第12話:覚醒光核(アウェイク・コア) ―新たなる力―
世界は、崩れかけていた。
黒い空――
ノクスの“眼”が怒り狂ったように揺れ、
空間そのものを軋ませている。
地面は波打つように震え、
アストラ学園の大樹すら闇に侵食されつつあった。
その中心で、リオの身体が静かに光を放っていた。
白く――
しかし熱ではなく、柔らかな脈動。
まるで心臓そのものが、光へと変わったようだった。
◆
「リオ、無茶だ……!
お前、今の光……制御できてるのか!?」
カイが声を張り上げる。
炎を纏いつつも、その表情には焦りが浮かんでいた。
リオは小さく首を振る。
「わからない。
でも……怖くはない」
それが異様だった。
この光は暴走でも、衝動でもない。
確かに“自分の意思”が中心にある。
胸の奥で、静かに響いていた。
――覚醒光核(アウェイク・コア)。
英雄の記憶が言った“新しい光”。
◆
ノクスの巨大な眼が、こちらを射抜く。
――なぜだ……
――なぜ貴様の核は完全ではないのに……
――その力……!
視界の端で、闇に呑まれかけているグレイが呻く。
「リオ……来るな……!
俺は……もう……」
腕の先から黒い液体が滴るように闇が溢れ、
空気すら腐らせている。
アイリスが結界を張り直し、涙混じりに叫ぶ。
「グレイが……闇に寄生されてるの!
もしこれ以上触れたら、魂まで……!」
リオは一歩、前に出た。
「僕が……助ける」
カイが立ち塞がるように叫ぶ。
「馬鹿! そんなことしたらお前も闇に飲まれる!」
リオは首を横に振った。
「大丈夫。
僕の光は……闇に“喰われない”。」
カイは息を呑む。
(闇は光を喰らい、光は闇を照らす。
そんな理屈で動いていた世界で――)
(リオの光だけが、その“法則外”にある……?)
◆
リオは手を伸ばした。
光がゆっくりと形を変え、
まるで“光の糸”のように細く長く伸びる。
異能とも魔術とも違う。
アンスロボスの術にも該当しない。
まるで――
世界の根源に触れるかのような、静かな力。
グレイの胸に触れた瞬間。
「うああああああああっッッ!」
闇が悲鳴を上げた。
黒い触手が激しく暴れ、グレイの体を逃がそうとする。
しかし、リオの光はそれらを“包み込むように”吸収していった。
――包摂。
光は闇を消滅させてはいない。
飲み込んだのでもない。
ただ“受け入れている”。
その異常さに、ノクスが激昂した。
――貴様……!
――光のくせに……闇を許容するなど……!
――世界の構造に逆らう気か……!
リオは振り返ることなく答える。
「知らないよ、構造なんて。
僕は……ただ、友達を助けたいだけだ!」
グレイの身体から闇が抜けていき、
ひとつずつ、リオの光へと吸収されていく。
すると胸の光核がわずかに明滅し、
“闇の残滓”を無害なエネルギーへと変換していった。
(こんな……力……)
リオ自身も驚きで震えていた。
◆
ついにグレイの身体から闇が消え――
彼はその場に崩れ落ちた。
「はぁ……はぁ……リオ……
なんで……そんなことが……できるんだよ……」
リオは微笑んだ。
「ごめん、説明できないや。
でも、助けられてよかった」
アイリスが泣きそうな笑顔で、結界を解いた。
カイは呆然と呟く。
「……リオ。
お前……本当に、あいつの“後継者”じゃないのかもな」
リオは答えられなかった。
英雄とは違う。
けれど、英雄の光を受け継いでいる気もした。
◆
だが――戦いは終わっていない。
ノクスの巨大な眼が、空全体を覆うほどに膨れ上がっていく。
――許さん……
――許さぬぞ……!
――光と闇の秩序を乱す者……
――世界を壊すのは貴様だ……!
リオははっきりと言い返した。
「世界なんて、壊させないよ。
僕の光は……守るためにあるんだ!」
天地が震え、
ノクスの眼が怒りの咆哮を上げた。
闇の稲妻が落ち、建物が崩れ、
空間そのものに亀裂が走る。
カイが叫んだ。
「やばいぞリオ! ノクスが本気で世界を割りに来てる!!」
アイリスが顔を青くする。
「このままだと……アストラじゃ済まない……
異界も地球も……どちらも崩壊する……!」
グレイが震えながら立ち上がる。
「リオ……行け……!
お前にしか……止められない……!」
リオは深く息を吸った。
胸の“光核”が再び強く脈動する。
(怖い……でも)
(僕は――選んだ)
光が、少年を包んだ。
眩しい白が、空に突き上がる。
カイとアイリスが目を手で覆う。
グレイが呟く。
「……リオ。
本当に……お前……何者なんだよ……」
そして――
光の柱が空を貫く。
ノクスが悲鳴を上げる。
――来い……リオォォォォ……!
――貴様の光核……私が奪ってやる……!
リオの目がゆっくりと開いた。
その瞳は、もう迷ってはいなかった。
「……行こう。
この光が、僕の答えだ。」
少年は――空へ跳んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます