異世界帰りの最強冒険者、ダンジョン配信で成り上がる。

内田 健

第1話 

 いつからだろうか。



『まったく、刀祢さんは魔法使いなんですから、前に出るなんて無茶ですよ』

『でも、俺がかばわなきゃアリシアが……』

『わたくしには結界があります。そのことはよくご存じでは?』

『……』

『忘れてたんですね!? 自分を大切にしない人には回復魔法かけてあげませんよ!』

『体が勝手に動いたん……ああ、ごめん、ごめんてアリシア!』



 ダンジョン攻略が楽しくなったのは。



『うおお、ボスドロップは黄金の宝箱だぜ刀祢!』

『マジかラクシード! 中身は!?』

『こいつは……うっそだろ!? 神剣グラムじゃねえか!』

『大当たりじゃん! これでオーガに金棒だな!』

『誰がオーガだ! 俺は熊獣人だ!』

『似たようなもんだろ馬鹿力が!』



 これは、自分が生き返るために課せられた果てしない旅のはずだった。

 はずだった、のに。



『助かったよリゼ』

『間一髪だったな刀祢。あれは危なかった』

『ふう、危うく共倒れになるところだった』

『ま、あたいの盾とお前の魔法があれば、こんなのどうってことないな!』

『どうってことあるだろ。お前、右腕ちぎれかけじゃないか』

『はっはっは! こんなのいつものことさ! この傷はお前を守り切った勲章さね!』



 最高の仲間たちと、命をチップに一つの目的に邁進する。

 それが、いつの間にかこんなに楽しくなっていたなんて。



『いや、すごいなリンデンの作戦は。あの小賢しいエルダーリッチがあたふたしてたぜ?』

『何を言いますか。この作戦のヒントを出したのは刀祢、あなたですよ』

『え? いつの間に?』

『そう、あれは200年……いえ、320年ほど前のことでしたか』

『俺もお前も産まれてねえよ! 答える気ないな!?』

『ふふふ、何てことない切っ掛けですよ。ですが、パーティの頭脳としては悔しいので秘密です』



 いつからか、ダンジョンを攻略することこそが楽しみに、そして目的になっていた。

 それが、有限であると分かっていながらも。



『ちっ、挟み撃ちかよ』

『なんだ、怖気づいたか刀祢よ。その岩陰なら隠れられるし、ついでに小便を漏らしてもバレんですむぞ』

『いちいち茶化さないと気が済まないのかシャルルは』

『それだけ覇気があれば問題ないな』

『撃ち「漏らし」は任せろ!』

『ふっ、言ってくれる。この儂が漏らすと思うてか!』



 そしてついに、目的である異世界最難関のダンジョン、ニブルヘイムを踏破した。

 踏破、してしまった。


『別れは済みましたか?』


 女神が、俺に問う。


「ああ、済んだよ」


 皆を癒してあげたい、その一心で回復魔法の腕を磨いた寒村のシスター、アリシア。

 勇敢でどんなに恐ろしい敵相手にもいの一番に切り込んで皆の柱だった、ラクシード。

 恐れることなくその身を敵の攻撃にさらし防ぐ守りのかなめのドワーフ、リゼ。

 どんな困難でも冷静沈着に、あらゆる魔法を駆使して助けたハイエルフ、リンデン。

 パーティの遊撃隊長、魔法にも近接戦闘にも長けたヴァンパイアの真祖、シャルル。


 最高の仲間たちのおかげだ。

 そもそももっとも近い踏破の記録で、410年も昔のこと。

 過去の踏破回数もたったの3回。

 もっとあったのかもしれないが、もっとも昔の記録は1300年も前のことだ。

 それ以上の記録は消失してしまったのか残っていなかった。

 歴代の踏破者を調べれば、最低でも数年はかかり、数十人単位のレギオンで挑んでなお、8割以上の仲間を失ってギリギリ踏破したらしいニブルヘイムダンジョン。

 俺たちは、たったの6人で、たったの半年で攻略することができた。

 もう二度と更新されないだろうほどの偉業である。

 仲間たちの顔が浮かんでは消える。


『心残りは、ないのですか?』

「ないわけないけどさ……」


