【7話】タイムトラブル
漸く明かされた、サンタクロース訪問の理由。ニコルの話をまとめるとこうだ。彼女は今回任務の為に律葵の元を訪れた。その任務とは、律葵の途切れてしまった縁を再び紡ぐこと。つまりは、律葵と元彼女・ゆずはを復縁させること。それが、『縁』を紡ぐサンタクロースである彼女の役目なのだそうだ。
少し前まで失恋のショックで塊となっていた律葵にとって、ゆずはとの復縁は藁にもすがりつくほど叶えたいことだろう。しかし、意外にも律葵はこの申し出を断った。
「理由を聞いてもいいですか?やっぱり私たちが信じられませんか?」
ニコルの問いに、律葵は首を横に振る。
「さっきの話が本当だとしたら、あなたたちはタイムパラドックスが起きないよう縁を繋ぎとめているように聞こえました。そのうえで俺の所の来てくれたのだとすると、きっと俺とゆずはの縁はまた繋がるようになっている。だったら。いや、だからこそ。俺は自分自身の力でゆずはとやり直す未来を掴みたいんです。」
普段はバカなのに、変なところでしっかりしてる。お前はすごいよ、親友。
「なるほど、律葵くんの思いはようわかった。でもな、ひとつ勘違いしとることがある。」
まるで探偵が自身の推理を披露するシーンみたく、キャノは目を瞑り左右にゆっくり歩きながら…。いや、ふわふわ浮遊しながら、話し出した。
「まず、タイムパラドックスやけど、律葵くんが復縁しようがしまいが、タイムパラドックスには影響せえへん。縁を紡ぐんとタイムパラドックスは別の話や。」
え、そうなの。どういうこと?
「律葵くんの運命が変わる程度のことは、膨大な時間と歴史の流れの中では些末なことや。そこが多少変わったかて、時間と歴史の大筋のストーリーに変化は起きへんねん。」
例えば、東京から大阪に移動するにあたって、新幹線を使うか飛行機を使うか車を使うか。どれを使っても、結果的に東京から大阪に移動できる。時間と歴史の流れに於いても同じことが言えるそうだ。基本的に同じ結末に帰結するようにできており、それに影響を及ぼすほどの現象、つまりタイムパラドックスの発生は、そう簡単には起こるものではないらしい。だったら、何故彼女らは縁を紡ぐのか。
「バタフライエフェクトって知っとる?」
「ブラジルでのアゲハ蝶の羽ばたきが、テキサスでトルネードを起こすとかいうあれですか?」
「そうや。非常に小さな現象が、結果としてめちゃくちゃ大きな現象に作用してたっていうあれやな。うちらが縁を紡ぐ理由は、それや。」
基本的に誰かの恋路や人生程度ではタイムパラドックスを引き起こさないとしても、可能性はゼロではない。タイムパラドックスが起きてしまうと、すべての時間の流れがとんでもないことになってしまう。鶏が先か、卵が先か。
「やから、ドライな言い方になってまうけど、律葵くんの復縁は別に確定した未来でもないし、もっと言うと、うちらが任務として加担しても必ず復縁できるというわけでもない。うちらからしたら、本来あるべき理想の時間軸が、律葵くんが復縁した時間軸ってだけ。せやから縁を紡ごうとするだけであって、もし失敗してもそれは別にええねん。それがバタフライエフェクトとなってタイムパラドックスを起こす可能性はほぼあれへんから。」
念には念を、ということか。ん?でもちょっと待てよ?
「確かに俺たちみたいな一般人の人生がどうなろうが影響ないのはわかる。でも、偉人とか歴史を動かしたような人たちはどうなんだ?」
仮にエジソンが存在してなかったら。電球は発明されず、太陽が沈んだ夜でも明るく過ごせる時代は来なかったかもしれない。
「エジソンは白熱灯発明せんかったん?したから、自分が知ってるんやろ。そういうことや。」
なるほど、俺が認識している時点でその仮説自体が成り立たないってことか。そういう歴史になってしまっている。
「もし、エジソンが発明を成し遂げる前に亡くなっていたとしたら、別の誰かが同じ発明を成し遂げ、私たちはその方の名前を記憶していることになります。」
代わりの誰かが現れる。難儀な話だ。ともすれば、俺たちの生きている意味ってなんだろうな。
「生きている意味を探すのが、人生の醍醐味ですよ。どのように生きても、時間は皆平等に流れます。そして、タイムリミットもいつか必ず訪れます。タイムリミットのそのときまで、前向きな一日を過ごすのか、それとも何かに囚われ生きるのか。人生の過ごし方、意味の見出し方は人それぞれです。人生は有限。私はどうせなら後悔せず生きたいですね。」
俺よりも若く見えるのに、ニコルは人生について達観しているように見えた。時間を跳びまわり、いろんな人の縁に触れ、何かを感じてきたのだろうか。
ともあれ、律葵の復縁が確定した未来でないことは理解した。そう肩を落とすでない、律葵くんよ。ほんと、昨日から情緒の起伏が激しすぎるけど、再起不能にならないだろうか。俺は心配だよ。
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