第9話 装備研究:第一歩

数日が経った。

協会からの封筒がポストに届いていた。

白い紙に印字された文字は、必要最低限。


《探索士(エクスプローラー)学科・実技試験 合格通知》


俺はそれを読み終えると、机の隅に無造作に置いた。

特に感情は湧かない。

むしろ気になったのは、合格よりも——装備だった。


(実技のとき、他の連中はやけに重装備だったな)


彼らの腰には魔導ポーチ、腕には補助具、靴底には魔力伝導線が走っていた。

知識としては知っていたが、実際に“現場の人間”が使うそれを目にすると、少しだけ興味が湧いた。


「……装備、か」


椅子を引いて、ノートPCを開く。

検索欄に打ち込んだ。


「エクスプローラー 装備 基本」


数秒で画面が埋まる。

一覧記事、比較サイト、レビュー動画。

どれも似たり寄ったりだ。

一番上のリンクをクリックすると、派手な見出しが目に飛び込んだ。


《初心者エクスプローラーにおすすめ!魔導具5選》


……胡散臭い。

そう思いながらも、記事を読み進める。


第1位:「魔力循環補助具(リカバリー・リング)」

戦闘時や長時間の探索で消耗する魔力を再循環し、効率を維持する補助装備。

市販モデルの平均稼働時間は2時間前後、価格は15万円。


「なるほど。“体内魔力の再利用”か。理屈は単純だな」


仕組みはこうだ。

魔力の流れを検知して、戻り流(リターンフロー)を体内魔回路へ再注入する。

人間で言えば、呼吸を一度増幅して体内で使い回すようなもの。

ただし、循環率が低い。構造上、魔力損失が多いのだろう。


「……効率悪いな」


市販モデルを購入し、構造を確かめることにした。

2日後、届いた箱を開封する。

内部には金属製の指輪。

分解すると、内側にコイル状の魔導線が走り、中央に小さな魔石がはめ込まれていた。


「これは……逆相配置か。そりゃあ回収効率も悪い」


ノートを開き、修正案を書き込む。


《魔力循環補助具(試作α)》

・回路:螺旋+層分離構造

・封刻:自己調整式

・素材:魔導銀・低位魔石・共鳴コア(再利用)

・目的:魔力の再循環効率を最大化


机に並んだ素材を手際よく組み合わせる。

魔導銀を熱して細い環状にし、低位魔石を三層構造で埋め込む。

最後に魔力を流し込み、結界輪で整流。


カチリ。


微かな音とともに、指輪が青白い光を放った。

その光は脈動して、まるで呼吸のように揺れていた。

指にはめてみると、魔力の流れが指先から手首、肩、そして胸元へと巡っていく。


「……悪くない。理論通りだ」


魔力を少しずつ循環させてみる。

まるで水路を掃除した直後のように、流れが滑らかになる。

モニター計測値を見ながら、淡々とメモを取った。


《出力回収効率:182%》

《安定率:97.4%》

《課題:長時間使用時に体温干渉あり/共鳴域の再調整必要》


もう一度、指輪を外して机に置く。

ランタンと結界輪、そしてこの指輪——三つの作品が並んだ。


「守る、補う……次は、攻めるか」


ふと笑みが漏れる。

“作る”ことは、“知る”ことと同義だ。

作っていくうちに、この社会の仕組みまで透けて見える気がする。


モニターの通知音が鳴った。

画面に新着メール。送り主は「高城 技術部」。


《あなたの結界魔導具について、共同試験の提案があります。

 もしご興味があれば返信を》


壮馬は画面を閉じ、椅子の背にもたれた。

指先でリングを回しながら、小さく呟く。


「……また、面白い暇つぶしが来たな」


夜風がカーテンを揺らした。

机の上で、魔導具たちが静かに光を放っている。

それはまるで、次の実験をせがむように呼吸していた。

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