 時間は有限だったのだ。

 異世界に転生して5年。

 それが生き返るタイムリミット。

 ニブルヘイムをクリアした時には、5年経過するまで残り3日となっていた。


「でも、無理なんだ」


 俺の心残りを叶える時間は残っていない。


「俺の心残りは、神の試練をクリアすることだからさ」


 ダンジョンランク最難関、SSランクに分類されるニブルヘイム、ヘルヘイムといったダンジョンよりもさらに困難なダンジョンがひとつだけある。

 そのダンジョンに名はない。

 ただただ深く、ただただ広く、ただただ暗い。

 一体で国を壊滅させかねないほどの、ニブルヘイムでも中ボスクラスの強大なモンスターが一山いくらの雑魚として群れている。

 難易度はニブルヘイムの数ランク上と言われている。

 1ランク上がるだけで、挑戦資格保持者が指数関数的に減っていくダンジョンで、ランク選定不可能とされているのだ。

 ニブルヘイム、ヘルヘイムより上だからSSSランクでいいだろう……そんな単純な話ではないのである。

 誰が呼んだか、神の試練。

 そんなダンジョンが、中央大陸のど真ん中に口をあけている。

 熱帯雨林が広がる大陸の中心線にありながら、ダンジョンの入り口周囲200キロは乾いた荒野となっている。

 そればかりか火山もないのにマグマがそこかしこから噴き出し大地を焼いており、死の土地となっているのだとか。

 世界中の学者たちが研究した結果、神の試練の影響ではないかという説が有力だそうだ。

 歴史上、一度たりとも踏破した記録が残されていない、踏破不可能、ランク不明ダンジョンである。

 ……これほど楽しそうなダンジョン、クリアせずにいられるか。

 否。

 否である!

 困難であればあるほど、踏破しがいがあるというものだ!

 ニブルヘイムだって、踏破どころか挑戦すら無謀だ無理だと笑われ後ろ指をさされてきた。

 それでも踏破したのだ。

 今や英雄だ。

 史上最高の冒険者の名をほしいままにした。

 俺なら、俺たちなら。

 神の試練だって、踏破できないなんて、思わない!


『ふふふ』


 熱弁してしまった。つい。

 恥ずかしい。

 女神がほほえましそうにしていた。


『インドア派で引っ込み思案だったあなたがここまで変わるのだから、人間とは面白いものです』

「……俺が一番驚いてるよ」


 でももう、それは叶わない。

 何のために命をかけてきたのか。

 地球に、日本に残してきてしまった家族のためだ。


『あなたの記憶は、消さなくていいのですね? 辛い別れの記憶が残りますよ』

「いいんだ。みんなとダンジョンを攻略した記憶も、俺の人生における自慢だから」

『……分かりました。あらためて。霧島刀祢、ありがとうございます』


 女神は腰を折り頭を下げた。


『邪神のエナジー供給源だったニブルヘイムが踏破されたおかげで、魔王を守っていた邪神の加護が弱まりました。じきに勇者が魔王を討伐し、世界には平和が訪れるでしょう』


 日本で生き返らせてもらうための対価。

 それが、いつの間にか邪神に利用されていたニブルヘイムを踏破し、その影響力を弱めることだった。

 達成できなければ蘇生はできず、この世界で生きていくことになっていた。

 それも非常に魅力的だったが、日本に残した両親と妹を捨てることは、俺にはできなかったのだ。


「こちらの世界が平和になることを祈ってるよ」

『ありがとうございます。あなたの第三の人生が、よきものになりますよう、お祈りいたします』


 女神は微笑んで、両手を前にかざした。

 神々しい光の粒が舞い踊る。

 女神の姿が薄くなっていく。

 もう、転送が始まっているのだ。


『……さか……こ…………ことが……』


 最後に、女神の焦った声が、聞こえたような気がした――

 

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