シャングリラ沖縄「オルタナティブパーク」エリア
――転移の間を抜ければ、そこは異世界「シャングリラ」
女神から授かったジョブを手に、あなたは「
魔物討伐や護衛依頼、遺跡探索に素材収集など――ひとりでもご家族でも挑戦ができる冒険や試練の数々。
遊ぶたびに新しいジョブを選択することで、訪れるたびに違った冒険を体験できます。
リアルとファンタジーが融合した異世界で、あなただけの
シャングリラ沖縄――「オルタナティブパーク」エリア
(※パンフレットより引用)
◇◆◇◆◇◆◇
エントランスゲートの上で丸まっていた「ドラゴン」が首を起こす。
開園の時間だ。
ドラゴンは口を開け、勢いよく炎を吐いた
「おぉぉぉぉ!!!!」
歓声と拍手がおさまると、止まっていた行列が少しずつ動き出す。
それを見届け、飛び去っていくドラゴン。
「ほぁ~! やば~! ティザー動画のまんまじゃん!? すごくね!?」
口を開きっぱなしにする俺をみて、ユウリも驚きを浮かべた。
「やば……思ってたよりめちゃめちゃ『本物』ぽい……」
「てか本物ってあんな感じなんだ?」
「もちろん細部はちがうけど……最新技術まじやば……」
最新のホログラム技術“ホロマッピング”によって生み出されたホログラムの
後ろにいたマルケスが呼びかけてくる。
「ユウリさん、魔物は『ホロモン』だけじゃないっすよ!?」
「へぇ!」
「大型の魔物には『ライブメカニマル』ってゆー可変鉄筋技術が使われてて、もっとデカくてスゴくて……しかもホロじゃな“実物”があるんすよ!」
「ほぅ……そっちのがすごそうね……」
テクニカルな話題で盛り上がるふたり。
退屈になったヤオが指をくるくる回しながら聞いてくる。
「てかタキちゃんは『ジョブ』どーすんの? わいは前衛を選ぶと思うけど?、」
「えー……わたしもフツーに『剣士』とか?」
「えぇ〜、後衛にしようよぉ~! わいが守ったげるからぁ~!」
「いや別に守られなくてもいいよ……むしろ逆にしたいくらいだし……」
「……ふぁ////」
みんなここへ来るのを楽しみにしていたようで、しっかり予習を行っていた(ユウリ以外)
俺はスマホを開き、復習もかねてもう一度公式サイトを見返す。
「パークコンセプトは『沖縄に異世界を!』だってさ。マルケスは知ってたか?」
「もちろんだろ? てか『ライブメカニマル』ってうちのダッドの会社が作ってんだからな?」
「え、そなの? てかお前んちの会社、ホントどこにでもいるな……」
負けじと続けるヤオ。
「それでゆーと、ストーリー生成AIとホロマッピングはパパの会社の技術だよ?」
「まじか……。つまりココ
「今さらすぎるでしょそれぇ~」
「もしかして……『シャングリラ沖縄』自体も……」
その言葉を聞き、ふたりは大きなため息をつく。
「タキちゃん……自分の親の仕事知らない?……」
「は? うちの親? 投資会社勤めのフツーのリーマンだが?」
「……(呆れ顔)」
ヤオとマルケスは「超ボンボン」の家の
平均よりはやや裕福なのかもしれないが、それでもフツー。
(そのうちタイムパトロールに捕まりそうだけど……)
いつの間にかエントランスゲートをくぐり抜けていた俺たちは、「転移の間」へと誘導されていった。
◇◆◇◆◇◆◇
羽を広げた「女神」がファー!と降臨し「
――「ようこそ、異世界シャングリラへ……」
彼女はテンポよく世界観を説明したあと、杖を掲げた。
「それでは、『信託の儀』執り行ないます…」
(シャラララ~ン♪)
光の粒が舞う。
やがてそれは集まりはじめ、10枚の「ジョブカード」となってビジターの前に並んだ。
よくある「ガチャ方式」により、ジョブは10種ほど現れる。
はずなのだが――
ユウリの前に現れたカードは、たった一枚。
