です!とまだ荒い息のまま抗議を続けるニコルは置いといて、星空に目を戻す。なんだか今日は星みたいなものばっか見ている気がする。小さな点のように輝く星たちは、きっと一生かかっても辿り着くことのできない遠く彼方にあって。この目に映るその輝きも、数えきれないほど太古の光がやっと届いているのであって。ニコルが言っていたように、宇宙の壮大さを感じる。自分のちっぽけさを感じる。こうやって時を跳んで戻ってきたけど、俺なんかにできることがあるんだろうか。
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