第17話 報道と反応
翌朝、研究棟の前には報道車が数台並んでいた。
夜の襲撃事件はあっという間にニュースとなり、
「榊原グループ研究施設で爆発」「原因は魔力暴走か」
という見出しが各社のトップを飾っていた。
映像には、夜空に立ち上る青白い光柱と、
焦げた外壁をバックに呆然と立つ警備員の姿。
SNSでは既に、「実験失敗」だの「魔道具テロ未遂」だの、
好き放題な噂が飛び交っていた。
七瀬が端末を見せる。
「あなたがやったこと、完全にバレてますよ。」
壮馬はコーヒーを口に含みながら、
「あれだけ派手に光れば、そりゃそうでしょうね。」と淡々。
「……Eidosの存在まで推測してる人もいます。」
「いい傾向です。噂って、真実を隠す一番安い手段ですから。」
七瀬は苦笑しながら端末を閉じた。
「あなたって本当に、危機感ってものがないですよね。」
「退屈の方が怖いですから。」
昼、協会本部。
事件の報告会に呼ばれた壮馬と七瀬は、
重苦しい会議室で五人の理事たちに囲まれていた。
「榊原壮馬君、君の研究が今回の爆発に関与していると聞いたが?」
白髪の理事が鋭い目で問う。
壮馬は軽く頭を下げる。
「はい。Eidosの試験運用中に、襲撃を受けました。
反応として使用しましたが……結果的に建物の一部を壊しました。」
「つまり、武装転用可能な魔導具を個人で保有していたと?」
「理論上は、そうなりますね。」
会議室の空気がわずかに揺れた。
七瀬が慌てて口を挟む。
「正当防衛です。協会監査課としても、使用は適正と判断しています!」
理事のひとりが書類を閉じた。
「……ふむ。しかし、今後の監視は必要だ。
君の技術は、既に“兵器”の領域に近い。」
壮馬は一瞬だけ眉を上げ、
「監視されるのは慣れてますよ。生まれたときから。」
と軽く返した。
七瀬は机の下で彼の足を軽く蹴る。
(少しは言葉を選びなさいよ……)
その日の夜、
壮馬のスマートデバイスに着信が入った。
表示された名は——榊原一哲。
「……やらかしたな、壮馬。」
兄の声は淡々としていた。
「防衛ですよ。あのまま放っておけば、研究データごと盗まれてました。」
「言い訳の質は悪くないがな。お前の“防衛”は毎回爆発するんだよ。」
壮馬は笑いながら、コーヒーカップを揺らす。
「兄貴が収めてくれるなら、それで十分です。」
電話口の向こうで、ため息が聞こえた。
「まったく……。それでも、無事で何よりだ。」
通話が切れる直前、兄がふと静かに言った。
「お前の作るものは、時々……人の想像を超えてる。
だからこそ、気をつけろ。」
短く通話が切れた。
数分後、母からメッセージが届く。
《無事でよかった。でも、あまり無茶しないでね。》
壮馬はそれを見て、
《了解。たぶん大丈夫。》とだけ返した。
翌朝、研究棟。
破損部分の修復が進む中、壮馬は既に端末を開いていた。
画面には、新しい設計ファイル。
《Project S-03:戦術多層魔導杖 “Aegisline”》
七瀬が後ろから覗き込む。
「……また作るんですか?」
「退屈を防ぐには、守る仕組みが要りますから。」
「これ、防御用の杖? 自動防御なんて……兵器ですよ。」
「兵器は、使う人次第で護符にもなるんですよ。」
端末に入力される試作メモ。
《Aegisline:初期設計案》
・Eidos波形層を基幹に再構成
・逆位相干渉による自動防御展開
・外部魔力検知→最短0.3秒応答
・使用者の魔力波長に自動補正
七瀬は絶句した。
「本当に作る気なんですね……。」
「はい。退屈してますから。」
その頃、黒曜重工。
鷹津隼人は薄暗い会議室で報告書を受け取っていた。
「Eidosの奪取は失敗しましたが、実戦波形の一部を取得。
ただし再現率は3.2%。不明な再帰式を含みます。」
鷹津は資料をめくり、口角を上げる。
「……やはり榊原。天才は偶然を意図的に作る。
奪えないなら、次を盗め。」
夜。
研究棟のラボに、ひとり残った壮馬は、
モニターに映る白紙の設計欄を見つめていた。
《Core Concept:______》
指先が止まる。
静かな空気の中、Eidosの結晶が淡く光った。
壮馬は笑みを浮かべながら、
「防御の理屈なんて簡単だ。
——自分が興味を持てるかどうか、だけだ。」
その言葉と同時に、画面が自動保存の光を放つ。
「退屈の続きは、まだまだ楽しめそうだな。」
青白い光が彼の瞳を照らす。
新しい“退屈の破壊”が、静かに始まろうとしていた。
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