「う……んんんん……これは?……」
「なに? ハズレ?」
俺は横からカードをのぞき込む。
――【ユウリ】――
陣営:魔族
ジョブ:魔王
レベル:1784
HP:47600
MP:51000
――――――――――
見たことのないジョブ――「魔王」
パークのシステム上、新たなジョブやスキルが生まれることもあるらしいが「魔王」というジョブは、攻略サイトやSNSでも見たことがない。
「ロールプレイになんないなw」
そう茶化す俺をにらみつけながら、ユウリはカードをタップする。
「ちょっとテンション下がった……」
ジョブは光の粒となって「ステータスバンド」に吸い込まれていった。
「あんたは?」
そして、俺の前にも――
カードは一枚しか現れなかった。
――【タキ】――
陣営:人族
ジョブ:シャングリラ皇国 第一皇女
レベル:1
HP:2
MP:1
――――――――――
カードをのぞき見たユウリが茶化す。
「いいね、ぴったりじゃん? タキ姫さま?」
「ぐぬ……」
(てかザコすぎる……)
(村娘にすらボコられるだろこれ……)
(もしおっさんが引いてたらどうすんだよ……)
(てかさっきからなんだこれ?)
(システムがバグってのんか?……)
「姫さま? 今日のお出かけコーデの仕上がりはいかがですか?」
突然ですがここで――わたくしのコーデを紹介しますわよ?
・シンプルなカップ付きキャミソールに、シアー素材のバルーン袖の長袖シャツをさらっとオン。
・野外で遊ぶなら生足はNG! でもダサいのはもっとNG! ですからワイドデニムにミニプリーツをレイヤードして、機能性とかわいさを両立しますわよ!
・アクセはハデすぎないワンポイントでOK! アウトドアメイクでも目元と唇だけは気を抜かないで〜!
愛されお団子ヘアでまとめたら完成~~~~!
カジュアルすぎ?
だって今日は皇宮の外に出かける日。
わたくしが第一皇女だと知られたら、大混乱必至ですもの~!
では行ってきます!!!!
つまり――めっちゃカジュアル。
(ミスったなぁ……)
(もっと姫っぽい格好でもよかったかも)
(でもロリータっぽい服とか持ってないもんなぁ……)
(今度買いに……)
(ってちがうちがう!)
(そういうのは不可抗力でしか買わないって決めただろ、俺ッ!?)
ちょっとした差で女の気分はアガったりサガったり。だが今日のコーデはもう変えようがない。
気分を切り替え、ヤオとマルケスに目をむける。
俺は再びシステムの「バグ」を目にする。
――【ヤオ】――
陣営:魔族
ジョブ::魔将四柱(氷爆)
レベル:435
(以下省略)
――【マルケス】――
陣営:魔族
ジョブ::魔将四柱(豪炎)
レベル:460
(以下省略)
――――――――――
本来なら一人10枚ほど現れるカードが、俺たち四人には1枚ずつしか現れなかった。
職業選択の不自由。
異常を感じたマルケスが口早に話す。
「……どーなってんだこれ? バグか? 女神に聞く? それともリセマラしてみる?」
だがユウリはすでにジョブをインストールしてしまっていた。
その場合「異世界」内で死亡しなければジョブを選択し直せない。
「――てことだから、一回死ななきゃいけないんじゃなかったっけ?」
俺がそう付け加えると露骨に面倒そうな顔をしたユウリ。
気を使ったのか、ヤオはさっさと自分のジョブをバンドに取り込んだ。
「――ほい、登録っと」
「え、いいのか!?」と俺。
「面倒だし、とりま一回これでやっちゃおうよ?」
「まぁそれなら……」
マルケスが「よし!」と言い、カードをタップした。
「“リスポ近くで全滅作戦”でいくぞ?」
つまり――「転移の間」近くで全滅して再転移しよう、ということだ。
俺は自分のジョブをインストールして顔を上げた。
「はじめての異世界が姫プとは……」
その場にいた全ビジターがジョブを登録し終えたのを見計らい、女神は「自動レベルアップ
そして「最後に――」と深刻そうな顔をする。
転移の間が暗くなり沈黙が漂ってくる。
女神がうつむきがちにつぶやく。
「……皆様に残念なお知らせがございます……」
――ざわ……ざわ……
動揺が広がる。
「天界側のリアルな手違いで、魔王とその腹心二人が復活してしまったようです………」
一瞬の困惑のあと、転移の間が爆ぜる。
――「おぉぉぉぉ!!!!」
公式サイトや攻略まとめ、SNSインフルエンサーですら遭遇しなかったような未知の「敵」の登場。
ビジターたちは沸き立つ。
女神はさらに告げる。
「さいわいなことに魔王はまだ全盛期の力を取り戻しておらず、かろうじて封印可能と思われます……」
大げさに腕と翼を広げ、目をとじる女神。
「彼らは善良な人間や魔族に化け、身近な場所に潜んでいるかもしれません。どうか……油断せず……お気をつけて……無事に……」
そして――光の粒となって消えた。
奥にそびえる石造りの大門がゆっくりと開いていく。
コ、ゴ、ゴ、コ゚……コ゚コ゚コ゚コ゚……
冒険心をくすぐるBGMが鳴りはじめる。
――タッタータッタータタタター♪ タッタタッタタタタター♪
まず立ち上がったのは
鎧やローブをまとった猛者たちが、ぞろぞろと門を抜けていく。
後に続くのは、ひと目でそれを分かる初心者たち。
「じゃ、行くか……」
俺たちは転移の間をそそくさと後にした。
◇◆◇◆◇◆◇
「転移門」を抜けると、すぐに村人が声をかけてくる。
――「ようこそ『はじまりの村』へ! なにかお困りですか?」
「あ、いや、すぐリセマラするんで……」
「リセマラ?」
「あ、えーっと、ジョブがバグったみたい……」
「リセマラもいいですが、人生において運命もまた貴重なもの。まずはこの世界のことを少しだけ知ってみせんか?」
「え、その……」
ホスクラのキャッチのような村人の口車にのせられ、俺たちはまんまと“チュートリアル”を受けさせられた。
それが終わり掲示板の前を通りかかると、ちょうど表示が書き換わるタイミングに遭遇する。
「うわっ! 緊急依頼だって!?」
セリフっぽく声を張り上げる旅人風の男性。
あきらかに「キャスト」と分かる棒読み。
しかし、それが逆に人々の興味をひいたようで、道行く人々は足を止めた。
「魔王が復活して、姫様が逃げ出したらしいぞ! こりゃ、いち大事だぁ!」
彼はわざとらしく掲示板を指さす。
/*――――――――*/
★
(※パーティー/クラン限定)
・「復活した魔王と魔将を封印せよ!」
・任務報酬:~5000万
/*――――――――*/
★
(※ソロ限定)
・「逃げ出した第一皇女を探せ!」
・発見報酬:~1000万
/*――――――――*/
白い全身鎧をまとった集団が「団長を呼べ! すぐに
徐々に人が集まってくる。
「なんかやばくね?」
転移と同時に「お尋ね者」となった俺たちはすぐにその場から立ち去り、村はずれにあるベンチに腰をおろした。
魔王ユウリが不満を口にする。
「てかさぁ。魔王封印して5000万円で、お姫様見つけて1000万円って……バランス悪くね?」
“氷爆のヤオ”はうんうんと首を縦にふる。
「ですよねぇ~! ……でも、世界平和のために戦うより、ワケアリ少女探すほうがコスパいいって……なんかやたら現実的で草」
自分の「ストーリーボード」をずっと読み込んでいた“豪炎のマルケス”が口を開いた。
「とりあえず……『俺ら』は『すぐ死ぬ』ってのがちょっと難しい感じになっちゃってんな……」
「そうですの?」俺の姫ムーブ。
マルケスはその理由を世間知らずのお姫さまにもわかるように、噛みくだいて教えてくれた。
