【11話】時を超えて-3

 表現は適切やないけど、と前置きしたうえで。まだ時間かかりそうやから、とキャノが時間遡行について説明してくれることとなった。時間遡行とは、所謂「タイムトラベル」だが、世の中には類似のものとして「タイムトリップ」「タイムリープ」「タイムスリップ」などが存在する。

「語くんは、時間の流れってどんなもんを想像してる?」

「どんなもの、と言われると難しいな。よくSFの作品なんかじゃ川の流れに例えられることが多いと思うけど。でも、そうだな。あえて言うなら、流れ星かな。過去から未来に向かって一直線で飛んでいく、流れ星みたいなイメージ。」

 一応言っておくが、外の景色が流れ星だらけだったから思いついたわけではないよ?

「なるほどな。ま、悪くないイメージちゃうか。正解は…!って言いたいところやけど、自分の時代ではまだ時間跳躍の基礎理論ができてへんはずやから、さわりだけ。語くんは等速直線運動って知っとるか?」

 物体が一直線上を一定の速度で動き続けるっていうアレか。摩擦など抵抗がないと仮定した状況では、同じ速度で延々と動き続ける運動エネルギーとかなんとか。確か、小学生か中学生くらいのときに習った。

「そう、それ。時間の流れっていうんは、そのイメージやねん。時間って、みんな平等の速度で流れてるやろ。ほんで、時間跳躍はその直線上から何らかの理由で逸れて、今まで進んできた直線の上流側へ戻ってしまうことを言うねん。あ、ここで言う上流側は過去側、下流側が未来側な。」

 うん?なんか難しい話になってきた?

「ほな、ここで問題な。さっき何らかの理由で進行直線上から逸れる言うたやろ。これを、〝逸脱〟と呼ぶねんけど。さて、時間を跳躍して戻るときに、最低何回逸脱せなあかんでしょうか。語くんわかるか?」

 えっと、現時点から跳躍しないといけないんだから、一回か?ていうか、なにこれ。授業始まった?

「残念。答えは二回や。時間は直線やから、まず最初の逸脱で時間の流れに逆らって、二度目の逸脱で元の時間の流れと同じ流れ方向に戻さなあかん。…その顔はわからんって顔やな。」

 ええ、まったく。

「語くんもテニスしてたんやろ?ほな、テニスに例えるわ。」

 と、キャノはテニスに準えて解説を試みる。キャノの説明をまとめるとこうだ。

 俺が相手に向かってボールを打ったとする。当然ボールは相手に向かって飛んでいく。これを正しい時間の流れとする。相手はあるところでそれを打ち返してくる。打ち返されたボールは飛んでいくベクトルが変わる。これが最初の〝逸脱〟。

 〝逸脱〟したボールは、これまでの流れに逆らって俺のほうへ戻ってくるが、これを打ち返さなかったら、ボールはそのまま俺を通り過ぎて飛んでいってしまう。しかし、正規の時間の流れは、俺から相手に向かって飛んでいくボールの流れであるから、正規の流れに戻すためには、俺はスルーせずボールを打ち返す必要がある。これが二度目の〝逸脱〟、とのことだ。

 うーん、わかったような。わからないような。

「ところがやで。うちらの時間跳躍は、逸脱を三回にしとるねん。三角に跳んでるイメージやな。テニスやと、相手が打ち返したボールが審判に当たって戻ってくるみたいな感じや。でも、別に寄り道してるわけやないで?逸脱が二回、すなわち時間の流れに真っ向から逆らって跳ぶんは、かなりの負荷がかかるねん。」

「よくわかんないけどさ、逸脱を三回にするってことは遠回りするってことだろ。それは問題にはならないの?」

「確かにさっき、時間は等速直線運動みたいやって言うた。でもそれは、人含め生きとし生けるすべての者に普通に流れとる時間の速度が平等、と言う意味の等速や。うちらは時間止めたり跳んだりしてるんやから、当然本来の時間の速度よりも速く移動できる。速く移動できる分、時間の流れに真っ向から逆らうと抵抗エネルギーが大きくかかるんや。やから、三角飛びみたいに跳ぶことで負荷抵抗をマシにしとる。そんで、お待ちかねの時間跳躍の呼称の違いについてやねんけど…ってこの話もしかしてつまらん?」

 校長先生の話よりはまだマシかな。

 もうちょっとやから、そう言わんと聞いてー。と、キャノは続ける。よほど話したいらしい。もうちょい簡潔に頼むよ。

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