第12話:覚醒光核(アウェイク・コア) ―新たなる力―

 世界は、崩れかけていた。


 黒い空――

 ノクスの“眼”が怒り狂ったように揺れ、

 空間そのものを軋ませている。


 地面は波打つように震え、

 アストラ学園の大樹すら闇に侵食されつつあった。


 その中心で、リオの身体が静かに光を放っていた。


 白く――

 しかし熱ではなく、柔らかな脈動。


 まるで心臓そのものが、光へと変わったようだった。



 「リオ、無茶だ……!

  お前、今の光……制御できてるのか!?」


 カイが声を張り上げる。

 炎を纏いつつも、その表情には焦りが浮かんでいた。


 リオは小さく首を振る。


 「わからない。

  でも……怖くはない」


 それが異様だった。


 この光は暴走でも、衝動でもない。

 確かに“自分の意思”が中心にある。


 胸の奥で、静かに響いていた。


 ――覚醒光核(アウェイク・コア)。


 英雄の記憶が言った“新しい光”。



 ノクスの巨大な眼が、こちらを射抜く。


 ――なぜだ……

 ――なぜ貴様の核は完全ではないのに……

 ――その力……!


 視界の端で、闇に呑まれかけているグレイが呻く。


 「リオ……来るな……!

  俺は……もう……」


 腕の先から黒い液体が滴るように闇が溢れ、

 空気すら腐らせている。


 アイリスが結界を張り直し、涙混じりに叫ぶ。


 「グレイが……闇に寄生されてるの!

  もしこれ以上触れたら、魂まで……!」


 リオは一歩、前に出た。


 「僕が……助ける」


 カイが立ち塞がるように叫ぶ。


 「馬鹿! そんなことしたらお前も闇に飲まれる!」


 リオは首を横に振った。


 「大丈夫。

  僕の光は……闇に“喰われない”。」


 カイは息を呑む。


 (闇は光を喰らい、光は闇を照らす。

  そんな理屈で動いていた世界で――)


 (リオの光だけが、その“法則外”にある……?)



 リオは手を伸ばした。


 光がゆっくりと形を変え、

 まるで“光の糸”のように細く長く伸びる。


 異能とも魔術とも違う。

 アンスロボスの術にも該当しない。


 まるで――

 世界の根源に触れるかのような、静かな力。


 グレイの胸に触れた瞬間。


 「うああああああああっッッ!」


 闇が悲鳴を上げた。


 黒い触手が激しく暴れ、グレイの体を逃がそうとする。

 しかし、リオの光はそれらを“包み込むように”吸収していった。


 ――包摂。


 光は闇を消滅させてはいない。

 飲み込んだのでもない。


 ただ“受け入れている”。


 その異常さに、ノクスが激昂した。


 ――貴様……!

 ――光のくせに……闇を許容するなど……!

 ――世界の構造に逆らう気か……!


 リオは振り返ることなく答える。


 「知らないよ、構造なんて。

  僕は……ただ、友達を助けたいだけだ!」


 グレイの身体から闇が抜けていき、

 ひとつずつ、リオの光へと吸収されていく。


 すると胸の光核がわずかに明滅し、

 “闇の残滓”を無害なエネルギーへと変換していった。


 (こんな……力……)


 リオ自身も驚きで震えていた。



 ついにグレイの身体から闇が消え――

 彼はその場に崩れ落ちた。


 「はぁ……はぁ……リオ……

  なんで……そんなことが……できるんだよ……」


 リオは微笑んだ。


 「ごめん、説明できないや。

  でも、助けられてよかった」


 アイリスが泣きそうな笑顔で、結界を解いた。


 カイは呆然と呟く。


 「……リオ。

  お前……本当に、あいつの“後継者”じゃないのかもな」


 リオは答えられなかった。


 英雄とは違う。

 けれど、英雄の光を受け継いでいる気もした。



 だが――戦いは終わっていない。


 ノクスの巨大な眼が、空全体を覆うほどに膨れ上がっていく。


 ――許さん……

 ――許さぬぞ……!

 ――光と闇の秩序を乱す者……

 ――世界を壊すのは貴様だ……!


 リオははっきりと言い返した。


 「世界なんて、壊させないよ。

  僕の光は……守るためにあるんだ!」


 天地が震え、

 ノクスの眼が怒りの咆哮を上げた。


 闇の稲妻が落ち、建物が崩れ、

 空間そのものに亀裂が走る。


 カイが叫んだ。


 「やばいぞリオ! ノクスが本気で世界を割りに来てる!!」


 アイリスが顔を青くする。


 「このままだと……アストラじゃ済まない……

  異界も地球も……どちらも崩壊する……!」


 グレイが震えながら立ち上がる。


 「リオ……行け……!

  お前にしか……止められない……!」


 リオは深く息を吸った。


 胸の“光核”が再び強く脈動する。


 (怖い……でも)


 (僕は――選んだ)


 光が、少年を包んだ。


 眩しい白が、空に突き上がる。


 カイとアイリスが目を手で覆う。


 グレイが呟く。


 「……リオ。

  本当に……お前……何者なんだよ……」


 そして――


 光の柱が空を貫く。


 ノクスが悲鳴を上げる。


 ――来い……リオォォォォ……!

 ――貴様の光核……私が奪ってやる……!


 リオの目がゆっくりと開いた。


 その瞳は、もう迷ってはいなかった。


 「……行こう。

  この光が、僕の答えだ。」


 少年は――空へ跳んだ。

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