――――――――――
・絶対強者の魔王、魔将四柱“氷爆”、魔将四柱“豪炎”の三人は、スライム程度では1ダメージも通らず、「はじまりの村」付近で自死するのは不可能。
・現在パーク内にいる住人・
・「魔王一行」の最終目的地は、魔族領山頂にある『洞窟神殿』
――――――――――
そしてこう締めくくる。
「つまり――“リスポ近くで全滅作戦”ができないってことだよ?」
「んんー……ほなら騎士団様に首差し出せす?」
「それが簡単にできたら苦労しないって……」
「なんでだよ?」
ユウリが手を挙げて場を制する。
「――わかったわかった、もういいよ」
「えなにがわかったんだよ!?」
「つまり……あたしたちを倒すために組まれた“
「さすがユウリさん! そのとおりっす!」マルケスが大きくうなずく。
つまり、三人の取れる道はふたつ――
一度パークから退園してしまうか、今のジョブで「戦い続ける」か。
ガチめにぼやくユウリ。
「なんかダルくなってきた……ゆーてここに来た理由って『魔物』がどんな感じが見たかっただけだしなぁ……」
「ユウリさんが退園するなら、俺もそうしようかな――」
マルケスが言い終える前に、俺はわきから口を挟んだ。
「じゃあ――“わたくし”を逃がしてくださらない?」
完璧な姫ムーブに、目を見開いて固まる魔族三人。
「「「え?」」」
「はは……いや、その……説明するより、ちょっとこれ見てよ?」
俺は手首に触れ、その場に自分のストーリーボードを空中に表示させる。
【シャングリラ皇国 第一皇女】
――――――――――
あなたは様々な人と知り合います。
やがて彼らは生涯の友となり、世界を救う仲間となるでしょう。
※冒険のヒント:
・『中級者の森』の向こうにある『魔族の村』へ行く
・高レベル
・魔族領山頂にある『洞窟神殿』の最奥にたどり着く
――――――――――
だが――魔族の三人にとっては、これ以上申し分ない冒険の理由が書かれてある。
「どうかしら?――わたくしを『洞窟神殿』まで連れていってくださらない?」
再びそう言って、俺はプリーツの端を指でつまみ、脚を曲げて頭をさげた。
(ああ~!ほんと服装ミスった!)
(せめてもうちょっと広がるスカートだったら最高だったのに……)
(でもまさにオープンワールド!)
(俺は――俺はロールプレイしているぞッッッッ!!!!)
よく分からないが、おそらくこれが「シャングリラを体験する」ってことだろう。
俺は誰よりも早く、ここの楽しみ方を理解した。
――「どうします? 『魔王様』?」
マルケスがユウリに尋ねる。
――「わいはいいアイデアだと思いますよ、『魔王さま』」
ヤオが付け加える。
ユウリはすぅっと息を吸い込み、手をパンと叩いて言った。
「人族の姫にしちゃ――悪くない案ね」
「契約成立ですわね?」
差し出した俺の手を、ユウリが取る。
この異世界「シャングリラ」では、人族・魔族間の相互理解が進んでおり、一緒に行動すること自体に違和感はない。
人族と魔族が冗談を言い合い、笑い合う、優しい世界。
だが、完全に分かり合っているかといえば、そうでもない。
「じゃあ……」
マルケスは立ち上がり、手首に触れながら唱えた。
――「鑑定無効化」
それを感知したセンサーが、すぐさまホロマッピングを起動する。
「ヴヴン」
周囲に一瞬だけ半円状のバリアのようなものが投影され、すぐに消えた。
「とりま装備受け取って、飲み物買って、さっさと行きましょう――魔王様」
そうだよマルケス!
それが異世界「シャングリラ」の楽しみ方なんだよ!!!!
「逃避行」がはじまる――
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